セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―

清弥

誕生せしは『緑の騎士』

「『緑の騎士』の席が埋まっただとッ!?」
「はい」


 大理石で作られた楕円形の机に座る、中年の男性が神官風の装いをした女性の報告に驚きの声を放つ。
 それは他の机に座る中年や老年の男性たちも同じだった。
 長年埋まることが無かったセブンスナイツの“緑”を司る、『緑の騎士』がようやく埋まったのだから、仕方がないのだが。


「――静まれ」


 だが、騒がしくなった会議を中でも若い男性が一瞬で黙らせる。
 楕円形の机の議長席に座る男性は、神官の装いをした女性に視線を向けると「それは確かか」と確認した。


「はい。巫女様が異様な“力”の高まりを感知いたしましたので」
「疑う訳ではない、が魔族の可能性は?」


 再度問う若い男性に、神官の装いをした女性は「それは無いと思われます」と顔を上げ即答。


「“力”の高まりが発生したのが、先ほど報告した禍族が現れた街ですので――」
「――危機に迫られ『騎士』となったか」


 歴史上、何度も『騎士』に誰かが選ばれるので、その傾向にも一定のものがあることがわかっていた。


 先代『騎士』に直接託され『騎士』となる者。
 命の危機に陥り力を望んで『騎士』となる者。
 『騎士』を目指した果てに『騎士』となる者。
 稀にだが“力”に認められ『騎士』となる者。


 今回の場合は命の危機に陥った故に、『騎士』に選ばれたのだろうと若い男性は察する。


「了解した。して出現した禍族の対策は行ったのか……説明して頂けるな?」
「その地区担当の『赤の騎士』ブランドン・ドルートに対処を任せています。また、現れたであろう『緑の騎士』の保護についても、彼に委任しています」


 神官の装いをした女性の言葉を聞き、議長席に座る若い男性は“巫女”の対策の速さと的確さに内心で驚嘆した。


(流石は長年、禍族対策を一任されている組織『巫女族』ではある、か)


 『巫女族』。
 それは普通の人々では到底感じるが出来ない“力”を感知することが出来る、特殊な一族の事を指す。
 中でも“巫女様”と呼ばれる老年の女性は、『セブンスナイツ』が生まれた瞬間から存命していると聞かされている。


 豊富な対禍族の経験を持ち、故に今現在では緊急を要する禍族が出現した場合のみではあるが、独断採決が可能なほどだ。
 もちろんそれ以外に関してはある一定以上の発言力を持てないよう、調整はしている。
 また独断採決を行った場合、その後『巫女族』の行動は正しかったのか会議で判断されることでバランスを取っていた。


「では、緊急を要した為の独断採決に賛同の者は起立」


 楕円状の机に座る人々がほぼ同時に起立し、『巫女族』の英断に拍手を送る。
 その中で“座りながら”拍手を見送った若い男性は、拍手が鳴り止むと言葉を続けるため口を開けた。


「全員一律賛同。我らが『連盟国家・エンデレナード』は『巫女族』の独断採決に賛同しよう」


 『連盟国家・エンデレナード』。
 元々数多くあった国家が、禍族と魔族という同じ敵に対抗するため創り上げた“ひとつの国家”である。
 連盟国家として会議に参加するのは国を治めていた中年、老年の代表たちと――


「私も君たちの独断採決に賛同しよう」


 ――その会議を治める、実質的なエンデレナードの王である30半ばの若い男性だ。


 議長であり王として在る彼はここまで言ってようやく、他の代表たちと同じように立ち上がり拍手を送る。
 ここまでしてようやく、ひとつの国家が認めた結果になるのだ。


「……ありがたく存じます」


 『巫女族』の一人である神官の装いをした女性は、ただその拍手を一身に受けていた。








「んだとテメェ!俺に逆らおうってんのか!あァ!?」


 その怒り狂う男を何度見たのだろうか。


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 その泣き喚く女を何度見たのだろうか。


 ――その映る光景達を何度見たのだろうか。


 無駄だ。
 そう思っているのに、そう分かっているのに“僕”は手を伸ばす。


「や、めて」
「あ?何か言ったか糞餓鬼」


 震える声で制止しても男は聞かないし、果てにはこっちにまで被害を食らう。
 男は怯えながらも真っ直ぐ見つめる“僕”に苛立ったのか、腕を振り上げ思いっきり殴りつけた。


