《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第30話「わきでるクロエイ」

 宿屋を出た。



 一瞬感動を覚えた。



 空が暗いから夜だというのはわかる。だが、まるで夜だと感じさせないぐらいに、世界は光に満ちていた。



 都市の城壁の向こうからは、光があふれている。城壁に設置された外灯も燦然さんぜんと輝いている。貧民街も、負けじと明かりを放っていた。



 しかし、悲しい光だった。



 都市のほうは奴隷たちの血を使って、光を放っているのだ。かなりの人員が裂かれているのだろう。



「貧民街のほうは誰の血を使って、明かりを発しているんだ?」



「みんな協力しあって、明かりを保っているんだ。クロエイが沸かないようにな。オレも自分の血を分けている」



 クラウスが、そう説明してくれた。



 奴隷を虐げてムリに血を採るよりかは、平和的だ。



「じゃあ、どうしてクロエイが町中で沸いてるんだ?」



 雨が降っているとはいえ、これだけの明かりを保っているなら沸かないはずだ。クロエイは明かりのない暗闇で生まれてくると聞いている。



「誰かが、外灯のチューブを切ってやがるんだよ」



 こっちだ――とクラウスが走った。



 雨に打たれながら、クラウスについて行った。



 クラウスの真紅の髪も濡れてしなっていた。龍一郎の髪も同じく濡れそぼっているはずだ。足元が酷くぬかるんでいた。滑らないように気を付けて走る必要があった。



 クラウスに案内された一角。



 そこは広間になっていた。しかし、その広間だけは異様に暗い。近くにある建物もすべて明かりを失っている。まるでその一角で、暗闇が醸造じょうぞうされているかのようだった。異様に粘着質な暗闇が漂っている。



「これを見ろ」



 クラウスは近くにあった外灯を指差した。そこから伸びているはずのチューブが、根本から切り落とされていた。



「人為的に誰かが切ったのか?」



「このチューブは龍の血管だ。簡単に切れるようなもんじゃない。誰かが刃物で切ったに違いない」



「でも、誰がそんなことを?」



「わからん。わからんが、頭がオカシイやつの仕業としか思えない。こんなことをしたら――」



 クラウスのその言葉の続きは、目の前の現象が証明していた。



 人の形をした黒い影が、闇から出産されていた。顔面に口しかないオゾマシイ生物だ。その口からは長い舌が伸びていた。



 1匹や2匹ではない。
 10匹、20匹――。
 次から次へと生まれている。



「すごい数だけど……」
 思わず後ずさりをする。



「クロエイは明かりを嫌うが、退治することは出来ない。退治するには血質値30以上の血が必要だ」



「あれを倒せば良いのか」



「都市の人たちが、外灯のかわりになる明かりを用意してくれている。その間、ここを抑える」



「ここだけで良いのか?」



「庶民の中にも血質値がそこそこ高い者もいる。別の道は彼らが封鎖してくれている」



「わかった」



 龍一郎は《血影銃》のチューブを袖にあいている穴から刺しこんだ。腕に針がささる。瞬間。チューブに血が流れてゆく。



 引き金をしぼった。



 銃口からはカラクレナイの弾丸が射出される。



 けぶる雨の中をかいくぐり、血の弾丸は1匹のクロエイを貫いた。貫かれたクロエイは苦しそうに悶える。そして渦を巻くようにして溶けていった。



「さすが血質値200は違うな」



 そう言う、クラウスは大剣を装備していた。クレイモアというのだろうか。人の丈ほどもある大剣だ。



「剣で戦えるのか?」
「ただの剣じゃない」



 大剣からもチューブが伸びている。クラウスはチューブを腕に刺しこんだ。すると大剣は仄赤く発光した。



「血を吸う大剣。《吸血剣》だ」



 跳びかかってくるクロエイを、クラウスがなぎ払った。大剣を受けたクロエイは弾き飛ばされていた。



 一撃で仕留めることは出来なかったようだが、ダメージを負わせることは出来たようだ。



 クロエイは出血していた。いや。血を流しているのではない。よく見ると、黒い影から、墨汁のような闇をこぼしているのだった。



「すごいな」



 クロエイ相手に、よく剣で戦おうと思える。あんなバケモノには近づきたくもない。



 下手をすると、こちらの影を食われるのだ。影を食われたら、その者もクロエイになる。すなわち暗黒病だ。



「《血影銃》は優秀な武器だが、血の消費が激しい。特に、血質値が低い者にとっては使いにくい武器なんだよ」



「そうなのか」



 たしかに一発一発に血を使っている。乱用は出来ないかもしれない。



「気を抜くなよ。来るぞ」
「わかってる」

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