《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第51話「フィルリア姫の頼み」

 領主館。



 クロエイに襲われた騒動がウソみたいに整然としていた。クロエイに襲われたときは、壁やら家具やらが壊されていたはずだ。すべて片付いている。



 領主館のホールは吹き抜けになっていた。1階から2階を見ることができた。2階からは、フィルリア姫がのぞきこんでいた。



「どうも」
 と、龍一郎は会釈した。



 フィルリア姫は微笑みを浮かべて、階段を下りてきた。



 ホントウに美しい人だ。



 こんなに美しい人を、龍一郎は地球では、見たことがなかった。プラチナブロンドの髪を、ロングボブにしていて、前髪を切りそろえている。目鼻立ちがハッキリしているので、華やかさが際立っている。



 この人のダンナになる男はいったいどんな男だろうか――想像すらできない。1人の男の手におさまりきる美貌ではない。



 ふつうの美人というのは人を惹きつけるものだと思うが、あまりに美しすぎると逆に気圧されるものを感じる。



「待っていたぞ」
 と、握手を求めてきた。



 にぎりかえした。



 とても剣をやっている人の手とは思えない。細くしなやかな指をしている。



「お招きいただき、ありがとうございます。それで、オレに用事というのは?」



「うむ。この都市の後任の領主が、王都のほうで決まったのだ。そろそろ私は王都のほうに戻ろうと思ってな」



「そうでしたか」



「その前に、ひとつリュウイチロウに頼んでおきたいことがある」



「なんです?」



 専属騎士になるという話は、お断りですよ――と龍一郎は先手を打った。フィルリア姫は、龍一郎を自分の専属騎士にしようという勧誘が激しいのだ。



 フィルリア姫は苦笑して見せた。
 愛らしい八重歯がのぞく。



「リュウイチロウは、その奴隷の娘が気になっているのだろう。今のところは、諦めるつもりだ」



 フィルリア姫がそう言うと、ベルは身をこわばらせて、龍一郎の背中に隠れた。どうやらベルは、フィルリア姫が苦手なようだった。



「じゃあ、頼みというのは?」
「北へ行って欲しいのだ」



 フィルリア姫は急に幼い少女のような、上目使いを送ってきた。



「そりゃまた、どうしてですか?」



「恥ずかしいことに、このレオーネという世界は、血質値によって人の価値が決まってしまう」



 と、フィルリア姫は眉間にシワを寄せた。



「ええ」
 それは、龍一郎も重々承知している。



「北のセリヌイアという都市は、特に酷くてな。まぁ、都市を治めている領主は、酷い差別主義者だから――というのもあるが、なにやら不穏な動きがあるのだ」



「偵察して来いということですか」



「出来れば、虐げられている者たちのチカラになってやって欲しい」



 どうしようか――と思った。



 龍一郎は今のところ、この都市での生活に満足している。生活に困ることは何もない。別の都市に行くとなると、ベルの足のこともある。ベルは虐待を受けていたせいで、ちゃんと歩くことができないのだ。



 迷った。



「その北のほうは、フィルリア姫のチカラで何とかならないんですか?」



 フィルリア姫は、沈鬱な表情でかぶりをふった。
 髪が揺れ、花のような香りが散る。



「私は第三王女ということもあり、しかも養女だ。権力は非常に小さい。〝純血派〟の権力のほうがよほど大きい」



「なんですか、それ?」



「政治的な問題だ。差別主義を肯定する貴族たちの派閥だよ。北のセリヌイアの領主も、〝純血派〟のひとりだ」



 政治に関しては、まだ異世界経験が浅いということもあって、よくわからない。



「はぁ」
 と、あいまいな返答をした。



 ふいに、フィルリア姫は、龍一郎の頬に手をあてがってきた。なんのためらいもない、挙動だった。この美しい人の指が、自分の頬に当てられているのだと意識すると、緊張をおぼえた。



 その緊張が伝わったかのように、ベルのしがみついてくるチカラが強まった。



「私は君を信用している。この世界で、血質値にこだわらずに人を見るという考え方ができるのは、非常に稀だ。虐げられている人間がたくさんいる。私は、そういった者たちを救いたいと考えている」



「ええ」
 それはもちろんだ。



 この世界には、第2、第3のベルがいることだろう。



 この都市でクロエイとなり、死んでいったクラウス・ヒューリーのことが思い出される。



 彼もまた、この世界を変えたいのだと主張していた。クラウスの意見は理想論であり、龍一郎の意見とはすこし違っていた。それでも友の意思は、ちゃんと継いでいきたいとは思っている。



「私は龍神族だが、第三王女ということもあり、自分の動かせる部下が非常に少ないのだ。国王は、私を常に手元に置いておきたがっているしな」



 フィルリア姫は龍神族だ。



 フィルリア姫の血には、暗黒病を治すチカラがある。常に手元に置いておきたがるのは、わかる気もする。



 龍一郎は、ベルに目をやった。



「私は大丈夫ですよ」
 と、ベルは言った。



 結局、フィルリア姫の頼みを断りきれず、龍一郎とベルは北のセリヌイアという都市へ行くことになった。



 フィルリア姫が、2人分の通行手形を書いてくれた。

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