《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第9話「わき出るクロエイ」

 息を殺して窓辺に近づいた。



 外の様子をうかがった。



 悲鳴をあげそうになった。クロエイが歩き回っているのだ。サッと見ただけでも10匹はいる。



 灯っていたはずの外灯もすべて消えてしまっている。



「ヤバいことになってる」



「その銃――。《血影銃》って言う。それあげる。だから、あなたは都市に行くと良い。あなたならきっと、歓迎してくれる」



「都市?」



「ここから南方、月が沈む方向へ進むと良い」



 南に月が沈むのか――なんて言ってる場合じゃない。



「ベルはどうするんだ?」
「私はここの奴隷。ここに残る」



「ダメだ。オレと一緒に行こう」
「どうして?」



「最初から、助け出すつもりだったんだ。後先のことぜんぜん考えてなかったけど、都市に行けば良いんだろう。そこまで案内してくれよ。あんまり歩けないだっから、オレが背負うし」



「どうして?」
 と、ベルがもう一度尋ねてきた。



「何が?」



「私は奴隷。劣等な血を持つ者。別に助ける必要、ない」



「いや、だって――」



 こんなにカラダがボロボロになるまで、暴力を受けているのだ。しかも、それが少女なのだ。それを見捨てる男が、いったいどこにいるのか。



 正義感とか善意とかいう前に、少女を助けようとする気持は、倫理とか道徳の問題だろう。



 顔は傷だらけだし、カラダもアザだらけで痩せ細っている。それでも、けっこうカワイイ。



 こんなに露骨に少女を助けようと思えるのは、ここが異世界だからかもしれない。



「だって、なに?」
 と、ベルがうながしてくる。



「オレはとても遠いところから来たんだ。ここらへんの土地勘は皆無だし、しかもクロエイとかいうバケモノの中を1人で突破しろなんて、心細いだろう」



 これもある意味事実だ。
 案内役は欲しい。



 しかも、このままベルが家にとどまっても、クロエイたちに襲われるのは目に見えている。



 仮に、助かったとしても、ふたたび奴隷として生活するようなことになったら、あんまりにもカワイソウだ。



 龍一郎が助け出したこともムダになる。



 冗談を言ったつもりはないのだが、ベルは頬をピクピクと痙攣させていた。たぶん、笑っているのだろう。



「ホントウに私もついて行って、良い?」



「むしろ、ついて来て欲しいんだけど。どうしても厭だって言うんなら、無理強いはしないけどさ」



 血液をエネルギーにするような世界なのだ。地球の常識は通用しないだろう。知りたいことは、他にもいろいろとある。知恵を授けてもらうのにも、ベルは必要だ。



 ただ龍一郎が嫌われているという可能性はある。その場合は、諦めてベルを見捨てるしかない。



 ベルはしばらくボンヤリとしていたが、意を決したようにうなずいた。



「……わかった」
「一緒に来てくれるか?」
「準備、する」



 ベルはおぼつかない足取りで、村を出る準備をはじめた。カンテラ。ナイフ。衣類などと手際よくまとめはじめた。



 まるで前もって、旅の出ることがわかっていたかのような手際の良さだった。



 ベルは奴隷として生活しながら、夢想していたのではないだろうか。どこか遠いところへ行くことを――。そうでなければ、こんなにも手際よく準備することは出来ないだろう。ベルの手際の良さが、龍一郎には哀れに感ぜられた。

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