セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
同じ色を持つ者
草木が生い茂りあらゆる生命が息吹く森で、生命の冒涜とも呼べる異形の存在が破壊の限りを尽くそうとしていた。
別にそこにある巨木や虫、鳥……そういうモノに恨みがあるのではない。
ただ、“都合がいい”から壊しているだけ。
周りのありとあらゆるものを壊してしまえば、そこに被害がもたらされる。
被害が起きればあの忌々しい連中にも伝わるだろう。
そして自身たちを倒そうと向かってくるはずだ。
「いた……!」
「Wo――――!」
愚かで偽善的で憎ましい、アレを殺すことこそが余物の使命である。
自らの肉体をも焼き焦がしてしまうほどの怒り、憎しみ……負の感情に呷られ余物たちは咆哮した。
ころせ。
ころせ。
ころせ。
ころせっ!
「全員、こっちを向け!“守護よ、人を護れ”!」
考えなしにも多数いる余物たちに向けて、『緑の騎士』は大楯を構えた。
彼にとって“全てを護る”ことは何よりも優先すべきことであり、その全てとはこの世ある生命の全て。
人間ともちろんのこと、虫、動物、植物……この世界で行こうと足掻き続けるものたちを護ることこそが、ウィリアムの想いなのである。
ならばこそ、その生きる存在が集まるこの『大森林』を侵そうとする存在は――
「――俺が、倒すッ!」
結果的に、それが余物の憑代とされた生命の救いでもあるのだから。
全てを護ろう、それが無理なのならせめて救おう。
残酷にもすでに手遅れな存在がこの世に蔓延っているのだ。
「砕き成せ、“原土之創造”」
『黄の騎士』から受け継ぎしその大槌を右手に、『緑の騎士』から生まれ出た大楯を左手に、ウィリアムは余物へと立ち向かう。
『騎士の力』によって引き上げられた身体能力にプラスし、一般的な物を軽く凌駕する武具を持つウィリアム。
禍族の力の残留に呑まれたとはいえ禍族そのものを相手にしているわけでは無く、名の通り余物である敵に苦戦することなど、微塵も在り得ない。
「Ao――――!」
「らぁッ!」
一薙ぎ大槌を振るえば余物が弾け飛び、飛びかかろうと余物が歯を剥けば大楯が邪魔をする。
まるで木の棒を振るうような身軽さで大槌を振るい、大楯を構えるウィリアムを誰も止められない。
他人から見ればこう思うだろう。
これこそが“無双”なのだ、と。
(楽勝だな、ウィリアムよ)
(あぁ、でもかなり数が多い。単純に時間がかかる……!)
(ならば“アレ”を使うべきではないか?グイドも心配であろう?)
バラムの進言に頷いたウィリアムは、大楯と大槌を強く握り込んだ。
「砕き守れ、“風土之鉄槌”」
緑の大楯と黄の大槌が砕き散り、風と土となり互いに混ざり合い……一つの形と成す。
基本的に黄色のままの大槌に、緑色の鮮やかな装飾が追加される。
粉砕を司る大槌に、風が付与され舞い上がった。
風纏う大槌を手にしたウィリアムは、その場から真上に大きく跳ねて大槌を上段に構える。
「いくぞっ!」
『騎士の力』の源である魔力を総動員させ、地面に落下すると同時にウィリアムは大槌を地面に叩きつけた。
ミシリ、と地面が悲鳴を上げる。
「“粉砕の風よ、砕き散れ”!」
大槌が触れている地面から円形に、風が吹き荒れた。
ウィリアムを取り囲むように陣を組んでいた余物たちに余すことなくその風は吹き荒れ……その数秒後、変化は起きる。
「Gu……!」
「Ga……!」
「Ao……!」
殆ど声を出すことなく、余物は間抜けな声を出して次々と絶命していく。
その身をバラバラに……まるで砂のように、木端微塵のようにして。
先ほどウィリアムが放った能力は、“原土之創造”が持つ能力である“触れた者を全て粉砕する能力”に風という属性を付与したものだ。
触れたものを粉々にする能力を、風に乗せて周囲に解き放つことでこの世にあるものなら全て粉砕できる。
当然、無差別に解き放てばこの周囲一体が更地となるのは明らかだ。
