《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第22話「マチス・ヒューリー侯爵Ⅱ」
マチスの息子は、家を出ている。
貴族のやり方が肌に合わないとか言って、今は貧民街のほうで暮らしていると聞いている。正確な場所はつかめていない。
貴族の息子がそんなことでどうするのか。息子のことを考えると、腹が立ってくる。
フィルリア姫が来たときには、息子にも挨拶をさせるつもりだ。自分の跡継ぎと王室をつないでおくのは、トウゼンの策だ。
「いかんいかん」
呟く。
フィルリア姫のことや、息子のことも大切だが、とりあえず、目下の問題に着手しなければならない。
血質値200とかいうバケモノのことだ。
いちおう失礼のないように応接間に通そうと思った。
「おい」
メイドのひとりに声をかけた。
「なんでしょうか?」
「奴隷を1人用意しろ。応接間の明かりをつける必要がある」
「はい」
メイドがすぐに、奴隷をひとり連れてきた。この領主館では、30人の奴隷を飼っている。全員が女性だ。
鉱山奴隷なんかでは男のほうが便利だが、私用で使う分には女性のほうが良い。好みの問題だ。
逆に女貴族であれば、顔立ちの整った男の奴隷をそろえている場合が多い。
「よし。応接間のチューブにつないでおけ」
「わかりました」
飲み物と血質計の準備もさせた。そうこうしているうちに、シラカミリュウイチロウが領主館に到着した。
見た感じ、ただの青年だった。
王族や貴族の持つ輝きは感じられない。眠たげなまなこに、丸い鼻。顔全体のバランスは悪くないが、人を惹きつける顔立ちとは言えない。ただ、血質値が200を越えると聞いているから、無下にはできない。
その隣にいる少女の奴隷も、いかにも粗悪品といった感じがする。
もとの顔立ちは良かったのかもしれない。だが、酷いヤケドの痕があるし、歩き方もぎこちない。使い古しているのだろうと思った。
「ようこそ、おいでくださいました。シラカミリュウイチロウさま。とりあえず、応接間のほうへご案内しましょう」
「はぁ、どうも」
応接間に通す。
応接間は暖炉とソファの置かれただけの部屋だが、客を通す場所なので、けっこう工夫を凝らしてある。
この暖炉もチューブをつなげば、火がつくようになっている。天井からつるされているシャンデリアにも、こまやかな装飾がほどこされている。
奴隷はガラス張りのケースに入れてある。暴れないように手足の枷が壁に設置されており、カラダ全体にチューブが刺さっている。
シラカミリュウイチロウはしばらくその、奴隷を見つめていた。
マチスは少し得意気になる。
だいたいの家は奴隷を、チューブでつなげるだけだ。こうしてガラス張りにしてあるのは、マチスの工夫の1つだった。奴隷と同じ空気を吸いたがらない人も多い。そのために、処置だ。
「どうかしましたか?」
「いえ。何でもないです」
と、シラカミリュウイチロウは視線を落とした。
その反応に、すこし不満を覚える。
たいていの貴族ならここで、ガラス張りにしてある処置について、賞賛の言葉が出るものだ。
それとも、これぐらいの処置はトウゼンの環境で育ったのだろうか。血質値200を越えるということは、王族である可能性も充分ありうる。王族なら、これぐらいでは驚かないのかもしれない。
「さっそくですが、なにやら血質値が200を越えるとか?」
「そうみたいです」
「しかし200というのは信じられませんな。試しにこの場で計測させていただいても、よろしいかな?」
「ええ。どうぞ」
何でもないことのように、腕を差しだしてきた。戦士や庶民の腕ではない。チカラ仕事には慣れていない感じだ。
だとすると、やはり貴族か王族の出だろう。その腕にチューブを刺しこんだ。
マチスは、食い入るように血質計を覗きこんだ。
0を指していた針が、じょじょに傾いていく。50を突破した。そのまま順調良く80も越える。
舌打ちしたい気分だ。
マチスが80だから、抜かされたことが悔しいのだ。
もしも同じ貴族であった場合、自分の家系は後塵を拝することになる。血が物を言う世界だ。それは仕方がない。しかし、敵対心を抱いたことがバカらしくなる事態が起きた。
針がいっきに200を振り切ったのだ。
「200……」
信じられない。
だが、証拠は目の前にある。
レオーネに現存している血質計はすべて200までだ。200を越えるような血質計が必要なかったからだ。
「信じてもらえましたか?」
シラカミリュウイチロウがそう尋ねてきたので、マチスは我に帰った。
「た、たしかに200ですな。あるいはそれ以上という可能性もあります。もしかしてどこかの王子さまでしたか」
「いえ。ただ、龍神族かもしれません」
「そう……でしたか」
今のところレオーネという世界において、龍神族は12人いるとされている。
マチスも数人は知っている。
1人はフィルリア姫の130。もう1人はゼルン王国騎士長の125。しかし、200に差しかかるというのは聞いたことがない。
