不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

1章番外編

 ―――『吸血鬼ヴァンパイア』。
 夜の空を飛び回り、生者の血を吸う種族。
 血を吸えば吸うほど力が増し、血を限界まで吸った状態だと、全ての最上位召喚獣の中で、5本指に入る力を発揮する。
 また、『魔法の才』を持つ者が多く、近距離も遠距離も戦える召喚獣。

「……この子は……?!」
「血の色の『紅眼』……間違いない。『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』だ」

 その『吸血鬼ヴァンパイア』の中に、『紅い眼』をした者が産まれる事がある。

 ―――『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』……最強と呼ばれる『吸血鬼ヴァンパイア』だ。
 最強と呼ばれる理由は、大きく分けて3つある。

 1つは、普通の『吸血鬼ヴァンパイア』の3倍吸血をおこなえる事。
 血を吸えば吸うほど強くなる『吸血鬼ヴァンパイア』にとって、血が多く吸える=力なのだ。

 2つは、長寿な事。
 普通の『吸血鬼ヴァンパイア』は人間と同じ程度の寿命しか無いが……『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』は200年以上生きると言われている。

 3つは―――特殊な『魔法の才』を持つ事。
 炎を出すとか、雷を発生させるなどヤワなものではない……今ここに産まれた『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』で例えるならば―――魔法陣から『赤黒い水晶』を発生するという魔法だ。

「……XXX……お前は期待されている……わかるな?」
「ぼっ、ボクがです……?」
「そうだ……お前は『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』に選ばれた。その力があれば……『吸血鬼ヴァンパイア』の王になれる」
「王……ですか?」

 幼い『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』は、父親の言っている事がわからなかった。
 だが―――父親は勘違いをしていた。
 それは……この『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』は優しすぎる、という事だった。



「………………XXX……何をしている?早くとどめを刺せ」
「お父さん……で、でも……もう勝負は付きましたよぉ……?これ以上攻撃しても―――っ?!」

 喋っていた幼い『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』の頬を、父親が叩いた。

「優しさなど、『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』には必要ない……必要なのは容赦の無さと、残忍性だけだ……わかったな、XXX?」
「………………はい、ですぅ……」



 ―――少女は、優しすぎた。
 その性格を直そうとした父は、少女を牢獄に閉じ込め、性格を変えようとした。

「……………」

 ―――何故?
 何が悪いの?
 ボクが悪かったの?
 ボクが何をしたの?
 お父さんは、なんでボクを閉じ込めるの?
 お父さんは、なんでボクを鍛えるの?
 ボクが『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』として生まれたのが悪かったの?
 他の『吸血鬼ヴァンパイア』より血を吸うのが悪かったの?
 年を取っても幼い事が悪かったの?
 優しい事が罪なの?
 優しいって何なの?
 悪い事なの?
 ボクがもっと残酷な性格だったら……ボクがもっと他人に容赦無く攻撃してればよかったの?

 ―――ボクは、こんな力なんか望んでない。
 もっと普通に生まれたかった。
 もっと笑って過ごしたかった。
 夜の空を飛び回りたかった。
 友だちを作りたかった。
 普通の『吸血鬼ヴァンパイア』みたいに過ごしたかった。



 そんなある日、少女の足下に魔法陣が現れた。
 暗い牢獄の中、異様に輝く魔法陣が、少女には希望のように見えた。
 ―――その召喚された先で、まさか召喚士から帰りの魔法陣を破壊され、さらには契約も結んでもらえないとは思っていなかったが。

―――――――――――――――――――――――――

「キョーガっ!」
「チッ……朝っぱらからうるせェロリ吸血鬼だなァ……吸血だろォ?ちゃっちゃと終わらせよォぜェ」
「わーい!」

 キョーガに飛び付くアルマが、嬉々として吸血を始める。

 ―――夜の空を、飛び回れなくてもいい。
 『吸血鬼ヴァンパイア』の友だちがいなくてもいい。
 『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』として、特別扱いされなくていい。

「あふぅ……美味しいですぅ……」
「あんまり吸い過ぎんなよォ?もォ貧血にゃァなりたくねェからなァ」
「わかってまふよぉ……んぁ、美味ひぃ……」
「本当にわかってんのかァ?」

 ため息を吐くキョーガ……と、部屋の扉が開けられた。
 そこから現れたのは、橙髪の女の子だ。

「おはようございます!キョーガさん、アルマさん!」
「あァ、おはよォリリアナァ」
「おはようございますご主人様っ!」

 幼い『紅眼吸血鬼ヴァンパイアロード』は心から思う。
 ―――この2人さえいれば、あとは何も望まない、と。

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