不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

2章6話

「あっはは~♪『追撃の風爪エア・クロウ』っ♪」

 サリスが空を薙ぐ―――と、その先にいた『機巧族エクスマキナ』の頭が、体から斬り離された。

「【報告】 相手側に『地獄番犬ケルベロス』がいると推定。至急、応援を―――」

 報告をおこなう『機巧族エクスマキナ』に向かってサリスが腕を振るい―――それだけで、町に斬撃跡が刻まれ、『機巧族エクスマキナ』がバラバラに引き裂かれる。
 暴れ回るサリス―――と、もう1人のサリスが、近くにいた『機巧族エクスマキナ』を斬り刻んだ。

「あっは~♪いいねいいね~♪た~のし~いね~♪」

 『地獄番犬ケルベロス』が使える特殊な魔法で、現在サリスは3人に分身しており―――3人がそれぞれ『追撃の風爪エア・クロウ』を使うため、町が大変な事になっている。
 そんな事もお構い無し。腕を振りまくるサリスが、町を破壊しながら『機巧族エクスマキナ』を機能停止にする―――と。

「……あはっ♪また増えちゃった~♪」

 永遠に数が増え続ける『機巧族エクスマキナ』―――それに対し、サリスは再び『追撃の風爪エア・クロウ』を発動する。

 ―――サリスはそんなに頭が良くない。
 足りない頭で必死に考え―――思い付いた。

『あたしが暴れれば、『機巧族エクスマキナ』はあたしの所に来る。そうすれば、キョーちゃんが『機巧族エクスマキナ』に邪魔される事なく、楽に住民を探す事ができる』と。

「ん~単純明快っ♪わっかりやすい作戦だね~♪あたしってばサイコ~だよ~♪」

 言いながら、サリスが『機巧族エクスマキナ』に向かって爪を振るう。
 続々と増える『機巧族エクスマキナ』―――それを前にしたサリスは、高笑いを上げた。

「もっと、も~っと増えていいよ~♪君たちスクラップの相手は―――あ・た・し♪あっはははははははっ♪」
「【報告】 先に攻撃をおこなっていた『戦闘組』が壊滅かいめつ。至急、『殲滅せんめつ組』の派遣を要請」

 ―――『殲滅組』と聞こえた。
 おそらく、名前からして『機巧族エクスマキナ』の最高戦力だろう。

「あは~♪……上等っ♪」

 銃や剣を構える『機巧族エクスマキナ』を前にして―――最上級召喚獣の『地獄番犬ケルベロス』は、獰猛に笑った。

―――――――――――――――――――――――――

「チッ……どこに収容されてんだァ?」

 乱暴に頭を掻き、舌打ちする黒髪の少年―――キョーガだ。

「……マンションを1つ1つ調べんのはキツいよなァ」

 近くにあったマンションを見上げ、ダルそうにため息を吐く。
 ―――キョーガがリリアナの元を離れ、『機巧族エクスマキナ』を探しに行ったのには理由がある。

 1つは、リリアナたちを巻き込まないように。
 単純に、キョーガの力は周りを巻き込んでしまう。
 頑丈なアルマやサリスと大丈夫かもしれないが……普通の人間であるリリアナが、キョーガの戦いの余波を食らえば、簡単に吹き飛んでしまうだろう。

 そして、2つ。
 ―――何故かわからないが……今のキョーガは、力に満ちている。
 昨日、『金欲竜ファフニール』に一撃を放った時……そして、先ほど全力で走った時。あの後から、キョーガの体には力が満ちているのだ。
 ―――それだけなら、まだ良かった。

「……あァ……頭いてェなァ……!」

 ひたいを押さえるキョーガが、苛立たしげに町を破壊しながら歩く。
 ―――昨日、そして今日と、キョーガの頭を、理由のわからない激痛が支配していた。
 いや……正確には頭ではなく、ひたいが痛む。

 ―――キョーガにとって、ここは異世界。
 今、キョーガに起きている異変は……もしかしたら異世界特有の病気の可能性もある。
 もし病気だったら、他の3人にうつるかも知れない。
 だからキョーガは3人から距離を取った。

「……はァ……はァ……はァァァ……!あァクソ……マッジでイライラすんなァ……ッ!」

 フラフラと壁に寄り掛かり、荒々しい呼吸を繰り返す。

 ―――リリアナたちには、俺の状態はバレていないだろうか。
 こんな弱い姿をあいつらに見せるわけにはいかない。俺は常に最強で、最凶でなければならない。
 それが、俺の存在理由。それだけが、リリアナのために俺ができる事。

 ―――それにしても、酷い痛みだ。
 例えるならば……まるで、頭の内側から外に向かって、鋭利な物で刺されているかのような……
 理由は不明。
 俺の体に何が起きているのかも不明。
 だが……弱音なんて言ってられない。