「はぁっ……!はぁっ……!」
故にウィリアムの疲労は尋常ではない。
下手にぶちまければ周りが全て砂と化すこの能力は、針に糸を通すような繊細なコントロールが要求されるのだ。
敵と認識しているもの“だけ”を風に当てなければならないのだから、当然と言えば当然なのだが。
(しばらく休憩するか?ウィリアムよ)
「冗談は、あとに……しろっ!」
それでも、立ち止まるわけにはいかない。
例え頑張り損でも、ここまで消耗してまで短期に終わらせる必要がなかったとしても――
「グイドを、助けに行く……!」
――嫌な予感を、ウィリアムは隠せずにいる。
よろよろの身体に鞭を打ち、『緑の騎士』は走り出した。
誰かに見られているようなそんな違和感を背中に感じ続けながら。
轟く。
誰、ではなく何かが。
一つの枝が敵へと襲い掛かり、しかし無力のまま朽ち果てる。
ならば二つの枝が組み合わさって襲い掛かろう。
それでも無理なら三つ、四つと組み合わす数を増やせばいい、簡単でそれ故に強力な事実だ。
「“木よ、従い動け”」
グイドが『橙の騎士』と成り、その想いを叶えるための能力として得たこの力はすなわちそれを示している。
一つ一つが弱く、頼りなく思えても束になってしまえば強く強固な物へと変貌するのだ。
たった一片の枝は人の柔肌を傷付けることしか敵わないが、十も集まればそれは禍族を締め付けるほどの力を得る。
「…………」
『橙の騎士』としてグイドが得た能力は“木々を従わせる”もの。
生物として自我を持たぬ半無機物である植物だからこそ、問答無用で従わせ自らの思うが儘に動かすことができる。
孤独に生きるグイドにとって、それが孤独で在り続けるための力だった。
「これで、終わり、だ」
弓を番える。
数十もの枝が片手で数えられる巨大な枝となり、禍族の四肢を繋ぎ止め離さない。
動かぬモノを相手に外す技量など、グイドには持ち合わせていなかった。
「“孤独よ、矢と化せ”」
これもグイドが孤独である為に得た能力。
木々を固め、連結し、一つの矢とさせるだけの力だ。
しかし既に木としての原型を留めていない矢は、その一撃だけであらゆる物を消し飛ばす威力を誇るだろう。
だからこそ――
「Ah―――――ッ!」
「だまれ」
――禍族は体の中心に、綺麗な円形の穴を作ることになった。
「ッチ、思った、以上、に、木、を、使った」
禍族が倒したことを確認したグイドは、小さく舌打ちして文句を垂れる。
グイドはここ……『大森林』を最低限以上に穢すことを何よりも嫌っているのだ。
『橙の騎士』として任されたのはこの場所の守護であり、グイドが『騎士』として力を発揮するのはこの場所なのだから。
当然、広大な場所を木々で覆う『大森林』も木が無限にあるわけでは無い。
逆にこの場所にある木が成長するスピードを越える速度で、この大陸の人々は『大森林』の巨木を使っている。
更に『橙の騎士』が戦闘の度、敵の拘束や矢として放つことにより木々を消費しているのだから当然だ。
(ここまで荒らしたんだから、また土を管理する必要があるな)
自らの戦力であり、人々が営む大前提の『大森林』をそのまま縮小させる訳にはいかない。
それ故にグイドは激しい戦闘を行った後や、災害などのアクシデントが起こった場合は森の栄養をわざと偏らせるようにしている。
常人では骨の折れる作業であるソレも、『橙の騎士』としての力を使えばそこまで手間ではない。
とはいっても数日は余裕で掛かってしまう作業ではあるが。
「――いやぁ、素直に気持ち悪いねぇ。君という存在は」
ふと、背後から唐突に気配を感じてグイドは振り返る。
さも当然かのように、当たり前かのように、嫌らしい笑みを浮かべた魔族が木の上に立っていた。
「……ヘンリー、だな」
「ふぅん、流石に広まっちゃってるか。そうだよ、ボクの名はヘンリー。誇り高き奇跡を扱う、種族さ?」
「“木よ、従い動け”」
ヘンリーと自ら名乗った魔族へと、グイドは間髪なく木々を操りけしかける。
