《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第60話「ロッツェオ」

 入口は土間になっていた。板張りの廊下を抜けると、木造の居間にたどりついた。家具などもほとんど木造だった。



 村の建造物は、都市のものよりも貧民街の建築に似ている。鉄筋コンクリートよりも、木々の方が簡単に手にはいるのだろう。



 ロッツェオは、マチス侯爵のような人ではないようだ。部屋の照明を灯すのにも、みずからの血を用いていた。



「どうぞ。シュバルツ茶です」
 と、陶器の湯飲みを出してくれた。



 真っ黒なお茶だった。
 口に入れるのに抵抗を感じたが、意外とおいしかった。甘い葉の香りが口の中にひろがった。



 基本的には地球と同じ食文化だが、こういうレオーネ独自の食品もあるようだ。



 ベルは飲んでも良いのか迷っているようで、龍一郎の顔色をうかがっていた。龍一郎がうなずくと、ようやくベルもお茶に口をつけた。



「美味いでしょう? このシュバルツの土地でしかならん木の実なんですよ。この私が栽培を推進しましてね」
 と、ロッツェオは得意気に語った。



 どうやらそのスキンヘッドを叩くのが癖のようで、ペチペチとやっている。



「奴隷は使わないんですね」
 と、龍一郎のほうから問うた。



 貴族の部屋に奴隷がいないということに、違和感をおぼえた。



「私は奴隷を買ったりはせんのですよ。私は幸いにも血質値が50もありますからね。まぁ、自分でやったほうが効率が良いでしょう。それにこうして村番をやっておりますからな、奴隷を使うとあんまり評判がよろしくない」



「最近、ケルゥ侯爵がやたらと血を集めていることについては、何かご存知でしょうか」
 と、今度はエムールのほうから尋ねた。



 うーん、とロッツェオは首をひねった。



「自分の血を使いたがらない貴族も多いですからな。ケルゥ侯爵はほら、〝純血派〟とやらですから」
 とのことだ。



 特別何か知っているというわけではなさそうだ。



(それにしても――)
 と、龍一郎はロッツェオを見た。



 今まで出会ったことのないタイプの人だな、と感じたのだ。



 奴隷は血力として使うべきだと言うわけでもない。逆に、助けなければいけないと思っているわけでもなさそうだ。



 村の人たちと一緒にクワを振るって、木の実を育てたりしているのだ。悪人ではないだろう。



 今晩の護衛を頼みますとか、黒騎士の武勇伝と聞きたがった。純粋な少年のような人だという印象を受けた。



「すみません。ちょっと便所に。いやぁ、年を取ると、便所が近くなっていきませんな」



 はははは――と笑い声とともに、ロッツェオは奥の部屋へと消えて行った。



「変わった貴族ですね」
 と、龍一郎はつぶやいた。



「貴族の中にもロッツェオのような人は、少なからずおりますよ」
 と、エムールが応じた。



「そうなんですか?」



「このレオーネという世界は、当たり前のように奴隷を使ってますからね。それが常識になっているんですよ。だから、カワイソウぐらいには思うかもしれませんが、奴隷にたいして無関心な人もいます」



「なるほど」
 すこし合点がいく。



 龍一郎はもともと地球人だ。地球では奴隷がダメだと教えられてきた。日本では、奴隷制度がそもそもなかった。だから、奴隷にたいして否定的な意見を持つ。



 しかしもとからレオーネに住んでいる人は、これが当たり前なのだ。仕方ないことだと割り切っているのかもしれない。



「オレの感覚がすこしズレてるんでしょうかね」



「レオーネではズレているのかもしれません。ですが、そういう心を持つ者だって、少なくありません。私もそうですし、なによりフィルリア姫がその筆頭です」



「そうですね」



 人の心というのは難しい。



『青信号で渡る。赤信号で停まる』ということも、地球ならではの話だ。異世界に行けば、それが逆転していることだってあり得るのだ。もっともレオーネには、信号機が存在していないが。



 ホントウに自分の考えが正しいのか不安になる。



 ベルを見た。
 シュバルツ茶をすすっている。



 ベルは龍一郎を信頼してくれている。この薄幸の美少女をオレは助けたのだと思える。それが龍一郎の信念の支えになる。ベルがいてくれるからこそ、自分の存在を保っていられる。

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