セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
"戦争の残骸"
「……つまりは、だ。アニータ、おめぇがワシんところ来たのは右腕を失ったヒヨっ子と関係あると?」
ワイアットの言葉にアニータはコクリと頷く。
少し時間を置いたためか先ほどの怒りを治めたウィリアムは、ワイアットに頭を下げて自らの希望を吐きだした。
「お願いします、『黄の騎士』ワイアットさん。俺の……右腕を“創って”ください」
「――――」
そうウィリアムが言った後にアニータが取り出したのは彼自身の右手。
魔族の刃で切り裂かれ、綺麗に跳ね飛ばされたその右手は止血の為に受けた炎の影響を受けずそのままの形を残していたのである。
「ウィリアムの右手はここにあります。ワイアットさんには右手と右肘を繋ぐ腕を創ってほしいのです」
「義腕、か」
右手と右肘を繋ぐ腕を創る、というのは言葉で言えば簡単だろう。
だがそれはただ単純に右腕全てを創るよりも凄まじく難しい、正に神業が必要となる。
右腕全てを創る義腕ならばある程度の物を持てるようにすればいいのだから、何かで形を固定してしまえばいい。
しかし、右手と右肘を繋ぐとなれば“一から肉体を創る”必要があるのだ。
腐らないように血が流れる管を作り、右手が正常に動かせるように神経を通らせ、疑似筋肉も創らなければならないのである。
これから1000年以上の時が経った後の技術でも難しいであろう、正に“神業”を彼らはワイアットに望んでいた。
あまりにも無謀で、無理は相談。
――それが“普通の人”ならば、であるが。
「あぁ、良いぜ。ヒヨっ子の右腕を創ってやる」
今の時代の今の技術では無理どころか不可能だ。
それでも『騎士の力』を使えば、不可能も可能となってしまう。
正に『騎士の力』は神の力と同意であり、この世全ての叡智を集めたとしても絶対に無理な所業を為す力である。
「ウィリアム、おめぇの右腕をこれまでと同じように……いやそれ以上の使い心地で創ってやる」
「い、いいんですか?」
「あったりめぇよ、何よりアニータの願いを断るわけにはいかねぇからな」
あっさり了承がもらえると思っていなかったウィリアムは、思わずワイアットに聞き返してしまうが、老いた彼は強気な笑みを浮かべて頷いて見せた。
頷く際に付け足した一言が気になったが、無事に自身の右腕が復活すると確約され安堵するウィリアム。
(これで、また人を護れる)
(我としてもウィリアムの体が直るのはありがたい話だ。良かったなウィリアムよ)
バラムの言葉にウィリアムは心の中で頷き、ワイアットに礼を言おうと頭を下げようとして――
「――だが、条件がある」
「条件、ですか?」
不意打ち気味に放たれた言葉に、ウィリアムとアニータの二人は眉を寄せた。
「おめぇらも知ってるだろうが、今ちょっとワシんところが厄介な問題を抱えていてな。その厄介ごとを手伝ってほしい」
「厄介ごと、とは一体なんでしょうか?」
嫌な予感を隠せないアニータはワイアットに向けて問う。
正直、熟練の『騎士』である彼が口にする“厄介ごと”とは何なのか、考えるだけでも嫌なのだがそうも言っていられない。
物騒な問題じゃなければ良いなとアニータは思う……が、その考えは儚く散ることになる。
「実はな、ワシんところの弟子の一人が……“戦争の残骸”に潜り込みやがった」
「……は?」
思わず威圧的な返しをしてしまうアニータ。
だがウィリアムは“戦争の残骸”という単語に聞き覚えがなく、首を傾げる。
「あの、“戦争の残骸”とは何ですか?」
「え、あぁそうね、住んでた地域的にウィリアムは知らなくて当然よね」
そう言ってアニータはウィリアムに“戦争の残骸”とは何か語り始めた。
“戦争の残骸”。
一言で言えばそれはある一定の地域の総称である。
昔、人間同士は国の領土確保の為に何度も戦争を行い同じ人間と殺し合っていた。
今でこそ魔族や禍族という、同じ敵が存在している為に手を取り合い協力しているが出現するまでは人間同士が争うなど日常風景だったのである。
何度も戦争を起こす中で戦場として選ばれるのは大体同じ場所であり、故にその地域は基本的に血と汗、涙で乾くことを知らなかった。
