セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
"余物"と呼ばれた物たち
ウィリアムの鍛錬が始まり早一週間が経った。
初日にして“本当の全力”を思い知り、自身がどれほど弱いかを再確認したウィリアムは人一倍努力するようになる。
10をやれと言われれば20を行い、50をやれと言われれば100をこなす……正に一心不乱で鍛錬していた。
治癒の方も中々順調らしく、毎日反吐が出るほど体を動かし擦り減った栄養を補うため、今までの三倍近くの量を食べていたお蔭らしい。
始めの治癒は後遺症になりやすい治りかけた骨を完全に治したらしく、それ以降は“呪病”の治癒へ移っていた。
「――はい、これで終了よ」
「ありがとうございます」
ようやく一ヶ月の治癒期間の内、一週間を終えたことにウィリアムは一安心する。
体が非常に重たくなることも無くなり、殆ど元通りに動けるようになったことを確認するウィリアム。
治癒の進み具合に頬を緩めるウィリアムに、アニータは真剣な表情で「さて」と言葉を発した。
「一週間が経って、ウィリアム君の“呪病”は収まり始めたわ。大体三割ほどかしら?」
「三割……ですか」
何度も言うが“呪病”にかかると一番厄介なのは『騎士の力』を扱えなくなる点である。
『騎士の力』が扱えなくなると言うことは、身体能力の超強化も出来なくなり能力も使えなくなることに等しい。
この病気にかかった時点で、『騎士』は『騎士』でなくなるのだ。
されど一週間という期間を経て、ウィリアムの“呪病”の三割は収まったらしい。
つまりは、である。
「多少なりとも『騎士の力』を扱えるようになったということですか?」
「えぇ、その通りよ」
人々を護る為の力を少なくとも扱えることが出来る……その事実だけでウィリアムの表情は明るくなった。
程度の問題ではない、“使えるか”“使えないか”の問題だろう。
頬を緩めたウィリアムにアニータは指をさして「ただし」と忠告する。
「得物は使えないし、能力も使えないわ。身体能力でさえ、半分も強化されない」
「どれくらいの身体能力になりますか?」
自らの望みを叶えるための力。
ウィリアムにとってそれが“大楯”と属する能力だ。
それらが使えないのは苦しいが、使えないものは使えないのだから仕方がないとウィリアムは思う。
重要なのは、一体今の自分でどれだけのことが出来るか。
食い入るように見つめるウィリアムの視線を浴びながらも、アニータは目を細め考える。
「……今の素の身体能力にも依るけど、大体エレベンテと同程度じゃないかしら?」
衛兵長であるエレベンテと同程度の身体能力ということは、つまり禍族に対し十数分時間稼ぎを行える程度の力を得るということだ。
もちろんウィリアムとエレベンテの間には戦闘経験や技術などの差がある為、ウィリアムが時間稼ぎに徹したとしても十数分も持ちこたえられないだろうが。
だがそれでも、“エレベンテと同程度の身体能力”という言葉は嬉しかったらしい。
「ありがとうございます、アニータさん」
「――――」
笑みを浮かべてお礼を言うウィリアムにアニータは息を呑む。
顔を背けて瞳を伏せると、振るえる唇で言葉を紡いだ。
「……別に、お礼されることじゃないわ」
「それでも言わせて下さい」
ウィリアムの瞳には震える彼女の姿が映る。
人嫌いだと言いながら、ここまでお節介をしてくれる女性の姿が。
(貴女は、本当に人が嫌いなんですか?)
