《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第36話「ベルの行方」
ベルがさらわれた。
龍一郎はそのことに絶望を抱いていた。龍一郎はまだ学生だ。自分の手で何かを守ったことなどない。
毎日の学校生活に、ただ流れていく日々だった。
レオーネに来て、ひとつだけ守ってみようと思った相手がいた。あの笑顔が忘れられなくて、彼女のことをこの世の荒波からかばってやろうと決めた。
なのに――。
「守れなかった」
宿屋のベッドに、龍一郎は座り込んでいた。
「まだ絶望することはない。そのベルという少女を誘拐した何者かは、必ず何かしらのアクションを起こすはずだ」
フィルリア姫は向かいにあるベッドに腰かけていた。
ただの安宿なのにフィルリア姫がいると、まるで屋敷の一室である気がしてくる。全身から華やかさを放っているのだった。
「ですが、ベルはきっとまた心を閉ざしてしまいます」
わずかだが、ベルは感情を見せるようになっていた。心を閉じ込めていた殻が少しずつ剥がれていっていたようにも思う。ここで、また酷いことをされたら、ベルの心が壊れてしまうような気がした。
「生きていれば良い。生きているかぎり、幸運が訪れる瞬間は必ずある」
フィルリア姫は、まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
それに――とフィルリア姫は続けた。
「誘拐されたからといって、諦めたわけではなかろう?」
「それはもちろん」
助けに行くつもりだ。
しかし、いったいどこに連れて行かれたのか。
「奴隷がさらわれるケースは、だいたい娼館に売られていることなどが多い」
「娼館ですか」
「他人の奴隷と良い仲になって、女を連れ出すのだ。そして女を売って利益を得る。今で言うと、通貨として使われている血を得るわけだ。そして男はトンズラする。俗に言う、女チラシと言うやつだな」
フィルリア姫は渋い顔をして言った。
この迫力さえある気品あふれるお姫さまは、そういった下卑た行為を嫌っているのだろう。
そう言えば――と龍一郎は思い出す。
《血動車》に乗って、グランドリオンにはじめて来たときのことだ。そういう言い方をすると、古い昔のことのように思えるが、つい今朝がたのことだ。
ベルは「売り飛ばさないでくれ」と懇願してきた。あの時のベルは、その女チラシの危惧をしていたということだろう。
「私が思いつくのは、それぐらいだが、あとは私怨だな」
「私怨ですか」
「他人の奴隷を盗んだ場合、もとの持ち主が奪い返しに来ることもある。その場合は、逃げた奴隷の頬に釘をさして、二度と逃げられないようにリードでつなぎ止めるのが主流だが」
想像するだけでも胸が痛む。
だが、最悪なことにそのケースはおおいに考えられた。もとはと言うと、ソトロフ男爵の家から、ベルを誘拐するような形で連れてきたのだ。
あまり他人に言いたくないが、今はウソ偽りなく報告するべきだろう。
「そうかもしれません。はじめにベルを誘拐してきたのは、オレのほうですから」
「気に病むことはない。君の場合は誘拐ではなくて、保護だ」
そうだろう――とフィルリア姫は龍一郎の顔をのぞきこんできた。
思った以上に、顔が近い。フィルリア姫の花の香りがする吐息が、龍一郎の鼻の頭をくすぐった。あわてて顔を離した。
フィルリア姫にたいして青ずっぱい感情を抱くと、不思議なことに、なぜかベルにたいする申し訳なさが募った。
「保護のつもりだったんですけど」
「すると、ソトロフ男爵の家に連れ戻されているということかな。しかし、ソトロフ男爵はたしかケルネ村に派遣されていたはずだが」
と、フィルリア姫は考えるように首をかしげた。
「ええ」
ケルネ村で何があったのかを、事細かくフィルリア姫に伝えた。
「なるほど。ケルネ村はクロエイに襲われたのか。なら、ケルネ村に戻っている可能性は低いな」
「そうですね」
「だいたいこの雨だ。都市の外は真っ暗だからな。出歩くにはあまりに危険だ。誘拐犯もおそらくまだこのグランドリオンの中にいるはずだ」
「オレ、娼館とやらを見てきます」
「私も行こう」
