不良の俺、異世界で召喚獣になる
1章6話
『『霊鬼』とは。
最上級召喚獣の中でも、上位3番以内に入る『破壊力』と、自身の傷を癒す『再生能力』、そして自身の強さの象徴である『紅角』を持っている。
魔王襲来の際も、『死霊術士』が召喚した『死霊族』の中で、最も撃退に貢献したとされている。
だが、その後の『死霊事件』以降、『霊鬼』の名前が変えられた。
現在では、『反逆霊鬼』と呼ばれている』
「………………うーん……」
『反逆霊鬼』の召喚書を閉じ……リリアナが深いため息を吐いた。
―――何も、当てはまらない。
キョーガさんは、確かにスゴい力を持っているけれど……傷を再生している所を見たことないし、何より角が生えていない。
……それに……まったく召喚獣っぽくない。
「……キョーガさん……何者なんでしょう……」
―――人間には、『魂の器』というのが存在する。
どんな人間にも『魂の器』は存在し、『魂の器』が大きいほど、多くの召喚獣と契約することができる。
リリアナの『魂の器』は―――本人は自覚していないが、かなり大きい。
しかし……いくら『魂の器』が大きいと言っても、召喚獣を召喚できなければ、契約を結ぶ事はできない。
「……考えてもわかりませんよね」
リリアナが紙を取り出し、ペンを走らせる。
―――リリアナは、来月に学院を卒業する。
無事に卒業できる事を家族に報告するために、手紙を書いているのだ。
『拝啓 お父様、お母様。
お元気ですか?私はなんとか元気です。
学院を卒業できるか不安でしたが、頼れるパートナーができたので、どうにか卒業できそうです。
初めて会った時は乱暴で暴力的でしたが、今はとても優しく接してくれています。
学院を卒業した後も、1、2年は『プロキシニア』に滞在しようかと思っています。
いつか、お父様とお母様に彼を紹介しようと思います。
それでは、いつか遊びに行きます』
「よし……完璧ですね……!」
この時、リリアナは気づいていなかった。
―――乱暴、暴力的と書いた事。
『彼』と書いた事。
そして何より―――リリアナの父親が、過保護だというのを忘れていた。
そんな父親が怒らないはずがなかったのだが……それはまた、近い未来の話。
「……キョーガさんの部屋に遊びに行きましょう」
初めてできた友人―――リリアナは、友人依存症のようなものだった。
―――――――――――――――――――――――――
「……ったくよォ……夜中に何しに来たかと思えばァ、外を歩こうなんてよォ……昼間も行ったじゃねェかァ」
「い、嫌でしたか……?」
「いや……別に嫌じゃねェけどよォ……」
夜の町―――昼間とは変わり、静かな住宅街を歩いていた。
ふと、キョーガがリリアナに問いかける。
「なァ、昨日も思ったんだがァ……電気とか火とかってどうやって出てんだァ?」
「それは『魔法の才』がある人のおかげなんです」
「へェ……自力で炎とか電気とか出せんのかァ……ずいぶんとエコだなァ」
元の世界でそんな事ができたら、環境問題なんて解決できるだろうに……とか思いつつ、キョーガは興味深そうに辺りを見回した。
「……って事はァ、『魔法の才』があるやつはァ、職を得たようなもんなのかァ?」
「そうですね……国内に電気や炎を送るか、『魔術士』としてモンスターを討伐するか……『魔法の才』を持つ人の将来は、基本的にこの2択ですね」
「……待て待てェ……モンスターとかいんのかァ?」
「はい。昔話の魔王がつれてきたんですけど……まだ残党が残っていまして」
魔王の連れてきたモンスター。
それこそ、弱いものから強いものまで……多種多様に存在する。
『騎士』や『魔術士』、『召喚士』は、モンスターを討伐したり、悪党を成敗したり……まあ、この世界に残っているモンスターの数が多いので、モンスター討伐を仕事にしている人が多い。