あるところは馬が駆けやすい平原であり、あるところは隠密しやすい森であり、あるところは駐屯するための洞窟である。
同じようなところで人を殺し、殺され続けた戦いは魔族や禍族が出現したことにより無くなったが、その傷跡は消えることは無い。
――禍族が最も出現するのが“戦争の残骸”の為だ。
まるで殺された人間の怨念を糧とするように禍族はおびただしい数が出現し、今では誰も……『騎士』でさえも入ることを躊躇う。
禍族の“力”が満ち満ちており、人間を除く生物が入ればすぐさま余物と化してしまうのだ。
奥深くまで入り込んでしまえば人でさえも飲み込まれることがあるのだから、その“力”の濃密さは凄まじい。
一通り“戦争の残骸”について聞いたウィリアムは、状況を把握して慌てるのも当然だと納得する。
「……そんなところに、入り込んでしまったんですが?一人で?」
「あぁ、らしい。どうやらソイツと同行してた奴の話だと、大事なモノを落としちまったらしくてな、話も聞かず言っちまったんだと」
「落ちた?」
疑問と答えが食い違っているようで頭上に疑問符を浮かべるウィリアム。
それに気付いたのか、補足するようにアニータが口を開いた。
「この村の近くにある“戦争の残骸”は洞窟なのよ。『呪窟』と呼ばれているわ」
「食料をそろそろ補充したくてな、ソイツ含めた数人に森へ狩りに行かせたんだが……どうやら空いた穴の一つが呪窟に繋がってたらしい」
つまりは呪窟へと落としてしまった大切なものを取りに行く為に弟子の一人が、たった一人だけで呪窟に潜り込んだということである。
何とも危ないことをするものだとウィリアムは呆れ、すぐさま立ち上がった。
「すぐに行きましょう、呪窟に。助けに行かないと」
「まぁ、ウィリアムならそう言うと思っていたわ。ワイアットさん、呪窟に私もついていきます。よろしいですよね?」
しょうがないと立ち上がるアニータ。
そんな二人を見て、ワイアットは大きく息を吐きだすと頭を下げた。
「すまん、不出来な弟子を助けるのを助けてくれ」
「喜んで」
一人で多くの禍族に対抗しえる『騎士』が三人も集まる。
目的はたった一つ。
――“戦争の残骸”に潜り込んだ弟子を助ける事。
ワイアットの言葉にアニータはコクリと頷く。
少し時間を置いたためか先ほどの怒りを治めたウィリアムは、ワイアットに頭を下げて自らの希望を吐きだした。
「お願いします、『黄の騎士』ワイアットさん。俺の……右腕を“創って”ください」
「――――」
そうウィリアムが言った後にアニータが取り出したのは彼自身の右手。
魔族の刃で切り裂かれ、綺麗に跳ね飛ばされたその右手は止血の為に受けた炎の影響を受けずそのままの形を残していたのである。
「ウィリアムの右手はここにあります。ワイアットさんには右手と右肘を繋ぐ腕を創ってほしいのです」
「義腕、か」
右手と右肘を繋ぐ腕を創る、というのは言葉で言えば簡単だろう。
だがそれはただ単純に右腕全てを創るよりも凄まじく難しい、正に神業が必要となる。
右腕全てを創る義腕ならばある程度の物を持てるようにすればいいのだから、何かで形を固定してしまえばいい。
しかし、右手と右肘を繋ぐとなれば“一から肉体を創る”必要があるのだ。
腐らないように血が流れる管を作り、右手が正常に動かせるように神経を通らせ、疑似筋肉も創らなければならないのである。
これから1000年以上の時が経った後の技術でも難しいであろう、正に“神業”を彼らはワイアットに望んでいた。
あまりにも無謀で、無理は相談。
――それが“普通の人”ならば、であるが。
「あぁ、良いぜ。ヒヨっ子の右腕を創ってやる」
今の時代の今の技術では無理どころか不可能だ。
それでも『騎士の力』を使えば、不可能も可能となってしまう。
正に『騎士の力』は神の力と同意であり、この世全ての叡智を集めたとしても絶対に無理な所業を為す力である。
「ウィリアム、おめぇの右腕をこれまでと同じように……いやそれ以上の使い心地で創ってやる」
「い、いいんですか?」
「あったりめぇよ、何よりアニータの願いを断るわけにはいかねぇからな」
あっさり了承がもらえると思っていなかったウィリアムは、思わずワイアットに聞き返してしまうが、老いた彼は強気な笑みを浮かべて頷いて見せた。