若干不意打ち気味で放たれたその攻撃は、しかしヘンリーの「おっと」という気の抜けた声と共に簡単に避けられてしまった。
「ほんっと、君ってつくづく気味悪い。いつまで“ぶってる”つもりだい?」
「だまれ……!」
前から数本の枝をけしかける……と見せかけてヘンリーの背後から地中に潜っていた根っこが飛び出した。
鋭い先端で躊躇なく突き刺そうという思惑だったが、それもヘンリーは簡単に避けてしまう。
“一瞬”で。
「転移、魔法。本当、に、使える、とは……面倒、だな」
「お褒め頂きこれっぽっちも嬉しくないですよ。特に、オマエにはな」
「……!」
最後の言葉に凄まじい威圧感……殺気を感じたグイドは咄嗟に右へと回避行動をする。
瞬間、ヘンリーの姿が先ほどまでグイドが居た場所の目の前に現れ、小型のナイフが空を切り裂いた。
「ぐっ……!“孤独よ、矢と化せ”!」
「またそれか、“フィルト”!」
少しでも体制を立て直すため、時間を稼ぐ目的で作られた急造の矢を放つグイド。
しかし、ヘンリーが右腕から放つ火の玉に焼き消され瞬時に灰と化してしまう。
すぐさま接近されると思ったグイドは、木でシールドを張り……何も攻撃をしてこないことに驚いた。
目の前に、怒りを抑え込むように震えるヘンリーの姿を見るまでは。
「……イラつくんだよ」
「なに、を……」
「オマエの言動と行動、その全てが!」
身も毛もよだつ程の嫌悪感を瞳に宿したヘンリーは、叫ぶ。
「表面では孤独を着飾っておいて、なんだその力は!木ばっかりに頼りやがって、少しも木々の心を考えてみたらどうだ!……“本物”を見せてやるよ――」
グイドの偽りを。
『騎士』としての心を。
己の、『騎士』の名を。
「――『樹木之怠惰』ッ!」
ヘンリーの周りに、樹木が現れた。
別にそこにある巨木や虫、鳥……そういうモノに恨みがあるのではない。
ただ、“都合がいい”から壊しているだけ。
周りのありとあらゆるものを壊してしまえば、そこに被害がもたらされる。
被害が起きればあの忌々しい連中にも伝わるだろう。
そして自身たちを倒そうと向かってくるはずだ。
「いた……!」
「Wo――――!」
愚かで偽善的で憎ましい、アレを殺すことこそが余物の使命である。
自らの肉体をも焼き焦がしてしまうほどの怒り、憎しみ……負の感情に呷られ余物たちは咆哮した。
ころせ。
ころせ。
ころせ。
ころせっ!
「全員、こっちを向け!“守護よ、人を護れ”!」
考えなしにも多数いる余物たちに向けて、『緑の騎士』は大楯を構えた。
彼にとって“全てを護る”ことは何よりも優先すべきことであり、その全てとはこの世ある生命の全て。
人間ともちろんのこと、虫、動物、植物……この世界で行こうと足掻き続けるものたちを護ることこそが、ウィリアムの想いなのである。
ならばこそ、その生きる存在が集まるこの『大森林』を侵そうとする存在は――
「――俺が、倒すッ!」
結果的に、それが余物の憑代とされた生命の救いでもあるのだから。
全てを護ろう、それが無理なのならせめて救おう。
残酷にもすでに手遅れな存在がこの世に蔓延っているのだ。
「砕き成せ、“原土之創造”」
『黄の騎士』から受け継ぎしその大槌を右手に、『緑の騎士』から生まれ出た大楯を左手に、ウィリアムは余物へと立ち向かう。
『騎士の力』によって引き上げられた身体能力にプラスし、一般的な物を軽く凌駕する武具を持つウィリアム。
禍族の力の残留に呑まれたとはいえ禍族そのものを相手にしているわけでは無く、名の通り余物である敵に苦戦することなど、微塵も在り得ない。
「Ao――――!」
「らぁッ!」
一薙ぎ大槌を振るえば余物が弾け飛び、飛びかかろうと余物が歯を剥けば大楯が邪魔をする。
まるで木の棒を振るうような身軽さで大槌を振るい、大楯を構えるウィリアムを誰も止められない。
他人から見ればこう思うだろう。
これこそが“無双”なのだ、と。
(楽勝だな、ウィリアムよ)
(あぁ、でもかなり数が多い。単純に時間がかかる……!)
