不良の俺、異世界で召喚獣になる
4章18話
「……うっぷ」
「ら、ラッセルさん……大丈夫ですか?」
王宮の謁見の間。
女の子としてヤバイ顔をしているラッセルの背中を擦りながら、リリアナはゆっくりと頭を下げた。
リリアナの向いているその先には……豪華な服を着た、40代ほどの男性が座っている。
「……お久しぶりです、グローリア様。リリアナ・ベルガノートでございます」
「久しいな、リリアナ・ベルガノート……それに、シエラ・マスカレードか」
「はい。お久しぶりでございます」
「……おいラッセル、しっかりしろ」
1歩前に出るシエラが、リリアナに引けを取らない、美しいお辞儀を見せる。
ラッセルの事は任せろ、と無言で頷くデントを見て、リリアナたちも前に出た。
「ふむ……『反逆霊鬼』たちの助力か……アルヴァーナ、他の者は?」
「はっ。他の2名も最上級召喚獣と契約していると聞いております」
「そうか……『魔物の波』の事は?」
「まだ話しておりません」
「……話してやってくれ」
「了解しました」
クルリと身を翻し、リリアナたちの方を向くアルヴァーナが、やけに響く声で話し始める。
「リリアナ殿……そしてデント殿にラッセル殿、4年に一度の厄災を知っておりますな?」
「『魔の森』に生息するモンスターが、森を出て国を襲う……あれですよね?」
「その通りでございます。その厄災の事を、ワシたちは『魔物の波』と呼んでおり……今年は『魔物の波』の周期なのでございます」
―――『魔物の波』。
4年に一度の周期で訪れる厄災の事で、『魔の森』に生息するモンスターが、近隣の国や人々の暮らす町を襲うのだ。
どうしてモンスターが人々の暮らす国を襲うのか。その原因はわかっておらず、様々な原因が考えられている。
モンスター同士の縄張り争いに負けたモンスターが、縄張りを確保するために国を襲う説。
人間の味を覚えたモンスターが、人間を食べるために襲う説。
そして……今もなお生きている魔王がモンスターを操り、『アナザー』を支配しようとしている説。
どれもこれも推測でしかないため、何が原因で『魔物の波』が起こっているのかは不明のままなのだ。
「……んでェ、その『魔物の波』ってのにリリアナを参加させるためにィ、わざわざ呼んだのかァ?」
「その通りだ。今回の『魔物の波』には、リリアナたちに参加してもらおうと思っている……と言うのも、『ギアトニクス』を守ってもらおうと思ってな」
は?と首を傾げるラッセルを置いて、リリアナたちは納得したように頷いた。
現在『ギアトニクス』は、復興で手一杯の状況。そこに『魔物の波』が来れば……何の対応もできずに壊滅してしまう事だろう。
『プロキシニア』は『召喚士』が多い国だが……他の国に援助を送れる余裕はない。
だが、前回の厄災とは違い、今回の『魔物の波』には、リリアナという最強の『召喚士』に加え、学院で猛威を振るっていたデントやラッセルが参加する。
となると、『ギアトニクス』を『魔物の波』から守る別部隊が作れるのか。
「あのよォ王様ァ」
「む?なんだ『反逆霊鬼』?」
「なァんでリリアナがァ『魔物の波』に参加する事が決定してんだァ?そもそもそっからおかしいだろォがよォ。コイツァまだ18の子どもだァ。命賭けるにゃァ早すぎんだろォ」
「キョーガさん。私は―――」
「つーかなんで他国の手助けまでしなきゃならねェ?この国を守るんならともかくゥ、俺らとは無関係の国を守らせんのァ意味がわかんねェぞォ?」
そう……何故、他国の心配をするのか不思議に思っていた。
言っては何だが……あの国は、もうリリアナたちとは無関係だ。
わざわざ危険を冒してまで、他国の援助に行くなんて……この国王には、何か考えがあるのか?