「よろしくお願いします」
龍一郎はそのことに絶望を抱いていた。龍一郎はまだ学生だ。自分の手で何かを守ったことなどない。
毎日の学校生活に、ただ流れていく日々だった。
レオーネに来て、ひとつだけ守ってみようと思った相手がいた。あの笑顔が忘れられなくて、彼女のことをこの世の荒波からかばってやろうと決めた。
なのに――。
「守れなかった」
宿屋のベッドに、龍一郎は座り込んでいた。
「まだ絶望することはない。そのベルという少女を誘拐した何者かは、必ず何かしらのアクションを起こすはずだ」
フィルリア姫は向かいにあるベッドに腰かけていた。
ただの安宿なのにフィルリア姫がいると、まるで屋敷の一室である気がしてくる。全身から華やかさを放っているのだった。
「ですが、ベルはきっとまた心を閉ざしてしまいます」
わずかだが、ベルは感情を見せるようになっていた。心を閉じ込めていた殻が少しずつ剥がれていっていたようにも思う。ここで、また酷いことをされたら、ベルの心が壊れてしまうような気がした。
「生きていれば良い。生きているかぎり、幸運が訪れる瞬間は必ずある」
フィルリア姫は、まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
それに――とフィルリア姫は続けた。
「誘拐されたからといって、諦めたわけではなかろう?」
「それはもちろん」
助けに行くつもりだ。
しかし、いったいどこに連れて行かれたのか。
「奴隷がさらわれるケースは、だいたい娼館に売られていることなどが多い」
「娼館ですか」
「他人の奴隷と良い仲になって、女を連れ出すのだ。そして女を売って利益を得る。今で言うと、通貨として使われている血を得るわけだ。そして男はトンズラする。俗に言う、女チラシと言うやつだな」
フィルリア姫は渋い顔をして言った。
この迫力さえある気品あふれるお姫さまは、そういった下卑た行為を嫌っているのだろう。
そう言えば――と龍一郎は思い出す。
《血動車》に乗って、グランドリオンにはじめて来たときのことだ。そういう言い方をすると、古い昔のことのように思えるが、つい今朝がたのことだ。
ベルは「売り飛ばさないでくれ」と懇願してきた。あの時のベルは、その女チラシの危惧をしていたということだろう。
「私が思いつくのは、それぐらいだが、あとは私怨だな」
「私怨ですか」
「他人の奴隷を盗んだ場合、もとの持ち主が奪い返しに来ることもある。その場合は、逃げた奴隷の頬に釘をさして、二度と逃げられないようにリードでつなぎ止めるのが主流だが」
想像するだけでも胸が痛む。
だが、最悪なことにそのケースはおおいに考えられた。もとはと言うと、ソトロフ男爵の家から、ベルを誘拐するような形で連れてきたのだ。
あまり他人に言いたくないが、今はウソ偽りなく報告するべきだろう。
「そうかもしれません。はじめにベルを誘拐してきたのは、オレのほうですから」
「気に病むことはない。君の場合は誘拐ではなくて、保護だ」
そうだろう――とフィルリア姫は龍一郎の顔をのぞきこんできた。
思った以上に、顔が近い。フィルリア姫の花の香りがする吐息が、龍一郎の鼻の頭をくすぐった。あわてて顔を離した。
フィルリア姫にたいして青ずっぱい感情を抱くと、不思議なことに、なぜかベルにたいする申し訳なさが募った。
「保護のつもりだったんですけど」
「すると、ソトロフ男爵の家に連れ戻されているということかな。しかし、ソトロフ男爵はたしかケルネ村に派遣されていたはずだが」
と、フィルリア姫は考えるように首をかしげた。
「ええ」
ケルネ村で何があったのかを、事細かくフィルリア姫に伝えた。
「なるほど。ケルネ村はクロエイに襲われたのか。なら、ケルネ村に戻っている可能性は低いな」
「そうですね」
「だいたいこの雨だ。都市の外は真っ暗だからな。出歩くにはあまりに危険だ。誘拐犯もおそらくまだこのグランドリオンの中にいるはずだ」
「オレ、娼館とやらを見てきます」
「私も行こう」
「よろしくお願いします」
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