「……検体番号『100番02号』ゥ……唯一の成功作、狂餓ァ……」

 胸を押さえ、忌々しげにキョーガが呟く。
 ……と、先ほどまで苛立った様子だったキョーガが、何事も無かったかのように、住民捜索を再開する。

 ―――それは、魔法の言葉。
 苛立った心を、怒れる心を、不安定でない心を……ただ1つ、『憎悪』に染める事ができる、キョーガ専用の魔法の言葉だ。

「あァ……久々な感じだなァ……」

 『にやぁ』と口元を歪め、キョーガが再び歩き始める。

 ……ここまで大胆に歩いているのに、『機巧族エクスマキナ』が1回も襲って来ていない事に、キョーガは違和感を感じていた。
 憎悪で支配されている思考……それを無理に使い、現状の把握を急ぐ。

「……可能性は、2つかァ」

 『機巧族エクスマキナ』がキョーガを襲わない理由―――考えられる限り、2つだ。

 1つ、『機巧族エクスマキナ』が捕獲した人間をどこか別の場所に移動させている可能性。
 俺たち4人が『ギアトニクス』にやって来て、それに気づいた『機巧族エクスマキナ』が捕獲した住民を隠し、満をして行動を起こす……一応、あり得ないわけではない。

 だが、もう1つの可能性の方が有力だ。

 ―――アルマ、サリス。この2人が暴れて、そちらに戦力を向けている可能性。
 何も言わずに3人の所を離れたが……俺の考えを察して、あの2人が町で暴れるのは……あり得ない話ではない。

「……あの2人ならァ、やりそォだなァ」

 特殊な魔法が使える『吸血鬼アルマ』に、キョーガと同等の腕力を持つ『地獄番犬サリス』……どちらも『機巧族エクスマキナ』に引けを取らない実力を持っている。

「……はっ……ったくよォ……余計な事ばっかしやがってアホ共がァ……」

 文句を言いながら、優しい笑みを浮かべるキョーガ―――と、凄まじい速さで走り出した。

 ―――あの2人にばかり、迷惑は掛けられない。即行で住民を見つけてやる。
 そう意気込むキョーガの頭には―――もう憎悪は無かった。

―――――――――――――――――――――――――

『―――【報告】 『戦闘組8班』が壊滅』
『【報告】 『戦闘組1班』が壊滅』
『【報告】 『戦闘組11班』が壊滅寸前。至急、応援を要請する』

 脳内に響く【報告】を聞きながら―――『機巧族エクスマキナ』の少女は、感情など無いはずの表情を歪めた。

 ―――この短時間に、次々と『機巧族エクスマキナ』が破壊されている。
 『吸血鬼ヴァンパイア』、『地獄番犬ケルベロス』、『金欲竜ファフニール』……報告にあったのは、その3匹。

 だが―――町の北部付近に、この3匹ではない何かが動いている。
 底知れぬ覇気と、濃厚な魔力……それだけで判断すれば、報告にあった3匹より、北部にいる何かの方が厄介そうだ。

「……【連絡】 町の北部付近に、正体不明の気配を感知。『偵察機』は、至急、その正体を探れ」
『『『【了解】』』』

 連絡を終え……少女が、背後に座る『人類族ウィズダム』の集団を見下ろした。

「【報告】 現在、この国に最上級召喚獣3匹と、得体の知れない何かが1匹。そして、2人の『人類族ウィズダム』の姿を確認。おそらく、貴様らを救いに来たのだろう」

 少女の機械的な報告に、人々がざわめく。
 そのざわめきは、少なからず助かる希望を見ているようだった。

「……【報告】 よって、我々の最高戦力、『殲滅組』を派遣する事にした」

 ―――人々のざわめきが、大きくなった。

「そ、そんな!『殲滅組あいつら』を使われたら、町が―――」
「【報告】 すでに町はボロボロになっている」
「し、しかし……!」
「……【提案】 文句がある者は、当機が殺す」

 右手を歪な剣に変え、その切っ先を喋っていた『人類族ウィズダム』に向けた。
 さすがに恐怖を感じたのだろう。喋っていた男は、短く悲鳴を上げたかと思うと、すぐに黙り込んでしまう。

「【確認】 当機が貴様らを五体満足で生かしているのは、魔力を供給してもらうためだ。わかるな?」

 『機巧族エクスマキナ』の威圧的な問い掛けに、その場にいた全員が何度も頷く。

「【続行】 だがそれは、別に五体満足じゃなくても良い……腕を切り落とし、目を潰し、耳を切り捨てても魔力の供給は可能……当機の言いたい事がわかるな?」

 ―――お前らが不自由なく生きているのは、当機が慈悲を掛けてやっているからだ。と、見た目に似合わぬ発言を繰り返す。

「【命令】 『殲滅組2班』と『殲滅組3班』は『地獄番犬ケルベロス』を仕留めに。その他『戦闘組』は『吸血鬼ヴァンパイア』と『金欲竜ファフニール』を足止め。『殲滅組1班』は『偵察機』の報告を聞いた後、当機と共に北部へ出撃……行動開始」

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