「キョーガさん……」
「……はァ……わーってるよォ。おめェは行きてェって言うんだろォ?」
「はい……キョーガさんは、反対ですか?」
「おめェが望むんならァ、俺ァ文句は言わねェ……けどなァ、さっき『禁忌箱』と戦ってェ、危険な目に遭ったばかりだろォ?……怖くねェのかァ?」
「……正直に言えば、私は戦わないから怖くはないです……でも……」
「あーもう何も言うなァ……オイ王様ァ、質問に答えろォ。なんで『ギアトニクス』を守ろうとするゥ?その目的を教えろォ……じゃねェとォ、俺ァいざって時に誰を信じていいのかわかんねェ……」
腕を組みながら、冷たい声で問い掛ける。
一瞬……ほんの一瞬だが、国王の顔が曇ったのを、キョーガは見逃さなかった。
「……ふむ……誤魔化してもムダのようだな」
「悪ィなァ……敵か味方か区別しとかねェとォ、殴っていいかわかんねェからよォ」
「………………他国に力を見せつけるためだ」
「……その理由はァ?」
「最近、『帝国』の良からぬ噂を聞いてな……」
グローリアの話を簡単にまとめると、こういう事らしい。
最近、『帝国 ノクシウス』で、腕の立つ『剣士』が現れたとの事。
剣を振るう風圧で木々を薙ぎ倒し、最強と呼ばれていた騎士隊長を簡単に負かし、ドラゴンすらも一撃で葬る力を持つという、化け物のような『剣士』が。
そんな『剣士』を得た『帝国』は……王族のいなくなった『ギアトニクス』を『魔物の波』から守り、我が国にしようとしているらしい。
ただでさえ力を持つ『帝国』が、これ以上力を持てば、『アナザー』に存在する国全てを手に入れようとするだろう。
それを防ぐために、グローリアは『ギアトニクス』を『帝国』と共に守る事によって己の国の力を見せつけ、『プロキシニア』には戦争を仕掛けられない、と思わせる事が今回の目的……らしい。
「……って事ァ、『帝国』と一緒に戦うって事かァ」
「他に何か質問はあるか?」
「……その『剣士』という方は、何者なのですか?私の弟……アグナムより強いのでしょうか?」
「わからん……だが噂では、『帝国』で一番強いと聞いている」
「……その方のお名前は?」
「うむ。その『剣士』の名は―――」
直後、グローリアの口から出た名前を聞いて、リリアナたち一同は首を傾げた。
「―――ツルギガサキ・トーマ……2ヶ月ほど前に突如現れた、黒髪黒目の若い男だ」
「……ツルギガサキ……トーマ……?」
「不思議な名前だね~♪」
「【肯定】 聞かない名前だな」
「む、家名と名前が逆なのでありますね。まるで―――まる、で……」
全員が顔を見合わせ……黒髪黒目の少年を見つけて、ハッと息を呑んだ。
黒髪黒目の少年―――そう。キョーガだ。
「キョーガ……さん……?」
「………………キョーガ……何か知ってるんですぅ?」
「……んやァ?そんな期待込めた目で見られてもォ、何も知らねェよォ」
おどけたように肩を竦めるが……その目は、驚愕に染まっている。
キョーガも薄々わかっているのだろう。
―――『帝国』に現れた『剣士』という存在が、自分と同じく、この世界に召喚された日本人という事を。
「話を戻そう。どうだ、『召喚士 リリアナ』……『ギアトニクス』での厄災の対処、引き付けてはくれないか?」
問い掛けるグローリアに、リリアナは―――
「……このリリアナ、喜んでお受けしましょう」
―――――――――――――――――――――――――
「……む……」
―――黒く、暗い城の中。玉座に座る禍々しい男が、低い声を漏らした。
見つめる先にあるのは―――虚空。
だが直後、何もない空間から、幼い少女の声が聞こえた。
「―――魔王殿」
「“強欲”か……久しいな。何をしていた?」
「向こうの世界の偵察でありますよ……色々な情報を集めて来たでありますが、何から聞くでありますか?」
暗闇の中。虚空を裂き、幼い少女が現れた。
突如現れた少女に、男は驚く……事もなく、まるでいつも通りと言わんばかりに話を始める。
