不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

5章9話

「『鬼夜叉デモニア』がァ……俺らの、助太刀だとォ……?」

 ヘルムートと名乗った少年の言葉に、キョーガとサリスが困惑の表情を浮かべた。

「おうさ! ま、事情は説明できねぇけどな!」
「…………はっ。んなの、俺がはいそうですかって信じると思ってんのかァ? ──とっとと失せろォ。てめェの薄っぺらい表情見てっとイライラすんだよォ」

 ヘルムートを押し退け、キョーガがアレスと向かい合う。

「ま、そう言うなって! お前にここで死なれちゃ、俺も困るんだしよ!」
「……胡散臭ェなァ……なんで俺が死んだら、てめェが困んだよォ?」
「んー……それは言えないな! こっちにも色々と事情ってのがあるし!」

 そう言ってヘルムートが笑う──それと同時。

「──『全面凍結コキュートス』」

 ──パキパキパキパキッ!
 突如、地面に氷が走り──そのまま、アレスを氷の中に包み込んだ。
 だが、それも一瞬の話。
 瞬く間に氷が粉々に吹き飛ばされ──特にダメージを負った様子もないアレスが、キョーガの後ろに目を向けた。

「……今度は『氷結銀狼フェンニル』ッスか……今日はよく邪魔が入る日ッスねぇ」

 予想外の言葉に、キョーガはバッと振り返った。
 そこには──ラッセルと契約しているはずの『氷結銀狼フェンニル』の姿があった。

「てめェ……なんでここにいんだァ?」

 キョーガの言葉に、『氷結銀狼フェンニル』は濃い青色の瞳を少しだけ動かした。
 数秒だけキョーガを捉え──スッと、視線を逸らす。

「……ヘルムート……なに、遊んでるの……?」
「別に遊んでねぇよ! つーか来るの遅かったな、ルナ?」
「……あなた、が……早い、だけ……」

 ──ルナ?
 ラッセルと契約していた『氷結銀狼フェンニル』の名前は、確かラナだったはず。
 という事は……目の前の少女は、キョーガたちの知っている『氷結銀狼フェンニル』ではない?

「それ、で……コイツが……の、言ってた……『反逆霊鬼リベリオン』……?」
「ああ。『戦神アレス』と『時神クロノス』が相手だからな……さすがに加勢しないとマズいだろ?」
「……そう……好きに、したら……」

 拳を握るヘルムートと、剛爪を構えるルナが戦闘態勢に入り──

「──『完全再現リコール』」

 ──豹変した雰囲気に、二匹の召喚獣はキョーガに視線を向けた。

「……オイサリスゥ、いつまでもヘラヘラ笑ってんじゃねェ。そろそろ本気でぶっ潰すぞォ」
「ん〜、そうだね〜♪ ──それじゃ〜そろそろ、本気でろっか」

 腰を落とし、左半身を前にして構えるキョーガ。
 顔から笑顔を消し、身を低くして黒い殺気を放つサリス。
 その姿を見たアレスが、どこか嬉しそうに笑った。

「へぇ……まだ本気じゃなかったんスね」
「あァ……力じゃ勝てねェ事ァわかったァ。こっからァ技を使って戦わせてもらうぜェ──!」

 キョーガが地面を踏み込み──アレスの前に移動。
 それに合わせ、アレスが拳を放ち──

「ふっ──あァあああああッッ!!」

 寸前で拳を躱しながら、アレスの腕と交差するようにしてキョーガが拳を放った。
 ──クロスカウンター。
 キョーガの一撃は的確にアレスの顎を捉え、拳を引き戻すと同時に素早いワンツーを入れる。

「オラオラオラァッ! どんどんいくぞゴラァアアアアアアアアッッ!!」

 アレスの攻撃を正確に避け、連撃を叩き込む。

「く、そ……! ちょこまかするんじゃ──ねぇッスよッ!」

 アレスが思い切り腕を振り抜き──辺りに暴風が吹き荒れる。
 ──目の前にキョーガがいない。暴風により吹き飛ばされたのだろう。
 そんなアレスの考えは──

「──ふゥ……!」
「ッ?! 後ろ──」

 アレスの後ろ──そこに、キョーガがいた。

 ──キョーガはずっと考えていた。
 アグナムの教えてくれた『付属魔力エンチャント』……それの、別の使い方について。
 アグナムが言うには、魔力を筋肉と結び付ける事で、強力な力と頑丈な硬さを得る事ができるんだとか。

 だが……それは変ではないか?
 アグナムは自分の腕に剣を振り下ろして、ケガ一つしていなかった。
 だとすれば──硬くなっていたのは筋肉だけではなく、皮膚もではないか?
 という事は……皮膚の表面を、魔力で覆う事で硬質化していたのではないか?

 それは、つまり──キョーガの『焼却角砲ホーン・ファイア』と同様、魔力はいつでも体外に出す事ができる?

