《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第14話「都市への道中」

《血動車》が発進した。



 地面が舗装と言えるほどには、舗装されていない。大きく揺れるかと思った。そうでもない。意外と乗り心地が良い。



「昨日はクロエイが多く出没していましたが、ケルネ村のほうは大丈夫だったんですかねー」



 と、御者がノンキに言った。



「村は、ほとんど全滅という感じでしたよ」
 と、龍一郎が返した。



「そうですか。やはりああいった村は厳しいんでしょうね。とはいえ都市で全員を受け入れるわけにもいきませんからね」



 と、御者は別に驚く様子もなく言った。



 御者の反応から察するに、村がクロエイによって全滅するというのは、それほど珍しくはないようだ。



「ああいった村には、護衛のために、貴族が派遣されているはずなんですがね。やはり護衛の数を増やすべきでしょうね」



「はぁ」



 派遣されていた貴族というのは、ベルの主人のことかもしれない。思い出しただけでも、また腹が立ってくる。



「さすがに、すべての村に貴族を派遣するというわけにもいきません。貴族だって、わざわざ安全な都市から、村になんか行きたくはないでしょうからね。でも、もう少し策を練らないと被害は増える一方ですよ」



 困ったもんです――と御者は他人事のように笑っていた。



 もしかするとこのレオーネという世界は、世紀末に近づいているのかもしれない。あまり治安の良い状況ではなさそうだ。



 ふと隣を見た。



 こくりこくりとベルが、頭を前後に揺らしていた。必死に寝るまいとしているようだ。



「眠たいんなら寝ても良いよ」
「今寝ると、怖いから」



「怖い?」



 今は太陽も出ているし――太陽というのかはわからないが――別にクロエイの心配もない。他にも何か、危惧することがあるのだろうかと思った。



「寝て起きたら、またあの家に戻っていそうで」
「大丈夫だって」



「私のこと、売り渡したりしないで欲しい。ムリかもしれないけど、それだけお願い」



 そう言われて、ズキンと胸が痛んだ。



 ベルは、龍一郎のことを警戒しているのだ。ベルが眠ってる間に、どこかに売り飛ばすと思っているのだろう。



 まったく信用されてない。



「売ったりなんかしない。だいたい通貨はないんだろう。血なら自分ので足りてるし、ベルを売っても、オレにメリットなんかない」



「私は、邪魔だろうから」
「そんなことはない」



 ようやくベルは、眠りに落ちたようだ。ヒザを抱えて丸まっていた。



 この娘にとっては、龍一郎も恐怖の対象なのかもしれない。



 感情の起伏が薄いように感じる。あえて感情を殺しているのかもしれない。精神が摩耗まもうして、あげく自分の殻に閉じこもるという話はよく聞く。



 歓喜はもちろん、恐怖すらも届かない虚無にベルの心はあるのかもしれない。



 ベルのような人間が、安らかに過ごせる場所はこの世界にはないのだろうか。



 一時の感情に流されて、龍一郎はベルのことを助け出した。それは今でも間違えていないと思っている。



 あの胸糞の悪い主人たちから救いだしたのだと思うと、すこしは溜飲も下がるというもの。



 ただ――。



 永遠にベルのメンドウをみられるかと問われれば、自信がない。



 修道院などの施設があれば、ベルをあずけるのも一案である気がする。



「奴隷が安全に暮らせる場所って、ないんですかね」
 龍一郎は御者にそう尋ねた。



「それはムリな話ですね」
 御者は前を向いたまま応じた。



「ムリですか」



「奴隷というのは、血の品質が低いから奴隷なんですよ。クロエイを誘っちまいますからね。殺されないだけマシでしょう」



「このあたりに、修道院とかはないんですか?」



 フィクションでも、修道院はいつも弱者の味方だ。



「近くに、クェイダル教の修道院がありますね。このあたりで死んだとされる龍の名前です。龍信仰をする宗派は珍しくない。だけど、奴隷を引き受けたりはしてくれません」



「ダメですか」



「クロエイを呼び寄せますからね。誰だって引き受けたくはないですよ。かといって殺したら労働力がかなり落ち込みますしね。厄介な存在です」



 そっちの女子は、奴隷なんですか――と御者が尋ねてきた。



 イエスともノーとも言えなかった。



 龍一郎が黙っていると、御者が言葉を続けた。



「奴隷はたいてい貴族に飼われてますからね。なかには奴隷に優しい物好きな貴族もいます。そういう貴族に拾われる。それが奴隷にとってはイチバンの幸せなんじゃないですかね」



 暗にお前がメンドウをみてあげろ――と言っている気がした。



「そうですか。いろいろとありがとうございます」



「めっそうもない。王子の質問になら何でも応えますよ」



 まだ王子と思われているようだ。



 ベルに視線を戻す。世界から浴びせられる狂風に耐えるかのように、カラダを丸めている。可能なかぎり、ベルの世話をしてやろうと決意した。



(その場の流れとはいえ、オレが助けたんだもんな)



 両親もいないと言っていた。
 修道院にもあずけられない。
 龍一郎がメンドウをみるのが筋だろう。

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