その言葉をただ言うことは無く、ウィリアムはアニータに感謝の頭を下げた。
「害獣退治、ですか?」
「あぁ、丁度“呪病”も収まりかけて『騎士の力』を使えるんだろう?一ヶ月も体を作ることに使うのは得策じゃないからな」
いつも通りに訓練場へとやってきたウィリアムが聞かされたのは、訓練の一環として害獣退治に参加することだった。
エレベンテからの意外な申し出にウィリアムは驚きつつも、なるほどと納得する。
本来の衛兵の訓練ならば、最低でも一年は体を作ることに専念するだろう。
だがウィリアムは衛兵見習いではなく『騎士』だ。
素の身体能力も十分に大事だがそれ以上に必要なのは戦闘経験。
『騎士』である以上、禍族と一対一で戦う上での最低限の身体能力は『騎士の力』で補うことが可能である。
故に今のウィリアムに最も必要なのは、どれだけ戦闘時上手く動けるかの訓練だった。
「お気遣い、ありがとうございます」
「いや良いんだ。最近“余物”が増えてね、対処に困ってたんだ」
タイミングが良かったんだよと笑うエレベンテに、ウィリアムは頭を下げた。
「……っと、そういえばキミは余物について知ってるか?一般人では知らない人も中々多くてね」
「禍族の“力”の残りカスが動物に憑りついた結果出来た害獣、ですよね?」
慌てて思い出したようにエレベンテは問うが、読書が趣味だったウィリアムは流石に余物という存在については把握している。
どうやら本当に少年は知っているらしい、と安心したようで息を吐くエレベンテ。
“余物”。
先ほどウィリアムが言った通り、禍族の“力”の残りカスが動物に憑いた結果出来る害獣の事を指す。
どうやら禍族が持つ“力”は普通の生物にとってかなり有害の物らしく憑かれたら最後、人を殺すだけの機械に成り下がる。
だが“力”の残りカスは人間だけは憑いた事例は一度も無く、全て知能レベルの低い動物や植物にだけ影響していた。
“余物”と成った生物たちは考える力を完全に失くし、ただただ人間を襲い喰らい続ける。
生物では絶対に在り得ない強さを持ち、意識でさえ失くした生物はもう既に“生き物”ではない。
――故に、“余物”。
「キミは余物との戦闘経験は?」
「いえ、俺が経験したのは禍族との戦いだけです」
ふむふむと頷きながら訓練時どこに入れるか頭を抱えるエレベンテ。
知識だけは知っているものの、肝心な余物自体をウィリアムは見たことがない。
というより、それが本来普通なのだが。
余物は本来あまり姿を現さない……というより余物に成ることが少ないのだ。
禍族の力の残りカスによって生まれる存在の為、まず禍族が出現しないことには余物は出来ることは無いのである。
つまりそれが意味することは一つ。
「……さきほど、余物が増えていると言っていましたよね?」
「ん?あぁ。言いたいことは分かるさ、禍族出現の前兆、だろ?」
コクリと頷くウィリアムに、エレベンテは小さく笑う。
「この街には『藍の騎士』が居るし、キミもいる。何も心配することなんてないだろ?」
「――――」
その笑みから窺えるのは確かな信頼。
『騎士』が居るから大丈夫だと、『騎士』に任せておけば心配ないのだと。
エレベンテの笑みが、言葉が、全てが物語っていた。
だから一瞬ウィリアムは固まる。
今、初めて『緑の騎士』は――
「そうですね」
――信頼の重さに挫けそうになった。
(これが、重さか)
(苦しいか?ウィリアム)
人々から信頼される、その意味、その重さを実感したウィリアムは手汗を拭う。
信頼の重さを痛感するウィリアムに、バラムがそう問いかけた。
それは心配であり、確認であり……“煽り”。
内心で挑発的な笑みを浮かべると、ウィリアムはその問いに答える。
(苦しいけど、辞めないし止まらない。これは俺が選んだ道だから)
(……うむ)
これ以上言うことは無いとバラムはこれ以降、ウィリアムに声をかけることは無かった。
「じゃあウィリアム、確かキミの得物は大楯だったな?」
「あっ、は、はい」
意識を現実へ戻すと、エレベンテは両手にウィリアムが使うであろう武具を担いで持ってくるのが見える。
礼を言おうとしたウィリアムは、エレベンテが担ぐ武具の中にある物が交じっていて首を傾げた。
「あの、なんで片手剣を?」
「キミに付けてもらうためだ」
ウィリアムが『騎士の力』で創り出す得物は“大楯”のみであり、片手剣などは創られない。
故にウィリアムの戦闘スタイルは常に大楯のみの、防御一点型だった。
だからこそ、いきなり片手剣を持てなど言われてもウィリアムは困るだけである。
困惑するウィリアムに、ため息をつくエレベンテ。
「キミは今まで大楯だけで戦ってきたんだろ?」
「えぇ、ですから――」
「――攻撃は誰がした?」
言われてウィリアムは思い出して……気付く。
ウィリアムは今まで四体もの禍族と戦い、その中でウィリアムが明確に攻撃したのは一体のみ。
誰も助けに入れなかった、初めての戦いのときである。
初めての戦いのときも行った攻撃は相手の懐に大楯を突き立て、纏っていた風で吹き飛ばしただけ。
それ以降は常に防御に徹し、ブランドンやエンテに攻撃を任せていたのだ。
攻撃力を持ってはいるがあまりに不確定すぎるし、隙が多い。
纏めれば、ウィリアムは明確な攻撃手段を持ってはいなかった。
気付いて大きく目を開くウィリアムに、エレベンテは「だから」と言葉を続ける。
