《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第72話「血の奴隷」
1000人――いや、もっといる。
大勢の人たちが、全裸で拘束されていた。手足を壁に貼り付けられて、まるでキリストみたいになっている。
しかしそれ以上に惨いのが、全身をチューブでつながれているということだ。口からチューブを通されて、排泄器官にもチューブが通されている。手、背中、腰、足――全身がチューブだらけだった。
血なまぐさい臭いが充満している。
「うっ」
あまりの惨状に、龍一郎は吐き気をおぼえた。
ついにこらえきれずに、石畳の床に嘔吐した。酸っぱい臭いが吹きつけてきた。口元についた吐しゃ物を、服の袖でぬぐった。
「はじめてこれを見た者は、たいていそうなるものだ。気にすることはない」
ケルゥ侯爵は言った。
多くの騎士たちが地下にいて、たちまち龍一郎の吐しゃ物も片付けられた。
「これはいったい?」
「私がかき集めてきて、奴隷や庶民どもだよ」
「何人いるんです?」
「1545人だ」
即答だった。
覚えているのだろう。
「こんなに集めて、どうしようって言うんです?」
その質問を無視して、ケルゥ侯爵は続けた。
「ここにいる者たちには自動的に栄養を送り込んで生かしている。排泄などもちゃんと外に出るようにできている」
良くできてるだろう――とケルゥ侯爵は満足気だ。
「ここにいる人たちは、生きてるんですか?」
「生きている者もいるが、意識はないが肉体だけは稼働している者がほとんどだな」
植物状態ということだ。
「これは、あまりに惨い」
張り付けられている者の中には、大人の男もいるし、ベルと同じぐらいの少女もいた。女性も裸だったか、色気なんか感じている余裕はなかった。ただただ、重苦しい狂気が立ち込めているかのようだった。
「これはある種の装置なのだ」
「装置?」
「そう。血質値の低い者の肉体を、血力のエネルギー装置としているのだ。ダメになったら、換えれば良い」
さきほどケルゥ侯爵は、ユートピアについて語った。
この光景は楽園にはほど遠い。
「こんなに血が必要ですか?」
「10年、20年先を見ているのではないのだ。私は100年、200年先のことを考えて、これを作った」
「100年先の血力まで貯蔵しておくつもりですか」
「まぁ、そんなところだ」
「もっとやり方があったはずです」
爽やかな態度にダマされていた。まさか、こんな残虐性を秘めているとは思ってもいなかった。
「たしかに別の手段もある」
そう言うとケルゥ侯爵のキラリと輝く双眸が、龍一郎を見た。
「なんです。別の手段って」
「君の血を使うことだ。リュウイチロウくんの血ならば、この数の代わりになるだろうからな」
龍一郎は胸を貫かれたかのような感覚を受けた。
「それは……」
たしかに、そうかもしれない。
龍一郎の血は減らない。いくらでもエネルギーとして使える。ただ、これだけの量をまかなうとなったら、さすがに龍一郎でもカラダに異常をきたす可能性は充分に考えられる。
血が減らない――と勝手に決めつけているが、「減りにくい」というだけかもしれないのだ。
「臆するだろう? つまり、そういうことだ」
「どういうことです?」
反抗心をかかえて、龍一郎はそう問うた。
「なににせよ、血力はどこからか調達しなくてはならん。高い血質を持つ者よりも、低い血質値を持つ者を使ったほうが良い。血力の高い君が血を出す必要はない。奴隷たちに出させればいい」
それは違う――と龍一郎は否定できなかった。
この1500人分のかわりに血を出すことに、たしかに躊躇をおぼえたからだ。
「離せッ。離せって!」
新しく地下に連れ込まれる少女がいた。見覚えがあった。たしか奴隷売買所にいた少女だ。インクとか言っていた。
インクは不意に龍一郎を見た。
「おい、あんたッ。あんたの血はすごいんだろ。なァ、助けてくれよッ」
そう声を投げつけられた。
ベルのときと同じように、救済の手を伸ばしたいところだが、彼女1人だけ助けるわけにもいかない。
龍一郎は耐え切れなくて、目をそらした。
――あんたはきっと逃げだすよ――