「ふむ……では、召喚獣なんぞに成り下がった、『紅眼吸血鬼』の話でも聞こうか」
「『紅眼吸血鬼』……はっ。了解であります……と言っても、特に目立った戦闘を見たわけではないので……正直、あの程度ならば、魔王殿の敵ではないかと」
「そうか……では、向こうの世界に行った『禁忌箱』の様子は?」
禍々しい男の問い掛けに、幼い少女は『ああ、その事ですか』と黒く嗤った。
「死んだであります」
「ほう……最弱とは言え、一応アイツも『神精族』の端くれ。アイツを殺したとなると……アルマクス・エクスプロードか?」
「いえ……『反逆霊鬼』であります」
「なに?」
少女の言葉に、男が目を細めた。
―――男の体から、尋常ならざる覇気が溢れている。
その覇気、キョーガと同等か……またはそれ以上か。
「……現れたのか?『反逆霊鬼』が?いつの間に?」
「落ち着いてください魔王殿……今回の『三英雄』は……どうやら、少々いつもとは異なるようであります」
「……続きを聞こうか」
「『勇者』と『魔女』、そして『死霊術士』は、いつもなら異世界から召喚されるはず……で、ありましたよね?」
「ああ……そうだ」
「しかし、今回の『死霊術士』は、ただの一般人―――いえ、一般人以下であります」
近くにあった椅子に座りながら、少女が声を低くした。
「今回の異世界人は―――『勇者』に、今はまだ見つかっていない『魔女』。そして……『禁忌箱』を殺し、史上4度目の『神殺し』を成した『反逆霊鬼』。この3人かと」
「『反逆霊鬼』が異世界人……別の世界から、召喚獣として召喚されたという事か?」
「自分にはわからないであります……ご命令はあるでありますか?」
玉座に座る男が、ニイッと笑いながら立ち上がり―――それだけで、空間が揺らいだ。
1歩、また1歩と歩く度に床に亀裂が走り―――歩み寄る『絶対的な強者』に、少女の顔が引きつった。
「“強欲”、お前は引き続き『反逆霊鬼』の監視。必要であれば“傲慢”か“嫉妬”を使っても構わん」
「了解であります」
恭しく一礼し、少女が虚空へと消えて行く。
その姿を見ながら……魔王は、心底楽しそうに笑っていた。
「ら、ラッセルさん……大丈夫ですか?」
王宮の謁見の間。
女の子としてヤバイ顔をしているラッセルの背中を擦りながら、リリアナはゆっくりと頭を下げた。
リリアナの向いているその先には……豪華な服を着た、40代ほどの男性が座っている。
「……お久しぶりです、グローリア様。リリアナ・ベルガノートでございます」
「久しいな、リリアナ・ベルガノート……それに、シエラ・マスカレードか」
「はい。お久しぶりでございます」
「……おいラッセル、しっかりしろ」
1歩前に出るシエラが、リリアナに引けを取らない、美しいお辞儀を見せる。
ラッセルの事は任せろ、と無言で頷くデントを見て、リリアナたちも前に出た。
「ふむ……『反逆霊鬼』たちの助力か……アルヴァーナ、他の者は?」
「はっ。他の2名も最上級召喚獣と契約していると聞いております」
「そうか……『魔物の波』の事は?」
「まだ話しておりません」
「……話してやってくれ」
「了解しました」
クルリと身を翻し、リリアナたちの方を向くアルヴァーナが、やけに響く声で話し始める。
「リリアナ殿……そしてデント殿にラッセル殿、4年に一度の厄災を知っておりますな?」
「『魔の森』に生息するモンスターが、森を出て国を襲う……あれですよね?」
「その通りでございます。その厄災の事を、ワシたちは『魔物の波』と呼んでおり……今年は『魔物の波』の周期なのでございます」
―――『魔物の波』。
4年に一度の周期で訪れる厄災の事で、『魔の森』に生息するモンスターが、近隣の国や人々の暮らす町を襲うのだ。
どうしてモンスターが人々の暮らす国を襲うのか。その原因はわかっておらず、様々な原因が考えられている。
モンスター同士の縄張り争いに負けたモンスターが、縄張りを確保するために国を襲う説。
人間の味を覚えたモンスターが、人間を食べるために襲う説。