「これからはキミも攻撃に参加するんだ。防御一点型ではなく、防御優先型に戦闘スタイルを変える。それだけで今まで以上に強くなるはずだ」
「……俺が、攻撃」
『騎士』であるウィリアムが望むもの、それは“全てを護る力”。
だからこそ顕現した得物は大楯だし、付属する能力も人を護ることを優先するものだ。
けれど全てを護りたいと望むウィリアムにエレベンテが求めるのは、攻撃する力だった。
エレベンテは受け取ろうか迷うウィリアムの肩に手を置く。
「キミは何の為に『騎士』になった?」
「それは……全てを、護りたいからです」
文字通り全て。
人々であり、世界であり、国であり、生命そのもの。
「なら余計ウィリアム、キミはこの剣を持つべきだ」
どうしてとウィリアム眉を潜め、エレベンテを真正面から見続ける。
エレベンテもその真っ直ぐな瞳を見返し、「何故なら――」と言葉を続けた。
「――“攻撃から守ること”だけが、“護ること”じゃない」
「――――」
言葉を失ったウィリアム。
それほどに、目の前の男性が言ったことは破壊力があったのだ。
同時にウィリアムは、心のどこかで理解する。
彼が言っていることは正しいのだと。
「キミは全てを護る為に、脅かす敵を倒せねばならない。禍族を倒せば余物という憐れな物たちも無くなり、魔族を倒せば物理的な脅威も無くなる」
だから武器を持てと、彼はそう訴えた。
全てを護る為に抗う力を持てと、彼はそう願った。
「……ありがとう」
エレベンテは自身の両手から重みが無くなるを感じて、ウィリアムへ笑顔を送る。
けれど受け取ったウィリアムの表情は暗いままだ。
「貴方の言いたいことは分かりましたし、理解もしました。……けど、まだ納得はしてない」
「…………」
真面目な表情でウィリアムが発する言葉を、エレベンテは真剣に受け取る。
あくまで納得していないのだと。
「だから、俺はこの片手剣は必要な時以外使いません」
ウィリアムは告げた。
――自身の信条は、絶対に曲げたくないのだと。
初日にして“本当の全力”を思い知り、自身がどれほど弱いかを再確認したウィリアムは人一倍努力するようになる。
10をやれと言われれば20を行い、50をやれと言われれば100をこなす……正に一心不乱で鍛錬していた。
治癒の方も中々順調らしく、毎日反吐が出るほど体を動かし擦り減った栄養を補うため、今までの三倍近くの量を食べていたお蔭らしい。
始めの治癒は後遺症になりやすい治りかけた骨を完全に治したらしく、それ以降は“呪病”の治癒へ移っていた。
「――はい、これで終了よ」
「ありがとうございます」
ようやく一ヶ月の治癒期間の内、一週間を終えたことにウィリアムは一安心する。
体が非常に重たくなることも無くなり、殆ど元通りに動けるようになったことを確認するウィリアム。
治癒の進み具合に頬を緩めるウィリアムに、アニータは真剣な表情で「さて」と言葉を発した。
「一週間が経って、ウィリアム君の“呪病”は収まり始めたわ。大体三割ほどかしら?」
「三割……ですか」
何度も言うが“呪病”にかかると一番厄介なのは『騎士の力』を扱えなくなる点である。
『騎士の力』が扱えなくなると言うことは、身体能力の超強化も出来なくなり能力も使えなくなることに等しい。
この病気にかかった時点で、『騎士』は『騎士』でなくなるのだ。
されど一週間という期間を経て、ウィリアムの“呪病”の三割は収まったらしい。
つまりは、である。
「多少なりとも『騎士の力』を扱えるようになったということですか?」
「えぇ、その通りよ」
人々を護る為の力を少なくとも扱えることが出来る……その事実だけでウィリアムの表情は明るくなった。
程度の問題ではない、“使えるか”“使えないか”の問題だろう。
頬を緩めたウィリアムにアニータは指をさして「ただし」と忠告する。
「得物は使えないし、能力も使えないわ。身体能力でさえ、半分も強化されない」
「どれくらいの身体能力になりますか?」
自らの望みを叶えるための力。
ウィリアムにとってそれが“大楯”と属する能力だ。
それらが使えないのは苦しいが、使えないものは使えないのだから仕方がないとウィリアムは思う。
重要なのは、一体今の自分でどれだけのことが出来るか。
食い入るように見つめるウィリアムの視線を浴びながらも、アニータは目を細め考える。
「……今の素の身体能力にも依るけど、大体エレベンテと同程度じゃないかしら?」
衛兵長であるエレベンテと同程度の身体能力ということは、つまり禍族に対し十数分時間稼ぎを行える程度の力を得るということだ。
もちろんウィリアムとエレベンテの間には戦闘経験や技術などの差がある為、ウィリアムが時間稼ぎに徹したとしても十数分も持ちこたえられないだろうが。
だがそれでも、“エレベンテと同程度の身体能力”という言葉は嬉しかったらしい。
「ありがとうございます、アニータさん」
「――――」
笑みを浮かべてお礼を言うウィリアムにアニータは息を呑む。
顔を背けて瞳を伏せると、振るえる唇で言葉を紡いだ。
「……別に、お礼されることじゃないわ」
「それでも言わせて下さい」
ウィリアムの瞳には震える彼女の姿が映る。
人嫌いだと言いながら、ここまでお節介をしてくれる女性の姿が。
(貴女は、本当に人が嫌いなんですか?)
