《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第14話「都市への道中」
《血動車》が発進した。
地面が舗装と言えるほどには、舗装されていない。大きく揺れるかと思った。そうでもない。意外と乗り心地が良い。
「昨日はクロエイが多く出没していましたが、ケルネ村のほうは大丈夫だったんですかねー」
と、御者がノンキに言った。
「村は、ほとんど全滅という感じでしたよ」
と、龍一郎が返した。
「そうですか。やはりああいった村は厳しいんでしょうね。とはいえ都市で全員を受け入れるわけにもいきませんからね」
と、御者は別に驚く様子もなく言った。
御者の反応から察するに、村がクロエイによって全滅するというのは、それほど珍しくはないようだ。
「ああいった村には、護衛のために、貴族が派遣されているはずなんですがね。やはり護衛の数を増やすべきでしょうね」
「はぁ」
派遣されていた貴族というのは、ベルの主人のことかもしれない。思い出しただけでも、また腹が立ってくる。
「さすがに、すべての村に貴族を派遣するというわけにもいきません。貴族だって、わざわざ安全な都市から、村になんか行きたくはないでしょうからね。でも、もう少し策を練らないと被害は増える一方ですよ」
困ったもんです――と御者は他人事のように笑っていた。
もしかするとこのレオーネという世界は、世紀末に近づいているのかもしれない。あまり治安の良い状況ではなさそうだ。
ふと隣を見た。
こくりこくりとベルが、頭を前後に揺らしていた。必死に寝るまいとしているようだ。
「眠たいんなら寝ても良いよ」
「今寝ると、怖いから」
「怖い?」
今は太陽も出ているし――太陽というのかはわからないが――別にクロエイの心配もない。他にも何か、危惧することがあるのだろうかと思った。
「寝て起きたら、またあの家に戻っていそうで」
「大丈夫だって」
「私のこと、売り渡したりしないで欲しい。ムリかもしれないけど、それだけお願い」
そう言われて、ズキンと胸が痛んだ。
ベルは、龍一郎のことを警戒しているのだ。ベルが眠ってる間に、どこかに売り飛ばすと思っているのだろう。
まったく信用されてない。
「売ったりなんかしない。だいたい通貨はないんだろう。血なら自分ので足りてるし、ベルを売っても、オレにメリットなんかない」
「私は、邪魔だろうから」
「そんなことはない」
ようやくベルは、眠りに落ちたようだ。ヒザを抱えて丸まっていた。
この娘にとっては、龍一郎も恐怖の対象なのかもしれない。
感情の起伏が薄いように感じる。あえて感情を殺しているのかもしれない。精神が摩耗して、あげく自分の殻に閉じこもるという話はよく聞く。
歓喜はもちろん、恐怖すらも届かない虚無にベルの心はあるのかもしれない。
ベルのような人間が、安らかに過ごせる場所はこの世界にはないのだろうか。
一時の感情に流されて、龍一郎はベルのことを助け出した。それは今でも間違えていないと思っている。
あの胸糞の悪い主人たちから救いだしたのだと思うと、すこしは溜飲も下がるというもの。
ただ――。
永遠にベルのメンドウをみられるかと問われれば、自信がない。
修道院などの施設があれば、ベルをあずけるのも一案である気がする。
「奴隷が安全に暮らせる場所って、ないんですかね」
龍一郎は御者にそう尋ねた。
「それはムリな話ですね」
御者は前を向いたまま応じた。
「ムリですか」
「奴隷というのは、血の品質が低いから奴隷なんですよ。クロエイを誘っちまいますからね。殺されないだけマシでしょう」
「このあたりに、修道院とかはないんですか?」
フィクションでも、修道院はいつも弱者の味方だ。
「近くに、クェイダル教の修道院がありますね。このあたりで死んだとされる龍の名前です。龍信仰をする宗派は珍しくない。だけど、奴隷を引き受けたりはしてくれません」
「ダメですか」
「クロエイを呼び寄せますからね。誰だって引き受けたくはないですよ。かといって殺したら労働力がかなり落ち込みますしね。厄介な存在です」
そっちの女子は、奴隷なんですか――と御者が尋ねてきた。
イエスともノーとも言えなかった。
龍一郎が黙っていると、御者が言葉を続けた。
「奴隷はたいてい貴族に飼われてますからね。なかには奴隷に優しい物好きな貴族もいます。そういう貴族に拾われる。それが奴隷にとってはイチバンの幸せなんじゃないですかね」
暗にお前がメンドウをみてあげろ――と言っている気がした。
「そうですか。いろいろとありがとうございます」
「めっそうもない。王子の質問になら何でも応えますよ」
まだ王子と思われているようだ。
ベルに視線を戻す。世界から浴びせられる狂風に耐えるかのように、カラダを丸めている。可能なかぎり、ベルの世話をしてやろうと決意した。
(その場の流れとはいえ、オレが助けたんだもんな)
両親もいないと言っていた。
修道院にもあずけられない。