頷く際に付け足した一言が気になったが、無事に自身の右腕が復活すると確約され安堵するウィリアム。
(これで、また人を護れる)
(我としてもウィリアムの体が直るのはありがたい話だ。良かったなウィリアムよ)
バラムの言葉にウィリアムは心の中で頷き、ワイアットに礼を言おうと頭を下げようとして――
「――だが、条件がある」
「条件、ですか?」
不意打ち気味に放たれた言葉に、ウィリアムとアニータの二人は眉を寄せた。
「おめぇらも知ってるだろうが、今ちょっとワシんところが厄介な問題を抱えていてな。その厄介ごとを手伝ってほしい」
「厄介ごと、とは一体なんでしょうか?」
嫌な予感を隠せないアニータはワイアットに向けて問う。
正直、熟練の『騎士』である彼が口にする“厄介ごと”とは何なのか、考えるだけでも嫌なのだがそうも言っていられない。
物騒な問題じゃなければ良いなとアニータは思う……が、その考えは儚く散ることになる。
「実はな、ワシんところの弟子の一人が……“戦争の残骸”に潜り込みやがった」
「……は?」
思わず威圧的な返しをしてしまうアニータ。
だがウィリアムは“戦争の残骸”という単語に聞き覚えがなく、首を傾げる。
「あの、“戦争の残骸”とは何ですか?」
「え、あぁそうね、住んでた地域的にウィリアムは知らなくて当然よね」
そう言ってアニータはウィリアムに“戦争の残骸”とは何か語り始めた。
“戦争の残骸”。
一言で言えばそれはある一定の地域の総称である。
昔、人間同士は国の領土確保の為に何度も戦争を行い同じ人間と殺し合っていた。
今でこそ魔族や禍族という、同じ敵が存在している為に手を取り合い協力しているが出現するまでは人間同士が争うなど日常風景だったのである。
何度も戦争を起こす中で戦場として選ばれるのは大体同じ場所であり、故にその地域は基本的に血と汗、涙で乾くことを知らなかった。
あるところは馬が駆けやすい平原であり、あるところは隠密しやすい森であり、あるところは駐屯するための洞窟である。
同じようなところで人を殺し、殺され続けた戦いは魔族や禍族が出現したことにより無くなったが、その傷跡は消えることは無い。
――禍族が最も出現するのが“戦争の残骸”の為だ。
まるで殺された人間の怨念を糧とするように禍族はおびただしい数が出現し、今では誰も……『騎士』でさえも入ることを躊躇う。
禍族の“力”が満ち満ちており、人間を除く生物が入ればすぐさま余物と化してしまうのだ。
奥深くまで入り込んでしまえば人でさえも飲み込まれることがあるのだから、その“力”の濃密さは凄まじい。
一通り“戦争の残骸”について聞いたウィリアムは、状況を把握して慌てるのも当然だと納得する。
「……そんなところに、入り込んでしまったんですが?一人で?」
「あぁ、らしい。どうやらソイツと同行してた奴の話だと、大事なモノを落としちまったらしくてな、話も聞かず言っちまったんだと」
「落ちた?」
疑問と答えが食い違っているようで頭上に疑問符を浮かべるウィリアム。
それに気付いたのか、補足するようにアニータが口を開いた。
「この村の近くにある“戦争の残骸”は洞窟なのよ。『呪窟』と呼ばれているわ」
「食料をそろそろ補充したくてな、ソイツ含めた数人に森へ狩りに行かせたんだが……どうやら空いた穴の一つが呪窟に繋がってたらしい」
つまりは呪窟へと落としてしまった大切なものを取りに行く為に弟子の一人が、たった一人だけで呪窟に潜り込んだということである。
何とも危ないことをするものだとウィリアムは呆れ、すぐさま立ち上がった。
「すぐに行きましょう、呪窟に。助けに行かないと」
「まぁ、ウィリアムならそう言うと思っていたわ。ワイアットさん、呪窟に私もついていきます。よろしいですよね?」
しょうがないと立ち上がるアニータ。
そんな二人を見て、ワイアットは大きく息を吐きだすと頭を下げた。
「すまん、不出来な弟子を助けるのを助けてくれ」
「喜んで」
一人で多くの禍族に対抗しえる『騎士』が三人も集まる。
目的はたった一つ。
――“戦争の残骸”に潜り込んだ弟子を助ける事。
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