その言葉をただ言うことは無く、ウィリアムはアニータに感謝の頭を下げた。
「害獣退治、ですか?」
「あぁ、丁度“呪病”も収まりかけて『騎士の力』を使えるんだろう?一ヶ月も体を作ることに使うのは得策じゃないからな」
いつも通りに訓練場へとやってきたウィリアムが聞かされたのは、訓練の一環として害獣退治に参加することだった。
エレベンテからの意外な申し出にウィリアムは驚きつつも、なるほどと納得する。
本来の衛兵の訓練ならば、最低でも一年は体を作ることに専念するだろう。
だがウィリアムは衛兵見習いではなく『騎士』だ。
素の身体能力も十分に大事だがそれ以上に必要なのは戦闘経験。
『騎士』である以上、禍族と一対一で戦う上での最低限の身体能力は『騎士の力』で補うことが可能である。
故に今のウィリアムに最も必要なのは、どれだけ戦闘時上手く動けるかの訓練だった。
「お気遣い、ありがとうございます」
「いや良いんだ。最近“余物”が増えてね、対処に困ってたんだ」
タイミングが良かったんだよと笑うエレベンテに、ウィリアムは頭を下げた。
「……っと、そういえばキミは余物について知ってるか?一般人では知らない人も中々多くてね」
「禍族の“力”の残りカスが動物に憑りついた結果出来た害獣、ですよね?」
慌てて思い出したようにエレベンテは問うが、読書が趣味だったウィリアムは流石に余物という存在については把握している。
どうやら本当に少年は知っているらしい、と安心したようで息を吐くエレベンテ。
“余物”。
先ほどウィリアムが言った通り、禍族の“力”の残りカスが動物に憑いた結果出来る害獣の事を指す。
どうやら禍族が持つ“力”は普通の生物にとってかなり有害の物らしく憑かれたら最後、人を殺すだけの機械に成り下がる。
だが“力”の残りカスは人間だけは憑いた事例は一度も無く、全て知能レベルの低い動物や植物にだけ影響していた。
“余物”と成った生物たちは考える力を完全に失くし、ただただ人間を襲い喰らい続ける。
生物では絶対に在り得ない強さを持ち、意識でさえ失くした生物はもう既に“生き物”ではない。
――故に、“余物”。
「キミは余物との戦闘経験は?」
「いえ、俺が経験したのは禍族との戦いだけです」
ふむふむと頷きながら訓練時どこに入れるか頭を抱えるエレベンテ。
知識だけは知っているものの、肝心な余物自体をウィリアムは見たことがない。
というより、それが本来普通なのだが。
余物は本来あまり姿を現さない……というより余物に成ることが少ないのだ。
禍族の力の残りカスによって生まれる存在の為、まず禍族が出現しないことには余物は出来ることは無いのである。
つまりそれが意味することは一つ。
「……さきほど、余物が増えていると言っていましたよね?」
「ん?あぁ。言いたいことは分かるさ、禍族出現の前兆、だろ?」
コクリと頷くウィリアムに、エレベンテは小さく笑う。
「この街には『藍の騎士』が居るし、キミもいる。何も心配することなんてないだろ?」
「――――」
その笑みから窺えるのは確かな信頼。
『騎士』が居るから大丈夫だと、『騎士』に任せておけば心配ないのだと。
エレベンテの笑みが、言葉が、全てが物語っていた。
だから一瞬ウィリアムは固まる。
今、初めて『緑の騎士』は――
「そうですね」
――信頼の重さに挫けそうになった。
(これが、重さか)
(苦しいか?ウィリアム)
人々から信頼される、その意味、その重さを実感したウィリアムは手汗を拭う。
信頼の重さを痛感するウィリアムに、バラムがそう問いかけた。
それは心配であり、確認であり……“煽り”。
内心で挑発的な笑みを浮かべると、ウィリアムはその問いに答える。
(苦しいけど、辞めないし止まらない。これは俺が選んだ道だから)