(ならば“アレ”を使うべきではないか?グイドも心配であろう?)
バラムの進言に頷いたウィリアムは、大楯と大槌を強く握り込んだ。
「砕き守れ、“風土之鉄槌”」
緑の大楯と黄の大槌が砕き散り、風と土となり互いに混ざり合い……一つの形と成す。
基本的に黄色のままの大槌に、緑色の鮮やかな装飾が追加される。
粉砕を司る大槌に、風が付与され舞い上がった。
風纏う大槌を手にしたウィリアムは、その場から真上に大きく跳ねて大槌を上段に構える。
「いくぞっ!」
『騎士の力』の源である魔力を総動員させ、地面に落下すると同時にウィリアムは大槌を地面に叩きつけた。
ミシリ、と地面が悲鳴を上げる。
「“粉砕の風よ、砕き散れ”!」
大槌が触れている地面から円形に、風が吹き荒れた。
ウィリアムを取り囲むように陣を組んでいた余物たちに余すことなくその風は吹き荒れ……その数秒後、変化は起きる。
「Gu……!」
「Ga……!」
「Ao……!」
殆ど声を出すことなく、余物は間抜けな声を出して次々と絶命していく。
その身をバラバラに……まるで砂のように、木端微塵のようにして。
先ほどウィリアムが放った能力は、“原土之創造”が持つ能力である“触れた者を全て粉砕する能力”に風という属性を付与したものだ。
触れたものを粉々にする能力を、風に乗せて周囲に解き放つことでこの世にあるものなら全て粉砕できる。
当然、無差別に解き放てばこの周囲一体が更地となるのは明らかだ。
「はぁっ……!はぁっ……!」
故にウィリアムの疲労は尋常ではない。
下手にぶちまければ周りが全て砂と化すこの能力は、針に糸を通すような繊細なコントロールが要求されるのだ。
敵と認識しているもの“だけ”を風に当てなければならないのだから、当然と言えば当然なのだが。
(しばらく休憩するか?ウィリアムよ)
「冗談は、あとに……しろっ!」
それでも、立ち止まるわけにはいかない。
例え頑張り損でも、ここまで消耗してまで短期に終わらせる必要がなかったとしても――
「グイドを、助けに行く……!」
――嫌な予感を、ウィリアムは隠せずにいる。
よろよろの身体に鞭を打ち、『緑の騎士』は走り出した。
誰かに見られているようなそんな違和感を背中に感じ続けながら。
轟く。
誰、ではなく何かが。
一つの枝が敵へと襲い掛かり、しかし無力のまま朽ち果てる。
ならば二つの枝が組み合わさって襲い掛かろう。
それでも無理なら三つ、四つと組み合わす数を増やせばいい、簡単でそれ故に強力な事実だ。
「“木よ、従い動け”」
グイドが『橙の騎士』と成り、その想いを叶えるための能力として得たこの力はすなわちそれを示している。
一つ一つが弱く、頼りなく思えても束になってしまえば強く強固な物へと変貌するのだ。
たった一片の枝は人の柔肌を傷付けることしか敵わないが、十も集まればそれは禍族を締め付けるほどの力を得る。
「…………」
『橙の騎士』としてグイドが得た能力は“木々を従わせる”もの。
生物として自我を持たぬ半無機物である植物だからこそ、問答無用で従わせ自らの思うが儘に動かすことができる。
孤独に生きるグイドにとって、それが孤独で在り続けるための力だった。
「これで、終わり、だ」
弓を番える。
数十もの枝が片手で数えられる巨大な枝となり、禍族の四肢を繋ぎ止め離さない。
動かぬモノを相手に外す技量など、グイドには持ち合わせていなかった。
「“孤独よ、矢と化せ”」
これもグイドが孤独である為に得た能力。
木々を固め、連結し、一つの矢とさせるだけの力だ。
しかし既に木としての原型を留めていない矢は、その一撃だけであらゆる物を消し飛ばす威力を誇るだろう。