「……んァ……?」
「どうかしましたか?」
「いやァ……なんか飛んできて―――」
キョーガが言い終わる前に、その何かが飛んできた。
闇夜に光る紅眼、黒色の翼……とても、人間には見えない。
その何かは、まっすぐキョーガたちの方に向かって飛んできて―――
「―――ほっ」
弾丸のごとく突っ込んできた何かは―――キョーガの右手によって、弾き返される。
『ドゴンッ!』と鈍い音と共に、何かが殴り飛ばされた。
だが―――尋常ならざる勢いだった事を、キョーガの表情が示している。
サイクロプスの一撃を受けても、顔色1つ変える事のなかったキョーガが―――何かと衝突した際、顔を少しだけ歪めていたのだ。
「……なんだァあいつはァ……?」
「あ、う……あうあう……」
「オットセイかよおめェはァ……」
突然の轟音に、リリアナが口をパクパクと開閉させている。
それにツッコミを入れつつ……キョーガは、飛んできた何かに目を向ける。
キョーガの一撃を受けたそれは……何事もなかったように立ち上がったのだ。
もちろん、キョーガも本気で殴ったわけではないが……
「……俺の一撃受けて立ってられるたァ……ありゃ化け物かァ……?」
いや、化け物のあんたが言うか。とリリアナが言いたくなったが―――立ち上がったそれを見て、リリアナの顔から血の気が引いていった。
「……?おいリリアナァ、ありゃァなんだァ?」
「嘘……?!『吸血鬼』……?!」
「……『吸血鬼』だァ……?」
「キョーガさんと同じ『死霊族』で……最上級召喚獣です……!」
ユラリユラリと近づいてくる『吸血鬼』……なるほど、最上級召喚獣ならば、キョーガの一撃に耐えたのも納得だ。
「………………を……」
「あァ……?」
「……ぃ………………をぉ………………」
顔を上げた『吸血鬼』が、最後の力を振り絞ったように叫んだ。
「―――血を、吸わせてくださいぃぃ!」
「……はァ?」
―――――――――――――――――――――――――
「えと……たす、助かりました……」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
申し訳なさそうにペコペコ頭を下げる『吸血鬼』を見て、リリアナが優しい笑みを見せる。
ちなみに、血を吸わせてあげたのはキョーガで、本人は吸われた首元に手を当てて『気色悪ィ』と眉を寄せていた。
「……ボク、『吸血鬼』の『アルマ』って言います……血を吸わせていただき、ありがとうございました……」
青髪のアルマが、キョーガに深く頭を下げた。
……一人称と髪色のせいで、男の子のように見えるが……胸部の小さな膨らみと、スカートを見る限り、女の子だろう。
「……気にすんなァ……別に、血なんて減るもんじゃねェしなァ」
「いえ、減りますよね?」
ここはしっかりとツッコんで行く。
―――『吸血鬼』。
血を吸えば吸うほど強くなる、特異な種族。
逆に、血を吸わないと弱体化する。
とは言っても……先ほどの突進。あれは血をまったく吸っていない状態だった。
つまり、弱体化すると言っても―――強力な事に変わりはないのだ。
キョーガと同じく『死霊族』に分類されており……血を限界まで吸った状態だと、全ての最上位召喚獣の中で、5本指に入る力を発揮する。
「それで……召喚獣であるはずの『吸血鬼』が、なぜ単独行動をしていたんですか?」
「……その……ボクたち召喚獣は、召喚士と契約する前に『契約条件』を出すのは知ってますよね?」
アルマ曰く、こういう事らしい。
―――アルマを召喚したのは、この『プロキシニア』でも有名な召喚士。
その者と契約する際に―――アルマが出した『契約条件』は、『毎日血を吸わせてもらう事』だった。
普通の人間は、『吸血鬼』に血を吸われるのは体が持たない。