(……うむ)
これ以上言うことは無いとバラムはこれ以降、ウィリアムに声をかけることは無かった。
「じゃあウィリアム、確かキミの得物は大楯だったな?」
「あっ、は、はい」
意識を現実へ戻すと、エレベンテは両手にウィリアムが使うであろう武具を担いで持ってくるのが見える。
礼を言おうとしたウィリアムは、エレベンテが担ぐ武具の中にある物が交じっていて首を傾げた。
「あの、なんで片手剣を?」
「キミに付けてもらうためだ」
ウィリアムが『騎士の力』で創り出す得物は“大楯”のみであり、片手剣などは創られない。
故にウィリアムの戦闘スタイルは常に大楯のみの、防御一点型だった。
だからこそ、いきなり片手剣を持てなど言われてもウィリアムは困るだけである。
困惑するウィリアムに、ため息をつくエレベンテ。
「キミは今まで大楯だけで戦ってきたんだろ?」
「えぇ、ですから――」
「――攻撃は誰がした?」
言われてウィリアムは思い出して……気付く。
ウィリアムは今まで四体もの禍族と戦い、その中でウィリアムが明確に攻撃したのは一体のみ。
誰も助けに入れなかった、初めての戦いのときである。
初めての戦いのときも行った攻撃は相手の懐に大楯を突き立て、纏っていた風で吹き飛ばしただけ。
それ以降は常に防御に徹し、ブランドンやエンテに攻撃を任せていたのだ。
攻撃力を持ってはいるがあまりに不確定すぎるし、隙が多い。
纏めれば、ウィリアムは明確な攻撃手段を持ってはいなかった。
気付いて大きく目を開くウィリアムに、エレベンテは「だから」と言葉を続ける。
「これからはキミも攻撃に参加するんだ。防御一点型ではなく、防御優先型に戦闘スタイルを変える。それだけで今まで以上に強くなるはずだ」
「……俺が、攻撃」
『騎士』であるウィリアムが望むもの、それは“全てを護る力”。
だからこそ顕現した得物は大楯だし、付属する能力も人を護ることを優先するものだ。
けれど全てを護りたいと望むウィリアムにエレベンテが求めるのは、攻撃する力だった。
エレベンテは受け取ろうか迷うウィリアムの肩に手を置く。
「キミは何の為に『騎士』になった?」
「それは……全てを、護りたいからです」
文字通り全て。
人々であり、世界であり、国であり、生命そのもの。
「なら余計ウィリアム、キミはこの剣を持つべきだ」
どうしてとウィリアム眉を潜め、エレベンテを真正面から見続ける。
エレベンテもその真っ直ぐな瞳を見返し、「何故なら――」と言葉を続けた。
「――“攻撃から守ること”だけが、“護ること”じゃない」
「――――」
言葉を失ったウィリアム。
それほどに、目の前の男性が言ったことは破壊力があったのだ。
同時にウィリアムは、心のどこかで理解する。
彼が言っていることは正しいのだと。
「キミは全てを護る為に、脅かす敵を倒せねばならない。禍族を倒せば余物という憐れな物たちも無くなり、魔族を倒せば物理的な脅威も無くなる」
だから武器を持てと、彼はそう訴えた。
全てを護る為に抗う力を持てと、彼はそう願った。
「……ありがとう」
エレベンテは自身の両手から重みが無くなるを感じて、ウィリアムへ笑顔を送る。
けれど受け取ったウィリアムの表情は暗いままだ。
「貴方の言いたいことは分かりましたし、理解もしました。……けど、まだ納得はしてない」
「…………」
真面目な表情でウィリアムが発する言葉を、エレベンテは真剣に受け取る。
あくまで納得していないのだと。
「だから、俺はこの片手剣は必要な時以外使いません」
ウィリアムは告げた。
――自身の信条は、絶対に曲げたくないのだと。
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