龍一郎がメンドウをみるのが筋だろう。
地面が舗装と言えるほどには、舗装されていない。大きく揺れるかと思った。そうでもない。意外と乗り心地が良い。
「昨日はクロエイが多く出没していましたが、ケルネ村のほうは大丈夫だったんですかねー」
と、御者がノンキに言った。
「村は、ほとんど全滅という感じでしたよ」
と、龍一郎が返した。
「そうですか。やはりああいった村は厳しいんでしょうね。とはいえ都市で全員を受け入れるわけにもいきませんからね」
と、御者は別に驚く様子もなく言った。
御者の反応から察するに、村がクロエイによって全滅するというのは、それほど珍しくはないようだ。
「ああいった村には、護衛のために、貴族が派遣されているはずなんですがね。やはり護衛の数を増やすべきでしょうね」
「はぁ」
派遣されていた貴族というのは、ベルの主人のことかもしれない。思い出しただけでも、また腹が立ってくる。
「さすがに、すべての村に貴族を派遣するというわけにもいきません。貴族だって、わざわざ安全な都市から、村になんか行きたくはないでしょうからね。でも、もう少し策を練らないと被害は増える一方ですよ」
困ったもんです――と御者は他人事のように笑っていた。
もしかするとこのレオーネという世界は、世紀末に近づいているのかもしれない。あまり治安の良い状況ではなさそうだ。
ふと隣を見た。
こくりこくりとベルが、頭を前後に揺らしていた。必死に寝るまいとしているようだ。
「眠たいんなら寝ても良いよ」
「今寝ると、怖いから」
「怖い?」
今は太陽も出ているし――太陽というのかはわからないが――別にクロエイの心配もない。他にも何か、危惧することがあるのだろうかと思った。
「寝て起きたら、またあの家に戻っていそうで」
「大丈夫だって」
「私のこと、売り渡したりしないで欲しい。ムリかもしれないけど、それだけお願い」
そう言われて、ズキンと胸が痛んだ。
ベルは、龍一郎のことを警戒しているのだ。ベルが眠ってる間に、どこかに売り飛ばすと思っているのだろう。
まったく信用されてない。
「売ったりなんかしない。だいたい通貨はないんだろう。血なら自分ので足りてるし、ベルを売っても、オレにメリットなんかない」
「私は、邪魔だろうから」
「そんなことはない」
ようやくベルは、眠りに落ちたようだ。ヒザを抱えて丸まっていた。
この娘にとっては、龍一郎も恐怖の対象なのかもしれない。
感情の起伏が薄いように感じる。あえて感情を殺しているのかもしれない。精神が摩耗して、あげく自分の殻に閉じこもるという話はよく聞く。
歓喜はもちろん、恐怖すらも届かない虚無にベルの心はあるのかもしれない。
ベルのような人間が、安らかに過ごせる場所はこの世界にはないのだろうか。
一時の感情に流されて、龍一郎はベルのことを助け出した。それは今でも間違えていないと思っている。
あの胸糞の悪い主人たちから救いだしたのだと思うと、すこしは溜飲も下がるというもの。
ただ――。
永遠にベルのメンドウをみられるかと問われれば、自信がない。
修道院などの施設があれば、ベルをあずけるのも一案である気がする。
「奴隷が安全に暮らせる場所って、ないんですかね」
龍一郎は御者にそう尋ねた。
「それはムリな話ですね」
御者は前を向いたまま応じた。
「ムリですか」
「奴隷というのは、血の品質が低いから奴隷なんですよ。クロエイを誘っちまいますからね。殺されないだけマシでしょう」
「このあたりに、修道院とかはないんですか?」
フィクションでも、修道院はいつも弱者の味方だ。
「近くに、クェイダル教の修道院がありますね。このあたりで死んだとされる龍の名前です。龍信仰をする宗派は珍しくない。だけど、奴隷を引き受けたりはしてくれません」
「ダメですか」
「クロエイを呼び寄せますからね。誰だって引き受けたくはないですよ。かといって殺したら労働力がかなり落ち込みますしね。厄介な存在です」
そっちの女子は、奴隷なんですか――と御者が尋ねてきた。
イエスともノーとも言えなかった。
龍一郎が黙っていると、御者が言葉を続けた。
「奴隷はたいてい貴族に飼われてますからね。なかには奴隷に優しい物好きな貴族もいます。そういう貴族に拾われる。それが奴隷にとってはイチバンの幸せなんじゃないですかね」
暗にお前がメンドウをみてあげろ――と言っている気がした。
「そうですか。いろいろとありがとうございます」
「めっそうもない。王子の質問になら何でも応えますよ」
まだ王子と思われているようだ。
ベルに視線を戻す。世界から浴びせられる狂風に耐えるかのように、カラダを丸めている。可能なかぎり、ベルの世話をしてやろうと決意した。
(その場の流れとはいえ、オレが助けたんだもんな)
両親もいないと言っていた。
修道院にもあずけられない。
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