《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第45話「フィルリア・フィルデルン第三王女」

 フィルリア・フィルデルンには、幼いころの記憶がない。



 気づくとレオーネという世界に足をつけていた。



 龍神族にはみんな、同じようなことがあるらしい。



 たとえば、記憶に欠落があったり、知識に偏りがあったり、常識を持ち合わせていなかったり……。



 ただ、フィルリアの記憶には、龍が飛びまわる光景が薄っすらと残っていた。そこから、古代人なのではないかなどと言われたりもした。



(私と同じ、龍神族か)



 そう思って、目の前の青年の背中を見つめた。同じ龍神族というだけで、親近感が沸く。それにフィルリアにとって、非常に好印象の青年だった。



 この世界の人間は、血質値の高低によって人の価値を決める。高いものは崇められて、低い者は蔑まれる傾向が非常に強い。



 国王に気に要られて第三王女の地位につけたのも、フィルリアの血質値が高かったためだ。



 その価値観に、フィルリアは賛同できなかった。みずからの血質値を振りかざすことも、他人を見下すことも、あまり気持が良いこととは思えなかった。




 今まで専属の騎士を選ばなかったのも、それが原因だ。王女の騎士になるような人物は、もちろん血質値が高いことが条件となる。しかし、血質値が高い人間であればあるほど、他人を見下す傾向が強かった。



(この青年であれば)



 騎士にしても良いかと思う。



 とりあえず今は、部屋に入ってきたクロエイを処理しなければならない。そう思ったやさき――。



 BANG!



 リュウイチロウの《血影銃》が、血を吹いた。



 銃身から拡散するように放たれた、血の弾丸は2匹のクロエイに浴びせられた。考えていた以上の血を噴出しており、部屋の壁面が真っ赤に染まっていた。



「キェェェッ」
 クロエイが断末魔の声をあげた。



 闇の衣を脱がされて、スクラトアとマチス侯爵の生首がゴロンと転がり落ちた。


 
「一撃だと……」
 これにはフィルリアも驚愕を覚えた。



 スクラトアはともかく、マチス侯爵の血質値は王族の者に肉薄する数値を誇っていたはずだ。



 順当に行くと、公爵の爵位を与えられていたはずの人物だ。そのマチス侯爵のクロエイは尋常ではない強さを誇っているはずだった。



 いや。



 リュウイチロウの血質値は200だ。血質計が200までしか計れないようになっている。200以上という可能性だって考えられる。



 そんな人物が放った弾丸だ。一撃で仕留めることが出来るのはトウゼンと言えば、トウゼンだ。



 しかも、ただの《血影銃》ではない。一度に大量の血を噴出するシロモノだ。



「すばらしいな」



 フィルリア姫からは、リュウイチロウの背中が見えていた。



 その背中は決して大きなものではなかった。けれど、我が身をあずけても良いと思えるほどには、たくましいものだった。



「この銃のおかげです。オレはホントウに血が減らないみたいですし、オレにピッタリの銃です」



 リュウイチロウはそう言って、銃身をナでていた。



 フィルリアは、そんなリュウイチロウに見惚れた。



 血質値は1流、度胸もある。正義感も強い。奴隷を見下すようなことはない。むしろ、女奴隷に本気で惚れている感がある。《血影銃》の扱いはまだ未熟な面があるが、後々教えていけば良い。



 自分の騎士に申し分ない。
 むしろ、これ以上ないほどの逸材だ。



「君の実力はスバラシイものだ。ちゃんと武器の扱いを覚えれば、きっと王国随一の騎士になれるだろう」



「そうですかね」
 照れるように後頭部をかいている。



 華のある顔立ちではない。いかにも庶民といった容姿だが、ブ男というわけでもない。人を見下すような腐臭漂う貴族どもに比べたら、充分魅力的だった。



「さきほど一度、お誘いしたが、ぜひともこの私の専属騎士になってもらいたい」



 しばらくリュウイチロウは考えてくれたようだ。



 しかし――。



「せっかくですけど、お断りさせていただきます」



「私では不満か?」



「いえ。そういうわけではないです。フィルリア姫はすごく良い人だと思います。見た目もすごく……その、美人ですし」



 フィルリアは美人だと言われ慣れている。近寄ってくる男どもは、たいていそう言ってくる。



 お世辞だったり、妙に粘着質な視線を投げかけられたとしても、その言葉は嬉しいものだ。が、今更、恥じらうようなことはない。ない――はずだった。が、心臓が軽く跳躍するような感覚をおぼえた。



 今日1日とはいえ、ともに戦って背中をあずけた。その経験から、フィルリアとリュウイチロウの心の距離が、グッと近くなっているようだった。



「まぁ、私の容姿をホめてくる男は多い」
 照れ隠しにそう言った。



「ええ。ですが、専属騎士になったら、オレはフィルリア姫を護衛したり、兵士として闘ったりするわけでしょう」



「ああ」



 訓練を積ませたいと、個人的にも思っている。
 この男は、訓練しだいで化ける。
 確信がある。



「ベルを放ったらかしには出来ませんから」
「……そうか」



 チューブにつながされている女に目をやる。あんな痩せこけて、傷だらけの女のどこが良いのか――と一瞬だけだったが、暗い気持を抱いてしまった。



 フィルリアとて人間だ。この憎悪は、人を見下すときに発生するものではない。



 純粋な、嫉妬だ。



「また、気が変わったら連絡をくれ。ゼルン王国第三王女当てに手紙を出してくれれば、私のもとに届く」



「はい。お誘いありがとうございました」
「私はまだ、諦めたわけではない」



 黒洞々たる外の闇に、ほんのりと明かりを見出した。黒雲が開かれて、月明かりを落としはじめていた。6つの月が、闇を払拭していく。



「雨、あがったみたいですね」



「暁光だ。この程度の明かりでは、クロエイを追い払うことは出来ないが、とはいえ、動きは沈静化するはずだからな」



 戦いはまだ終わっていない。
 夜明けまで籠城戦だ。



 しかし、フィルリアはそこまで深刻には考えていなかった。《血影銃―タイプ0》を構えているリュウイチロウの姿が、頼もしく見えていたからだ。

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