《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第57話「シュバルツ村~道中~前編」

 エムールが、《血動車》を走らせてくれた。



 トラクターみたいな車の後部座席に、龍一郎とベルが座った。



 巨大種が現れるという村に、ベルを連れて行くのは迷いがあった。連れて行くのは危険だ。しかし、置いてゆくことも出来かねた。



 以前、ベルを宿屋に置いて行ったら、誘拐された。それがトラウマになっていた。もうベルから二度と目を離すまいと誓っていた。



 ガタゴトガタゴト。
《血動車》が揺れる。



 そのたびにベルの丸い肩が、龍一郎の二の腕に当たる。その感触を龍一郎は楽しんでいた。



 ふふっ――とエムールが笑った。



「なんです?」



「お2人のことは、詳しくフィルリア姫の手紙に書かれておりました。大変、仲がよろしいようで」



「そうですか?」



 龍一郎とベルの関係は繊細な問題だ。砕けそうな水晶玉を指の腹でなぞるかのごとく、龍一郎はベルの反応をうかがうようにしている。



 どこかチャンスがあれば、好きだという旨を伝えようと意識している。そんな繊細な問題に、「大変仲が良い」と他人から言われて、内心では酷くあわてた。



 その動揺を隠すために、あえて素っ気なく龍一郎は応じた。



「リュウイチロウさまは命がけでベルを守り、ベルは寝る間も惜しんでリュウイチロウさまの看病につとめていた――とか」



「ベルには感謝してますよ」



 龍一郎はそう言って、サッとベルのほうに視線を走らせた。



 ベルは何を考えているのか、無表情で正面に顔を向けていた。表情が変わらないのはいつものことだ。



 いまだ笑うときは、指で頬をつりあげなければいけないぐらいだ。



「フィルリア姫は庶民と奴隷の関係はそうあるべきだと日々、訴えられております。この場合、奴隷という言葉を使うのは変かもしれませんが」



「フィルリア姫は誠実で、心根の優しい方なんでしょう」



 接していて、心のキレイな人だという印象を受けた。



「そうですね。私のもっとも敬愛しているお人です」
 そう言うとエムールが大きくハンドルを切った。



 街道を曲がる。



「オレはそのフィルリア姫に言われてきたんですが、具体的には何をすれば良いんですかね? 巨大種とやらと倒せば良いんですか?」



「巨大種を倒してもらいたいというのは、私の個人的な依頼です。申し訳ありません」



「いえ、それは良いんですが……」



 じゃあ、断れば良かった――とチラリと思った。



 クロエイの恐ろしさは身に染みている。ベルがいる以上は、あまり危険なことに首を突っ込みたくないというのが本音だ。



(しかし、まぁ……)


 ここまで来てしまったからには付き合うしかないか、と思いなおした。

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