だからこそ――
「Ah―――――ッ!」
「だまれ」
――禍族は体の中心に、綺麗な円形の穴を作ることになった。
「ッチ、思った、以上、に、木、を、使った」
禍族が倒したことを確認したグイドは、小さく舌打ちして文句を垂れる。
グイドはここ……『大森林』を最低限以上に穢すことを何よりも嫌っているのだ。
『橙の騎士』として任されたのはこの場所の守護であり、グイドが『騎士』として力を発揮するのはこの場所なのだから。
当然、広大な場所を木々で覆う『大森林』も木が無限にあるわけでは無い。
逆にこの場所にある木が成長するスピードを越える速度で、この大陸の人々は『大森林』の巨木を使っている。
更に『橙の騎士』が戦闘の度、敵の拘束や矢として放つことにより木々を消費しているのだから当然だ。
(ここまで荒らしたんだから、また土を管理する必要があるな)
自らの戦力であり、人々が営む大前提の『大森林』をそのまま縮小させる訳にはいかない。
それ故にグイドは激しい戦闘を行った後や、災害などのアクシデントが起こった場合は森の栄養をわざと偏らせるようにしている。
常人では骨の折れる作業であるソレも、『橙の騎士』としての力を使えばそこまで手間ではない。
とはいっても数日は余裕で掛かってしまう作業ではあるが。
「――いやぁ、素直に気持ち悪いねぇ。君という存在は」
ふと、背後から唐突に気配を感じてグイドは振り返る。
さも当然かのように、当たり前かのように、嫌らしい笑みを浮かべた魔族が木の上に立っていた。
「……ヘンリー、だな」
「ふぅん、流石に広まっちゃってるか。そうだよ、ボクの名はヘンリー。誇り高き奇跡を扱う、種族さ?」
「“木よ、従い動け”」
ヘンリーと自ら名乗った魔族へと、グイドは間髪なく木々を操りけしかける。
若干不意打ち気味で放たれたその攻撃は、しかしヘンリーの「おっと」という気の抜けた声と共に簡単に避けられてしまった。
「ほんっと、君ってつくづく気味悪い。いつまで“ぶってる”つもりだい?」
「だまれ……!」
前から数本の枝をけしかける……と見せかけてヘンリーの背後から地中に潜っていた根っこが飛び出した。
鋭い先端で躊躇なく突き刺そうという思惑だったが、それもヘンリーは簡単に避けてしまう。
“一瞬”で。
「転移、魔法。本当、に、使える、とは……面倒、だな」
「お褒め頂きこれっぽっちも嬉しくないですよ。特に、オマエにはな」
「……!」
最後の言葉に凄まじい威圧感……殺気を感じたグイドは咄嗟に右へと回避行動をする。
瞬間、ヘンリーの姿が先ほどまでグイドが居た場所の目の前に現れ、小型のナイフが空を切り裂いた。
「ぐっ……!“孤独よ、矢と化せ”!」
「またそれか、“フィルト”!」
少しでも体制を立て直すため、時間を稼ぐ目的で作られた急造の矢を放つグイド。
しかし、ヘンリーが右腕から放つ火の玉に焼き消され瞬時に灰と化してしまう。
すぐさま接近されると思ったグイドは、木でシールドを張り……何も攻撃をしてこないことに驚いた。
目の前に、怒りを抑え込むように震えるヘンリーの姿を見るまでは。
「……イラつくんだよ」
「なに、を……」
「オマエの言動と行動、その全てが!」
身も毛もよだつ程の嫌悪感を瞳に宿したヘンリーは、叫ぶ。
「表面では孤独を着飾っておいて、なんだその力は!木ばっかりに頼りやがって、少しも木々の心を考えてみたらどうだ!……“本物”を見せてやるよ――」
グイドの偽りを。
『騎士』としての心を。
己の、『騎士』の名を。
「――『樹木之怠惰』ッ!」
ヘンリーの周りに、樹木が現れた。
コメント