そして……今もなお生きている魔王がモンスターを操り、『アナザー』を支配しようとしている説。
どれもこれも推測でしかないため、何が原因で『魔物の波』が起こっているのかは不明のままなのだ。
「……んでェ、その『魔物の波』ってのにリリアナを参加させるためにィ、わざわざ呼んだのかァ?」
「その通りだ。今回の『魔物の波』には、リリアナたちに参加してもらおうと思っている……と言うのも、『ギアトニクス』を守ってもらおうと思ってな」
は?と首を傾げるラッセルを置いて、リリアナたちは納得したように頷いた。
現在『ギアトニクス』は、復興で手一杯の状況。そこに『魔物の波』が来れば……何の対応もできずに壊滅してしまう事だろう。
『プロキシニア』は『召喚士』が多い国だが……他の国に援助を送れる余裕はない。
だが、前回の厄災とは違い、今回の『魔物の波』には、リリアナという最強の『召喚士』に加え、学院で猛威を振るっていたデントやラッセルが参加する。
となると、『ギアトニクス』を『魔物の波』から守る別部隊が作れるのか。
「あのよォ王様ァ」
「む?なんだ『反逆霊鬼』?」
「なァんでリリアナがァ『魔物の波』に参加する事が決定してんだァ?そもそもそっからおかしいだろォがよォ。コイツァまだ18の子どもだァ。命賭けるにゃァ早すぎんだろォ」
「キョーガさん。私は―――」
「つーかなんで他国の手助けまでしなきゃならねェ?この国を守るんならともかくゥ、俺らとは無関係の国を守らせんのァ意味がわかんねェぞォ?」
そう……何故、他国の心配をするのか不思議に思っていた。
言っては何だが……あの国は、もうリリアナたちとは無関係だ。
わざわざ危険を冒してまで、他国の援助に行くなんて……この国王には、何か考えがあるのか?
「キョーガさん……」
「……はァ……わーってるよォ。おめェは行きてェって言うんだろォ?」
「はい……キョーガさんは、反対ですか?」
「おめェが望むんならァ、俺ァ文句は言わねェ……けどなァ、さっき『禁忌箱』と戦ってェ、危険な目に遭ったばかりだろォ?……怖くねェのかァ?」
「……正直に言えば、私は戦わないから怖くはないです……でも……」
「あーもう何も言うなァ……オイ王様ァ、質問に答えろォ。なんで『ギアトニクス』を守ろうとするゥ?その目的を教えろォ……じゃねェとォ、俺ァいざって時に誰を信じていいのかわかんねェ……」
腕を組みながら、冷たい声で問い掛ける。
一瞬……ほんの一瞬だが、国王の顔が曇ったのを、キョーガは見逃さなかった。
「……ふむ……誤魔化してもムダのようだな」
「悪ィなァ……敵か味方か区別しとかねェとォ、殴っていいかわかんねェからよォ」
「………………他国に力を見せつけるためだ」
「……その理由はァ?」
「最近、『帝国』の良からぬ噂を聞いてな……」
グローリアの話を簡単にまとめると、こういう事らしい。
最近、『帝国 ノクシウス』で、腕の立つ『剣士』が現れたとの事。
剣を振るう風圧で木々を薙ぎ倒し、最強と呼ばれていた騎士隊長を簡単に負かし、ドラゴンすらも一撃で葬る力を持つという、化け物のような『剣士』が。
そんな『剣士』を得た『帝国』は……王族のいなくなった『ギアトニクス』を『魔物の波』から守り、我が国にしようとしているらしい。
ただでさえ力を持つ『帝国』が、これ以上力を持てば、『アナザー』に存在する国全てを手に入れようとするだろう。
それを防ぐために、グローリアは『ギアトニクス』を『帝国』と共に守る事によって己の国の力を見せつけ、『プロキシニア』には戦争を仕掛けられない、と思わせる事が今回の目的……らしい。
「……って事ァ、『帝国』と一緒に戦うって事かァ」
「他に何か質問はあるか?」
「……その『剣士』という方は、何者なのですか?私の弟……アグナムより強いのでしょうか?」
「わからん……だが噂では、『帝国』で一番強いと聞いている」
「……その方のお名前は?」
「うむ。その『剣士』の名は―――」
直後、グローリアの口から出た名前を聞いて、リリアナたち一同は首を傾げた。