だからその召喚士はアルマと契約しないことにしたのだが―――その召喚士は、アルマと契約する気が満々で、召喚した際、『契約条件』を聞く前に、アルマが帰れないように魔法陣を破壊してしまっていたとか。
まあ確かに、帰る事ができなければ契約を結ぶしかないが……この早とちりがアダとなった。
契約をしない。しかも帰れないとなったアルマは『それは困りますぅ!』と泣きつくも……その召喚士はアルマを追い出したらしい。
「そこで……行く当てもなく3日ほど、この国をウロウロしていたんですけど……『死霊族』のボクと契約したがる人もいなくて……血も吸えなくて……お腹空いて……」
「なァ、俺ァリリアナにその『契約条件』とか出してねェんだがァ?」
「それはその……キョーガさんが『契約条件』を出す前に契約を結んでしまったので……」
「俺が悪ィのかよォ……」
「あの、話し聞いてくれてます?」
「あァ聞いてる聞いてる……はよ続けろォ」
「うぅ……ボク、一応最上級召喚獣なのにぃ……」
雑に対応されるアルマが、不満そうに続ける。
「たまたまここを飛んでる時に、あり得ないような気配を感じたんですぅ……人間のようで、人間じゃない……濃厚で美味しそうな気配を……」
「……それが俺だったってのかァ?」
「はい……気配を感じた瞬間、理性が飛んでしまって……いきなり襲い掛かってすみませんでした……」
アルマの言うことが正しいのであれば、あの時のアルマの思考は『血だぁああああっ!』って感じだったのだろうか。
「でも……あなた、ボクに血を吸われてもピンピンしてますよね?……失礼でなければ、あなたが何者か聞いてもいいですか?」
「……俺ァキョーガ。てめェと同じ『死霊族』でェ、最上級召喚獣の『反逆霊鬼』だァ」
「なっ……『反逆霊鬼』ですです……?!」
「んだよですですってェ……」
ため息を吐くキョーガを見て、アルマは納得したように頷いた。
―――なるほどです。ボクの突進を跳ね返して、血を吸われてもピンピンしてるのも納得です。
「……それでは、ボクはこれで失礼します。助けていただき、ありがとうございました」
「えっ……アルマさん、どこか行く所があるんですか?」
「……ないですけど……モンスターの血でも吸って、どうにか頑張るですぅ……あんまり美味しくないですけど……」
そう言うアルマの顔は……疲れきっていた。
それを見た甘々のリリアナが―――放っておけるわけがない。何か言いたそうにキョーガを見る。
リリアナの視線に気づいたキョーガは……無言で頷いた。
『俺はお前の判断に従う』という意思表示だ。
「あの……アルマさん。よかったらうちに来ます?」
「……えっ………………いいんですか?」
「もちろんですよ。アルマさんに血をあげられるのはキョーガさんしかいませんし……それに、友だちは多い方がいいですから!」
「……でも……『反逆霊鬼』と契約しているんですよね?その……『魂の器』に、余りはあるんです?」
「そんなの、やってみないとわかりませんよ!」
そう言ったリリアナが、アルマに手を差し出した。
なぜ、わざわざ契約を結ぶのか。
簡単な話だ……『死霊族』は嫌われている。
そんなやつが、契約もされていない状態でウロウロしてたら―――攻撃されてしまう。
というか、アルマが今まで無事だったのが不思議なくらいなのだから。
それくらい『死霊族』は嫌われている。
「ほら、握ってください」
「……はい、失礼しますぅ……」
恐る恐るリリアナの手に触れ―――何も起こらない。
だが―――直後のリリアナの発言で、契約が成功した事がわかった。
「『命令 しゃがめ』」
「うおっ?!」
「あわわっ?!」
リリアナの命令に従い、アルマが地面に座り込み―――なぜかキョーガまで地面に座り込んだ。
「……契約成功ですね!」
「……です!」
「どォでもいいけど早く解けェ!」
嬉し気なリリアナの声とアルマの声、そしてキョーガの怒声が、夜の公園に響いたのだった―――