「やめてぇ!それでもあの子の父親なの!?」
「テメェが勝手に産んだ子だろうがッ!」


 小さな体には到底、敵わない男の暴力によって視界がぐらつく中で“僕”は手を伸ばす。
 泣きじゃくる“母”に、手を伸ばしたのだ。


 どうして男はこんな酷いことをするのだろう。
 どうして母はこんな酷い目を受けるのだろう。
 どうして僕は見ながら何も出来ないのだろう。


 あぁ、そうか。
 きっと――


「僕が……」


 ――瞬間、頬に衝撃は走る。


「……えっ?」
「よう、ようやく起きたか坊主」


 ヒリヒリする頬をウィリアムは擦りながら、目の前に居る見知らぬ男性を見て現状を理解しようと頭を回した。


「え、と……?」
「おおおお!ようやく起きたかウィリアムッ!!」


 だが頭を回そうとしたウィリアムの邪魔をしたのは、彼の友人……エンタである。
 嬉しそうに頬を緩ませ、男性を退けてベッドを食い込まるほどに体を前へ傾けてキラキラとした瞳でウィリアムを見た。


「良かったぜ、お前全く目を覚まさないからメッチャ不安だったんだぞ」
「――ぁ」


 ここまで聞かされ、ウィリアムはようやく思い出す。
 禍族がいきなり現れ町に攻め込んできたこと。
 それを食い止めるため、エンテと彼の父親が立ち向かったこと。
 無残にもエンテの父親が殺されエンテも殺されそうになったこと。


 ――そうして、町の人々やエンテを護る為に自身が『緑の騎士』となったこと。


「そっか、俺が倒したんだ……」
「思い出したか、緑の坊主」


 エンテとは違う声がしてそちらに顔を向ける。
そこには目を覚ました瞬間、視界に映った黒髪黒目の珍しい色をした男性が立っていた。
無精髭をゴツゴツとした手で弄りながら、男性はウィリアムに真っ白な歯を見せながら笑いかける。


「自己紹介が遅れたな、俺は『赤の騎士』を任されたブランドン・ドルート。緑の坊主と同じ『騎士』だ。よろしくな」


 ガハハと大きく口を開け、機嫌良く男性……ブランドンは朗らかに笑う。
 一瞬どうして『赤の騎士』がこの場に居るのかとウィリアムは真面目に考えるが、すぐさま禍族の対策なのだと理解した。


「ではブランドンさんはこの町に出現した禍族の対処に?」
「あぁ、そうだ。ま、といってもお前さんが倒しちまったがな」


 全く良くやるよと、手を伸ばしてブランドンはウィリアムの頭を乱暴に撫でる。


 ゾクリ。


 脳裏に浮かびあがるのは“あの男”。
 頭を撫でる手があまりに硬く大きかったからか、ウィリアムは自身の背中に寒気が這いよるのを感じ――


「ッ……!」
「――――」


 ――無意識に、頭に手を置く大きな手を跳ね除けた。
 その行動があまりにも意外で、ブランドンは大きく目を見開き硬直してしまう。


「ぁ……。す、すみませんっ!」
「ん?頭を撫でられるのが女みたいで嫌なだけだったんだろ?分かるぜ、俺も頭を撫でられたら女扱いかよって怒るしな」


 「ま、誰も俺の頭なんざ撫でねぇけどな」とブランドンは気にした様子もなく、変わらず白い歯を見せながら笑った。


「だからよ、気にすんな」
「……はい」


 ウィリアムはブランドンに目を背け小さく頷く。
 気を遣われたのだと理解したからこそ、感謝よりも申し訳なさが勝っていたから。


 明るさを落としてしまった雰囲気を取り戻す為、エンテは大きく伸びをしてウィリアムに話しかけた。


「なぁウィリアム、腹減ってねぇか?俺腹が減ってさ」
「お、良いね。仕方ない、頑張った二人におじさんがおごってあげようじゃないか」


 来いよとエンテは意気消沈してしまったウィリアムに手を伸ばす。
 徹して明るく接しようとするエンテと、あくまで傷付いていないと笑いかけるブランドンにウィリアムは心から感謝する。


「……あぁ、行くよ」


 救われた気がして、エンテの手を取りウィリアムはベッドから抜け出した。








 なお、補足するならウィリアムが寝ていた場所は治療院。
 つまりはコッソリ治療院を抜け出しご飯を食べに行ったウィリアムはもちろん、連れ出したエンテとブランドンも職員にキッチリ怒られたのは、また別の話だ。

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