「―――ツルギガサキ・トーマ……2ヶ月ほど前に突如現れた、黒髪黒目の若い男だ」
「……ツルギガサキ……トーマ……?」
「不思議な名前だね~♪」
「【肯定】 聞かない名前だな」
「む、家名と名前が逆なのでありますね。まるで―――まる、で……」
全員が顔を見合わせ……黒髪黒目の少年を見つけて、ハッと息を呑んだ。
黒髪黒目の少年―――そう。キョーガだ。
「キョーガ……さん……?」
「………………キョーガ……何か知ってるんですぅ?」
「……んやァ?そんな期待込めた目で見られてもォ、何も知らねェよォ」
おどけたように肩を竦めるが……その目は、驚愕に染まっている。
キョーガも薄々わかっているのだろう。
―――『帝国』に現れた『剣士』という存在が、自分と同じく、この世界に召喚された日本人という事を。
「話を戻そう。どうだ、『召喚士 リリアナ』……『ギアトニクス』での厄災の対処、引き付けてはくれないか?」
問い掛けるグローリアに、リリアナは―――
「……このリリアナ、喜んでお受けしましょう」
―――――――――――――――――――――――――
「……む……」
―――黒く、暗い城の中。玉座に座る禍々しい男が、低い声を漏らした。
見つめる先にあるのは―――虚空。
だが直後、何もない空間から、幼い少女の声が聞こえた。
「―――魔王殿」
「“強欲”か……久しいな。何をしていた?」
「向こうの世界の偵察でありますよ……色々な情報を集めて来たでありますが、何から聞くでありますか?」
暗闇の中。虚空を裂き、幼い少女が現れた。
突如現れた少女に、男は驚く……事もなく、まるでいつも通りと言わんばかりに話を始める。
「ふむ……では、召喚獣なんぞに成り下がった、『紅眼吸血鬼』の話でも聞こうか」
「『紅眼吸血鬼』……はっ。了解であります……と言っても、特に目立った戦闘を見たわけではないので……正直、あの程度ならば、魔王殿の敵ではないかと」
「そうか……では、向こうの世界に行った『禁忌箱』の様子は?」
禍々しい男の問い掛けに、幼い少女は『ああ、その事ですか』と黒く嗤った。
「死んだであります」
「ほう……最弱とは言え、一応アイツも『神精族』の端くれ。アイツを殺したとなると……アルマクス・エクスプロードか?」
「いえ……『反逆霊鬼』であります」
「なに?」
少女の言葉に、男が目を細めた。
―――男の体から、尋常ならざる覇気が溢れている。
その覇気、キョーガと同等か……またはそれ以上か。
「……現れたのか?『反逆霊鬼』が?いつの間に?」
「落ち着いてください魔王殿……今回の『三英雄』は……どうやら、少々いつもとは異なるようであります」
「……続きを聞こうか」
「『勇者』と『魔女』、そして『死霊術士』は、いつもなら異世界から召喚されるはず……で、ありましたよね?」
「ああ……そうだ」
「しかし、今回の『死霊術士』は、ただの一般人―――いえ、一般人以下であります」
近くにあった椅子に座りながら、少女が声を低くした。
「今回の異世界人は―――『勇者』に、今はまだ見つかっていない『魔女』。そして……『禁忌箱』を殺し、史上4度目の『神殺し』を成した『反逆霊鬼』。この3人かと」
「『反逆霊鬼』が異世界人……別の世界から、召喚獣として召喚されたという事か?」
「自分にはわからないであります……ご命令はあるでありますか?」
玉座に座る男が、ニイッと笑いながら立ち上がり―――それだけで、空間が揺らいだ。
1歩、また1歩と歩く度に床に亀裂が走り―――歩み寄る『絶対的な強者』に、少女の顔が引きつった。
「“強欲”、お前は引き続き『反逆霊鬼』の監視。必要であれば“傲慢”か“嫉妬”を使っても構わん」
「了解であります」
恭しく一礼し、少女が虚空へと消えて行く。
その姿を見ながら……魔王は、心底楽しそうに笑っていた。
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