「食らいやがれェ──」

 これはまだ、試作段階の技。というか、まだ練習した事もない技だ。
 だが、キョーガの推測が正しければ──実現する事が可能なはず。

「必殺──」

 腰を捻り──キョーガが、掌底を放った。

「──『鬼神掌きしんしょう』ッッ!!」

 肘から魔力を噴出し、掌底を放つ速度に加速を付ける。
 『蒼角』と『付属魔力エンチャント』によって強化された一撃がアレスに叩き込まれた──瞬間、掌から魔力を噴出し、アレスをさらに吹き飛ばした。
 キョーガが生み出した必殺技──その名を、『鬼神掌』。
 この土壇場に実現する事ができた、キョーガの新たな技だ。

「はっ──はァ! どうだ見たかオラァッ!」

 遠くへと飛んでいったアレスに、キョーガがガッツポーズを取って大声を上げる。
 それを見ていたヘルムートが──ニイッと表情を歪めた。

「ヘルムート……」
「……わかってる。今は任務の途中だからな。あの『反逆霊鬼リベリオン』と戦うのは、またいつかだ」

 言いながら、ヘルムートがキョーガに近づいた。

「すっげぇな今の一撃! どうやってやったんだ?!」
「あァ? ……誰が教えっかよォ」
「なーんか冷たいよなーお前……ま、それより──」

 ──ドォオオオオオオオオオンンンッッ!!
 突如、近くにあった家が爆ぜた。

「あのタフな『神精族デウスロード』をどうにかしないとな」

 口から血を吐くアレスが、ギラギラと殺意を乗せた視線をキョーガに向ける。

「てめッ、テメェ……! もう、許さねぇッス……!」
「……サリス、クロノスは任せっぞォ」
「ルナ、クロノスを任せた」
「りょうか〜い」
「ん……わか、った……」

 首の骨を鳴らすキョーガと、肩を回すヘルムートが、怒り狂うアレスに近づいていく。

「オイてめェ。アイツァ俺の獲物だァ。邪魔したら承知しねェからなァ?」
「邪魔はしねーよ。俺の目的は、お前を死なせない事だからな」
「……足引っ張ったらぶっ殺すゥ」
「はっ! そういう言葉は、俺の実力を見てから言って欲しいな!」

 二匹の鬼が、新たな『神殺し』への戦いに身を投じた──

───────────────────

「……ふむむむむむ……これは、少し困ったであります……」

 街を歩く『地精霊ドワーフ』が、困ったようにため息を吐いた。

「ど、どうされました……」
「あ、いやいや、こっちの話であります。それより……みんな、しっかり付いて来ているでありますか?」
「はい。全員揃っています」

 『人類族ウィズダム』の女性の言葉を聞き、『地精霊ドワーフ』の少女がさらに先に進む──と。
 ──ズッウウウウンンッッッ!!!

「──ォ、ガァァァァァ……!」

 列となって歩く『人類族ウィズダム』──その最後尾。
 そこに、黒竜が現れた。

「うっ──わあああああああああッ?!」
「ド、ドラッ、ドラゴン……?!」
「嘘……なんで、ここに……?!」

 驚愕に固まる『人類族ウィズダム』──その体を、幼い『地精霊ドワーフ』の声が打ち抜いた。

「しっかりするでありますッ! ここまでくれば、避難場所まであと少し! 全員、あの白い建物を目指して走るでありますッ!」

 『地精霊ドワーフ』の指示に従い、一斉に移動が開始される。
 逃げる『人類族ウィズダム』を仕留めんと、黒竜が剛爪を構え──

「どこを見ているでありますか!」

 小石を投げつける『地精霊ドワーフ』──ギロッと、黒竜の視線が向けられる。

「ふむぅ……やはり、敵味方の区別がついていないようでありますね……」
「グルルルルル……!」
「おーい、聞こえているでありますかー? 自分はお前の敵ではないでありますよー? 同じ主人に仕える仲間で──」
「ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 黒竜の咆哮が、少女の声を掻き消した。

「……はぁ……もういいであります」

 動かない獲物に対し、黒竜は剛爪を振り上げた。
 それと同時、『地精霊ドワーフ』はパチンッと指を鳴らし──

「── 『虚空の抜け穴ワープ・ホール』」

 ──ズズッと、空中に黒い渦が浮かび上がる。
 『地精霊ドワーフ』が渦の中に手を突っ込み──ズルッと、幾何学的な大槌を抜き出した。

「──起動おきろ

 大槌に魔力を流し──ヴヴンと音を立て、大槌に青白い光の線が浮かび上がる。
 特に重たそうにする様子もなく、『地精霊ドワーフ』が大槌を両手で握り──

「──魔法再現術式デミ・マジック衝撃魔法インパクト

 大槌が青く輝き、自分を見下ろす黒竜を正面から睨み返す。
 黒竜の剛爪が振り下ろされ──それに合わせ、『地精霊ドワーフ』が大槌を振り抜いた。
 剛爪と大槌をぶつかり合い──次の瞬間、風船が割れるような音と共に、黒竜の腕が弾け飛んだ。

「ガ、ォッ──?!」
魔法再現術式デミ・マジック光魔法ホーリー

 大槌が白く輝き──タンッと地面を蹴り、『地精霊ドワーフ』が上空へと飛び上がった。
 空中で大槌を振りかぶり、痛みに悶える黒竜の頭部に狙いを定め──

魔法再現術式デミ・マジック重力魔法グラビド

 『地精霊ドワーフ』の握る大槌が黒く輝き──ズンッと、辺りの重力が急激に重くなる。
 突然の出来事に、黒竜は為す術なく重力に押し潰され──

「死ね──」

 『地精霊ドワーフ』の一撃が黒竜の頭部に叩き込まれ──
 ──ズッッウウウウンンンッッッ!!!
 衝撃で地面に亀裂が走り、辺りに暴風が吹き荒れる。
 潰れた頭部から血が飛び散り──『地精霊ドワーフ』の体を濡らした。

「……はぁ……バレると面倒だから、あまり戦いたくはないのではありますが……」

 戦いの音を聞き付けたのか、どんどんモンスターが集まってきている。
 『地精霊ドワーフ』は深いため息を吐くと、再び黒色の渦を出現させ──そこから、二本目の大槌を取り出した。

「──まあ、バレない程度に迎撃するでありますか」

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