最上級召喚獣の中でも、上位3番以内に入る『破壊力』と、自身の傷を癒す『再生能力』、そして自身の強さの象徴である『紅角』を持っている。
魔王襲来の際も、『死霊術士』が召喚した『死霊族』の中で、最も撃退に貢献したとされている。
だが、その後の『死霊事件』以降、『霊鬼』の名前が変えられた。
現在では、『反逆霊鬼』と呼ばれている』
「………………うーん……」
『反逆霊鬼』の召喚書を閉じ……リリアナが深いため息を吐いた。
―――何も、当てはまらない。
キョーガさんは、確かにスゴい力を持っているけれど……傷を再生している所を見たことないし、何より角が生えていない。
……それに……まったく召喚獣っぽくない。
「……キョーガさん……何者なんでしょう……」
―――人間には、『魂の器』というのが存在する。
どんな人間にも『魂の器』は存在し、『魂の器』が大きいほど、多くの召喚獣と契約することができる。
リリアナの『魂の器』は―――本人は自覚していないが、かなり大きい。
しかし……いくら『魂の器』が大きいと言っても、召喚獣を召喚できなければ、契約を結ぶ事はできない。
「……考えてもわかりませんよね」
リリアナが紙を取り出し、ペンを走らせる。
―――リリアナは、来月に学院を卒業する。
無事に卒業できる事を家族に報告するために、手紙を書いているのだ。
『拝啓 お父様、お母様。
お元気ですか?私はなんとか元気です。
学院を卒業できるか不安でしたが、頼れるパートナーができたので、どうにか卒業できそうです。
初めて会った時は乱暴で暴力的でしたが、今はとても優しく接してくれています。
学院を卒業した後も、1、2年は『プロキシニア』に滞在しようかと思っています。
いつか、お父様とお母様に彼を紹介しようと思います。
それでは、いつか遊びに行きます』
「よし……完璧ですね……!」
この時、リリアナは気づいていなかった。
―――乱暴、暴力的と書いた事。
『彼』と書いた事。
そして何より―――リリアナの父親が、過保護だというのを忘れていた。
そんな父親が怒らないはずがなかったのだが……それはまた、近い未来の話。
「……キョーガさんの部屋に遊びに行きましょう」
初めてできた友人―――リリアナは、友人依存症のようなものだった。
―――――――――――――――――――――――――
「……ったくよォ……夜中に何しに来たかと思えばァ、外を歩こうなんてよォ……昼間も行ったじゃねェかァ」
「い、嫌でしたか……?」
「いや……別に嫌じゃねェけどよォ……」
夜の町―――昼間とは変わり、静かな住宅街を歩いていた。
ふと、キョーガがリリアナに問いかける。
「なァ、昨日も思ったんだがァ……電気とか火とかってどうやって出てんだァ?」
「それは『魔法の才』がある人のおかげなんです」
「へェ……自力で炎とか電気とか出せんのかァ……ずいぶんとエコだなァ」
元の世界でそんな事ができたら、環境問題なんて解決できるだろうに……とか思いつつ、キョーガは興味深そうに辺りを見回した。
「……って事はァ、『魔法の才』があるやつはァ、職を得たようなもんなのかァ?」
「そうですね……国内に電気や炎を送るか、『魔術士』としてモンスターを討伐するか……『魔法の才』を持つ人の将来は、基本的にこの2択ですね」
「……待て待てェ……モンスターとかいんのかァ?」
「はい。昔話の魔王がつれてきたんですけど……まだ残党が残っていまして」
魔王の連れてきたモンスター。
それこそ、弱いものから強いものまで……多種多様に存在する。
『騎士』や『魔術士』、『召喚士』は、モンスターを討伐したり、悪党を成敗したり……まあ、この世界に残っているモンスターの数が多いので、モンスター討伐を仕事にしている人が多い。
「……んァ……?」
「どうかしましたか?」