(これは、使える)
貴族のやり方が肌に合わないとか言って、今は貧民街のほうで暮らしていると聞いている。正確な場所はつかめていない。
貴族の息子がそんなことでどうするのか。息子のことを考えると、腹が立ってくる。
フィルリア姫が来たときには、息子にも挨拶をさせるつもりだ。自分の跡継ぎと王室をつないでおくのは、トウゼンの策だ。
「いかんいかん」
呟く。
フィルリア姫のことや、息子のことも大切だが、とりあえず、目下の問題に着手しなければならない。
血質値200とかいうバケモノのことだ。
いちおう失礼のないように応接間に通そうと思った。
「おい」
メイドのひとりに声をかけた。
「なんでしょうか?」
「奴隷を1人用意しろ。応接間の明かりをつける必要がある」
「はい」
メイドがすぐに、奴隷をひとり連れてきた。この領主館では、30人の奴隷を飼っている。全員が女性だ。
鉱山奴隷なんかでは男のほうが便利だが、私用で使う分には女性のほうが良い。好みの問題だ。
逆に女貴族であれば、顔立ちの整った男の奴隷をそろえている場合が多い。
「よし。応接間のチューブにつないでおけ」
「わかりました」
飲み物と血質計の準備もさせた。そうこうしているうちに、シラカミリュウイチロウが領主館に到着した。
見た感じ、ただの青年だった。
王族や貴族の持つ輝きは感じられない。眠たげなまなこに、丸い鼻。顔全体のバランスは悪くないが、人を惹きつける顔立ちとは言えない。ただ、血質値が200を越えると聞いているから、無下にはできない。
その隣にいる少女の奴隷も、いかにも粗悪品といった感じがする。
もとの顔立ちは良かったのかもしれない。だが、酷いヤケドの痕があるし、歩き方もぎこちない。使い古しているのだろうと思った。
「ようこそ、おいでくださいました。シラカミリュウイチロウさま。とりあえず、応接間のほうへご案内しましょう」
「はぁ、どうも」
応接間に通す。
応接間は暖炉とソファの置かれただけの部屋だが、客を通す場所なので、けっこう工夫を凝らしてある。
この暖炉もチューブをつなげば、火がつくようになっている。天井からつるされているシャンデリアにも、こまやかな装飾がほどこされている。
奴隷はガラス張りのケースに入れてある。暴れないように手足の枷が壁に設置されており、カラダ全体にチューブが刺さっている。
シラカミリュウイチロウはしばらくその、奴隷を見つめていた。
マチスは少し得意気になる。
だいたいの家は奴隷を、チューブでつなげるだけだ。こうしてガラス張りにしてあるのは、マチスの工夫の1つだった。奴隷と同じ空気を吸いたがらない人も多い。そのために、処置だ。
「どうかしましたか?」
「いえ。何でもないです」
と、シラカミリュウイチロウは視線を落とした。
その反応に、すこし不満を覚える。
たいていの貴族ならここで、ガラス張りにしてある処置について、賞賛の言葉が出るものだ。
それとも、これぐらいの処置はトウゼンの環境で育ったのだろうか。血質値200を越えるということは、王族である可能性も充分ありうる。王族なら、これぐらいでは驚かないのかもしれない。
「さっそくですが、なにやら血質値が200を越えるとか?」
「そうみたいです」
「しかし200というのは信じられませんな。試しにこの場で計測させていただいても、よろしいかな?」
「ええ。どうぞ」
何でもないことのように、腕を差しだしてきた。戦士や庶民の腕ではない。チカラ仕事には慣れていない感じだ。
だとすると、やはり貴族か王族の出だろう。その腕にチューブを刺しこんだ。
マチスは、食い入るように血質計を覗きこんだ。
0を指していた針が、じょじょに傾いていく。50を突破した。そのまま順調良く80も越える。
舌打ちしたい気分だ。
マチスが80だから、抜かされたことが悔しいのだ。
もしも同じ貴族であった場合、自分の家系は後塵を拝することになる。血が物を言う世界だ。それは仕方がない。しかし、敵対心を抱いたことがバカらしくなる事態が起きた。
針がいっきに200を振り切ったのだ。
「200……」
信じられない。
だが、証拠は目の前にある。
レオーネに現存している血質計はすべて200までだ。200を越えるような血質計が必要なかったからだ。
「信じてもらえましたか?」
シラカミリュウイチロウがそう尋ねてきたので、マチスは我に帰った。
「た、たしかに200ですな。あるいはそれ以上という可能性もあります。もしかしてどこかの王子さまでしたか」
「いえ。ただ、龍神族かもしれません」
「そう……でしたか」
今のところレオーネという世界において、龍神族は12人いるとされている。
マチスも数人は知っている。
1人はフィルリア姫の130。もう1人はゼルン王国騎士長の125。しかし、200に差しかかるというのは聞いたことがない。
(これは、使える)
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