《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第48話「ベルの気持ちⅢ」
氷水を受け取って、ふたたび3階に戻る。
リュウイチロウは相変わらず、ボンヤリとした顔をして、ベッドに倒れていた。
(もしもこの人が、この病で死んでしまったら……)
宿屋の主人が、言っていたようなことになる。
リュウイチロウに「お前はもう要らない」と言われ、捨てられても、やはりベルは地獄に落ちることになる。
そう思うと、悲懐が猛然とこみあげてきた。
「わっ」
と、リュウイチロウに泣きついた。
「ど、どうした? 誰かに乱暴されたのか?」
(この人は、いつも真っ先に私のことを心配してくれる)
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。
「ごめん。なんだか泣きたくなって」
「もしかして、宿屋の主人に酷いこと言われたんじゃないか? ここの主人、偏屈だから。あんまり真剣に受け取らないほうが良いよ」
「うん」
コンコン
トビラがノックされた。
「はい」
と、ベルが応じた。
入ってきたのは――さっきウワサをしていた――フィルリア姫だった。
ベルは頭を下げた。
フィルリア姫は王族だ。ベルなんかとは、比べものにならないぐらい位の高い人だ。
位だけではない。
発せられる雰囲気もぜんぜん違う。
フィルリア姫が太陽だとしたら、ベルは雨の日の夜といった感じだ。
近くにいるだけでも、居たたまれない気持になった。身を退いたベルなど構いもせずに、フィルリア姫はリュウイチロウの脇に腰かけた。
「風邪を引いたそうだな」
「はい」
「見舞いの品だ」
フィルリア姫はそう言ってリンゴを剥きはじめた。フィルリア姫がリンゴを剥く手さばきは見事なものだった。リンゴぐらい私にも剥ける――とベルは勝手な対抗心を燃やしていた。
フィルリア姫を剥いたリンゴが、リュウイチロウの口に運ばれていく。その一連の動作を見ていると、胸が苦しくなった。
なぜこんなにも苦しいのだろうか。
その感情の正体が、ベルにはわからなかった。
ただ強く強く胸が締め付けられるのだった。
涙が出そうになるのを、こらえなければならなかった。
「都市のほうはどうなったんでしょうか」
と、リュウイチロウはポツリとつぶやいた。
フィルリア姫が応じる。
「太陽の出てるうちに修復作業に入るつもりだ。領主がいなくなったから、しばらくは私が一時的に、この都市の運営を仕切ることになった」
「フィルリア姫なら、上手くできますよ」
リュウイチロウは満足そうに微笑んだ。
「病人に気づかわれるとはな。うちに良い医者がいるんだ。城のほうから寄越してやろう」
「いえ。そんなに重症じゃないのでご心配なく。オレにはベルが付いてくれてますから」
リュウイチロウがそう言うと、フィルリア姫が強い視線をベルに投げかけてきた。
その目の奥には、あきらかに敵意が含まれていた。まるで、視線でカラダを斬られたかのようだった。
「今日のところは、私は退散しよう」
「お見舞い、ありがとうございます」
「ああ。しかし、また来るからな。私は君を騎士にするという話を諦めたわけではない。そっちの奴隷の娘も、はやく良い主人を見つけることだな」
はい――とベルはうなずいた。
それは暗に、リュウイチロウはお前にはやらないぞという宣戦布告だった。
どうして私のような小汚い女が、あんな華やかな美人から宣戦布告されなければならないのかと不思議だった。
リュウイチロウは相変わらず、ボンヤリとした顔をして、ベッドに倒れていた。
(もしもこの人が、この病で死んでしまったら……)
宿屋の主人が、言っていたようなことになる。
リュウイチロウに「お前はもう要らない」と言われ、捨てられても、やはりベルは地獄に落ちることになる。
そう思うと、悲懐が猛然とこみあげてきた。
「わっ」
と、リュウイチロウに泣きついた。
「ど、どうした? 誰かに乱暴されたのか?」
(この人は、いつも真っ先に私のことを心配してくれる)
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。
「ごめん。なんだか泣きたくなって」
「もしかして、宿屋の主人に酷いこと言われたんじゃないか? ここの主人、偏屈だから。あんまり真剣に受け取らないほうが良いよ」
「うん」
コンコン
トビラがノックされた。
「はい」
と、ベルが応じた。
入ってきたのは――さっきウワサをしていた――フィルリア姫だった。
ベルは頭を下げた。
フィルリア姫は王族だ。ベルなんかとは、比べものにならないぐらい位の高い人だ。
位だけではない。
発せられる雰囲気もぜんぜん違う。
フィルリア姫が太陽だとしたら、ベルは雨の日の夜といった感じだ。
近くにいるだけでも、居たたまれない気持になった。身を退いたベルなど構いもせずに、フィルリア姫はリュウイチロウの脇に腰かけた。
「風邪を引いたそうだな」
「はい」
「見舞いの品だ」
フィルリア姫はそう言ってリンゴを剥きはじめた。フィルリア姫がリンゴを剥く手さばきは見事なものだった。リンゴぐらい私にも剥ける――とベルは勝手な対抗心を燃やしていた。
フィルリア姫を剥いたリンゴが、リュウイチロウの口に運ばれていく。その一連の動作を見ていると、胸が苦しくなった。
なぜこんなにも苦しいのだろうか。
その感情の正体が、ベルにはわからなかった。
ただ強く強く胸が締め付けられるのだった。
涙が出そうになるのを、こらえなければならなかった。
「都市のほうはどうなったんでしょうか」
と、リュウイチロウはポツリとつぶやいた。
フィルリア姫が応じる。
「太陽の出てるうちに修復作業に入るつもりだ。領主がいなくなったから、しばらくは私が一時的に、この都市の運営を仕切ることになった」
「フィルリア姫なら、上手くできますよ」
リュウイチロウは満足そうに微笑んだ。
「病人に気づかわれるとはな。うちに良い医者がいるんだ。城のほうから寄越してやろう」
「いえ。そんなに重症じゃないのでご心配なく。オレにはベルが付いてくれてますから」
リュウイチロウがそう言うと、フィルリア姫が強い視線をベルに投げかけてきた。
その目の奥には、あきらかに敵意が含まれていた。まるで、視線でカラダを斬られたかのようだった。
「今日のところは、私は退散しよう」
「お見舞い、ありがとうございます」
「ああ。しかし、また来るからな。私は君を騎士にするという話を諦めたわけではない。そっちの奴隷の娘も、はやく良い主人を見つけることだな」
はい――とベルはうなずいた。
それは暗に、リュウイチロウはお前にはやらないぞという宣戦布告だった。
どうして私のような小汚い女が、あんな華やかな美人から宣戦布告されなければならないのかと不思議だった。
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