インクの言葉が、龍一郎の胸裏によみがえってきた。
大勢の人たちが、全裸で拘束されていた。手足を壁に貼り付けられて、まるでキリストみたいになっている。
しかしそれ以上に惨いのが、全身をチューブでつながれているということだ。口からチューブを通されて、排泄器官にもチューブが通されている。手、背中、腰、足――全身がチューブだらけだった。
血なまぐさい臭いが充満している。
「うっ」
あまりの惨状に、龍一郎は吐き気をおぼえた。
ついにこらえきれずに、石畳の床に嘔吐した。酸っぱい臭いが吹きつけてきた。口元についた吐しゃ物を、服の袖でぬぐった。
「はじめてこれを見た者は、たいていそうなるものだ。気にすることはない」
ケルゥ侯爵は言った。
多くの騎士たちが地下にいて、たちまち龍一郎の吐しゃ物も片付けられた。
「これはいったい?」
「私がかき集めてきて、奴隷や庶民どもだよ」
「何人いるんです?」
「1545人だ」
即答だった。
覚えているのだろう。
「こんなに集めて、どうしようって言うんです?」
その質問を無視して、ケルゥ侯爵は続けた。
「ここにいる者たちには自動的に栄養を送り込んで生かしている。排泄などもちゃんと外に出るようにできている」
良くできてるだろう――とケルゥ侯爵は満足気だ。
「ここにいる人たちは、生きてるんですか?」
「生きている者もいるが、意識はないが肉体だけは稼働している者がほとんどだな」
植物状態ということだ。
「これは、あまりに惨い」
張り付けられている者の中には、大人の男もいるし、ベルと同じぐらいの少女もいた。女性も裸だったか、色気なんか感じている余裕はなかった。ただただ、重苦しい狂気が立ち込めているかのようだった。
「これはある種の装置なのだ」
「装置?」
「そう。血質値の低い者の肉体を、血力のエネルギー装置としているのだ。ダメになったら、換えれば良い」
さきほどケルゥ侯爵は、ユートピアについて語った。
この光景は楽園にはほど遠い。
「こんなに血が必要ですか?」
「10年、20年先を見ているのではないのだ。私は100年、200年先のことを考えて、これを作った」
「100年先の血力まで貯蔵しておくつもりですか」
「まぁ、そんなところだ」
「もっとやり方があったはずです」
爽やかな態度にダマされていた。まさか、こんな残虐性を秘めているとは思ってもいなかった。
「たしかに別の手段もある」
そう言うとケルゥ侯爵のキラリと輝く双眸が、龍一郎を見た。
「なんです。別の手段って」
「君の血を使うことだ。リュウイチロウくんの血ならば、この数の代わりになるだろうからな」
龍一郎は胸を貫かれたかのような感覚を受けた。
「それは……」
たしかに、そうかもしれない。
龍一郎の血は減らない。いくらでもエネルギーとして使える。ただ、これだけの量をまかなうとなったら、さすがに龍一郎でもカラダに異常をきたす可能性は充分に考えられる。
血が減らない――と勝手に決めつけているが、「減りにくい」というだけかもしれないのだ。
「臆するだろう? つまり、そういうことだ」
「どういうことです?」
反抗心をかかえて、龍一郎はそう問うた。
「なににせよ、血力はどこからか調達しなくてはならん。高い血質を持つ者よりも、低い血質値を持つ者を使ったほうが良い。血力の高い君が血を出す必要はない。奴隷たちに出させればいい」
それは違う――と龍一郎は否定できなかった。
この1500人分のかわりに血を出すことに、たしかに躊躇をおぼえたからだ。
「離せッ。離せって!」
新しく地下に連れ込まれる少女がいた。見覚えがあった。たしか奴隷売買所にいた少女だ。インクとか言っていた。
インクは不意に龍一郎を見た。
「おい、あんたッ。あんたの血はすごいんだろ。なァ、助けてくれよッ」
そう声を投げつけられた。
ベルのときと同じように、救済の手を伸ばしたいところだが、彼女1人だけ助けるわけにもいかない。
龍一郎は耐え切れなくて、目をそらした。
――あんたはきっと逃げだすよ――
インクの言葉が、龍一郎の胸裏によみがえってきた。
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