「いやァ……なんか飛んできて―――」
キョーガが言い終わる前に、その何かが飛んできた。
闇夜に光る紅眼、黒色の翼……とても、人間には見えない。
その何かは、まっすぐキョーガたちの方に向かって飛んできて―――
「―――ほっ」
弾丸のごとく突っ込んできた何かは―――キョーガの右手によって、弾き返される。
『ドゴンッ!』と鈍い音と共に、何かが殴り飛ばされた。
だが―――尋常ならざる勢いだった事を、キョーガの表情が示している。
サイクロプスの一撃を受けても、顔色1つ変える事のなかったキョーガが―――何かと衝突した際、顔を少しだけ歪めていたのだ。
「……なんだァあいつはァ……?」
「あ、う……あうあう……」
「オットセイかよおめェはァ……」
突然の轟音に、リリアナが口をパクパクと開閉させている。
それにツッコミを入れつつ……キョーガは、飛んできた何かに目を向ける。
キョーガの一撃を受けたそれは……何事もなかったように立ち上がったのだ。
もちろん、キョーガも本気で殴ったわけではないが……
「……俺の一撃受けて立ってられるたァ……ありゃ化け物かァ……?」
いや、化け物のあんたが言うか。とリリアナが言いたくなったが―――立ち上がったそれを見て、リリアナの顔から血の気が引いていった。
「……?おいリリアナァ、ありゃァなんだァ?」
「嘘……?!『吸血鬼』……?!」
「……『吸血鬼』だァ……?」
「キョーガさんと同じ『死霊族』で……最上級召喚獣です……!」
ユラリユラリと近づいてくる『吸血鬼』……なるほど、最上級召喚獣ならば、キョーガの一撃に耐えたのも納得だ。
「………………を……」
「あァ……?」
「……ぃ………………をぉ………………」
顔を上げた『吸血鬼』が、最後の力を振り絞ったように叫んだ。
「―――血を、吸わせてくださいぃぃ!」
「……はァ?」
―――――――――――――――――――――――――
「えと……たす、助かりました……」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
申し訳なさそうにペコペコ頭を下げる『吸血鬼』を見て、リリアナが優しい笑みを見せる。
ちなみに、血を吸わせてあげたのはキョーガで、本人は吸われた首元に手を当てて『気色悪ィ』と眉を寄せていた。
「……ボク、『吸血鬼』の『アルマ』って言います……血を吸わせていただき、ありがとうございました……」
青髪のアルマが、キョーガに深く頭を下げた。
……一人称と髪色のせいで、男の子のように見えるが……胸部の小さな膨らみと、スカートを見る限り、女の子だろう。
「……気にすんなァ……別に、血なんて減るもんじゃねェしなァ」
「いえ、減りますよね?」
ここはしっかりとツッコんで行く。
―――『吸血鬼』。
血を吸えば吸うほど強くなる、特異な種族。
逆に、血を吸わないと弱体化する。
とは言っても……先ほどの突進。あれは血をまったく吸っていない状態だった。
つまり、弱体化すると言っても―――強力な事に変わりはないのだ。
キョーガと同じく『死霊族』に分類されており……血を限界まで吸った状態だと、全ての最上位召喚獣の中で、5本指に入る力を発揮する。
「それで……召喚獣であるはずの『吸血鬼』が、なぜ単独行動をしていたんですか?」
「……その……ボクたち召喚獣は、召喚士と契約する前に『契約条件』を出すのは知ってますよね?」
アルマ曰く、こういう事らしい。
―――アルマを召喚したのは、この『プロキシニア』でも有名な召喚士。
その者と契約する際に―――アルマが出した『契約条件』は、『毎日血を吸わせてもらう事』だった。
普通の人間は、『吸血鬼』に血を吸われるのは体が持たない。
だからその召喚士はアルマと契約しないことにしたのだが―――その召喚士は、アルマと契約する気が満々で、召喚した際、『契約条件』を聞く前に、アルマが帰れないように魔法陣を破壊してしまっていたとか。
