妖狐少年の人間観察譚

黒川 魁

第2話 いざ、地獄の外へ

妖狐の青年が駆けていく。
希望の詰まったキラキラとしたその目には、本人にしか分からない何かが見えているのだろう。
「あ、頭領だっ。」
灼熱の丘の上に立つ背の高いあの老人は、この村の頭領である。青年の父の良き理解者であり、青年も幼い頃から世話になっている。
「おお、来たのか。少し遅いがまあ良いだろう」
文句は後でお前の父にでも言おう、と老人らしい全てを見抜いたような笑みを浮かべる。
「では、始めるが覚悟は良いな?」
「はい。」
青年の尻尾を見る限り、楽しみで仕方ないようだ。
「記憶が戻るのは数年後だ、記憶が戻ったら妖狐に戻ってしまうからその後も上手く隠し通せ。」
記憶が一時的に無くなるのは惜しい気もするが致し方ない。
「分かりました!」
「輪廻の輪の仕組みや通り方も覚えているな?もし心配なら1度戻ってくるといい。」
「多分、大丈夫です。」
輪廻の輪を通る時には尻尾と耳は隠した方が良いだろう、そう思いながら青年は頷く。
「では、門を開くからな。巻き込まれんように下がっていろ。」
そう言うと頭領はブツブツと呪文を唱え始めた。
地獄から出る時にはこうして、妖力の強い者が門を開け閉めする必要がある。
「いよいよここから出るんだ…。」
青年から呟きがもれる。
頭領の呪文が終わった。そして、丘の地面に不思議な紋様が浮かび上がりそこから巨大な門が現れた。
「ここをくぐれば1人になる、支えもいないが大丈夫か?」
少しの間は開けておく、戻って来ても構わない。そう頭領が言うもその声は興奮した青年には届かず、
「行ってきます!」
青年は門の奥の暗闇に消えていった。

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