まあ確かに、帰る事ができなければ契約を結ぶしかないが……この早とちりがアダとなった。
契約をしない。しかも帰れないとなったアルマは『それは困りますぅ!』と泣きつくも……その召喚士はアルマを追い出したらしい。
「そこで……行く当てもなく3日ほど、この国をウロウロしていたんですけど……『死霊族』のボクと契約したがる人もいなくて……血も吸えなくて……お腹空いて……」
「なァ、俺ァリリアナにその『契約条件』とか出してねェんだがァ?」
「それはその……キョーガさんが『契約条件』を出す前に契約を結んでしまったので……」
「俺が悪ィのかよォ……」
「あの、話し聞いてくれてます?」
「あァ聞いてる聞いてる……はよ続けろォ」
「うぅ……ボク、一応最上級召喚獣なのにぃ……」
雑に対応されるアルマが、不満そうに続ける。
「たまたまここを飛んでる時に、あり得ないような気配を感じたんですぅ……人間のようで、人間じゃない……濃厚で美味しそうな気配を……」
「……それが俺だったってのかァ?」
「はい……気配を感じた瞬間、理性が飛んでしまって……いきなり襲い掛かってすみませんでした……」
アルマの言うことが正しいのであれば、あの時のアルマの思考は『血だぁああああっ!』って感じだったのだろうか。
「でも……あなた、ボクに血を吸われてもピンピンしてますよね?……失礼でなければ、あなたが何者か聞いてもいいですか?」
「……俺ァキョーガ。てめェと同じ『死霊族』でェ、最上級召喚獣の『反逆霊鬼』だァ」
「なっ……『反逆霊鬼』ですです……?!」
「んだよですですってェ……」
ため息を吐くキョーガを見て、アルマは納得したように頷いた。
―――なるほどです。ボクの突進を跳ね返して、血を吸われてもピンピンしてるのも納得です。
「……それでは、ボクはこれで失礼します。助けていただき、ありがとうございました」
「えっ……アルマさん、どこか行く所があるんですか?」
「……ないですけど……モンスターの血でも吸って、どうにか頑張るですぅ……あんまり美味しくないですけど……」
そう言うアルマの顔は……疲れきっていた。
それを見た甘々のリリアナが―――放っておけるわけがない。何か言いたそうにキョーガを見る。
リリアナの視線に気づいたキョーガは……無言で頷いた。
『俺はお前の判断に従う』という意思表示だ。
「あの……アルマさん。よかったらうちに来ます?」
「……えっ………………いいんですか?」
「もちろんですよ。アルマさんに血をあげられるのはキョーガさんしかいませんし……それに、友だちは多い方がいいですから!」
「……でも……『反逆霊鬼』と契約しているんですよね?その……『魂の器』に、余りはあるんです?」
「そんなの、やってみないとわかりませんよ!」
そう言ったリリアナが、アルマに手を差し出した。
なぜ、わざわざ契約を結ぶのか。
簡単な話だ……『死霊族』は嫌われている。
そんなやつが、契約もされていない状態でウロウロしてたら―――攻撃されてしまう。
というか、アルマが今まで無事だったのが不思議なくらいなのだから。
それくらい『死霊族』は嫌われている。
「ほら、握ってください」
「……はい、失礼しますぅ……」
恐る恐るリリアナの手に触れ―――何も起こらない。
だが―――直後のリリアナの発言で、契約が成功した事がわかった。
「『命令 しゃがめ』」
「うおっ?!」
「あわわっ?!」
リリアナの命令に従い、アルマが地面に座り込み―――なぜかキョーガまで地面に座り込んだ。
「……契約成功ですね!」
「……です!」
「どォでもいいけど早く解けェ!」
嬉し気なリリアナの声とアルマの声、そしてキョーガの怒声が、夜の公園に響いたのだった―――
コメント