管理国家のカルキュレーター
01.御子も歩けばくり抜かれる
今日は最低の一日だ。
「ああもう、間に合わないかも……」
今度担任の先生に呼び出されたら大声で「セクハラ!」と叫んで逃げ出す事も検討しなければ。
呼び出された原因については心当たりがないといえば嘘になる。まぁ悪い事は覚えないのが私の良いところだから、その話はまた今度。
さて、今日はリクと合流して駅前のケーキ屋さんへ行く予定なのだけど……
リクというのは親友と呼んでも差支えのない、私の10年来の友人だ。かわいい。
私と違って昔から頭が良くて『御子』なんて呼ばれてたりする。小さい頃は『みこ』が読めなくて『ゴシゴシ』って呼んで、よく自慢の金髪をわしわししてあげたものだ。
待ち合わせ場所の路地裏まであと少し。リクは待たせると割かし怖い。自然に歩みが早くなる。
路地裏に入って数歩、リクの姿が見える。
「リクー、ごめん、遅くなっーー」手を大きく振っ
私が手を振って、
リクが振り向いて、笑顔を浮かべて
そのまま人形のように倒れて、
そこへ大きな赤い水たまりができた。
--まって。わたしは。なにをみているの?
まず目に入るのは、透き通った海のように美しい青い目から生気が消えている事。
いや、私は自分の心に嘘をついた。
まず目に入るのは、自慢の金髪ごと頭部がくり抜かれている事。頭をくり抜かれて生きていられる生物を私は知らない。
「リク! 返事して、リク!」悲鳴を上げて泣きすがる事ができるのは、第一発見者の特権だ。
できればこんな特権は行使したくなかった。
ふと、物音がした。
今私の腕から体温がなくなっていくのがリクではなく、見知らぬ遺体だったなら……もう少し、冷静に周りを見渡せたかもしれない。
親しい友人の死を前にした私は、近くに立っている男性に気付くのが遅れたのだ。
男性はトランクケースを持ち、これ以上ないくらい怪しい風体。マスクとサングラスにトレンチコート。百人に聞けば恐らく百人が犯人だと答えるに違いない。
「あの、すいません。救急車を呼んでもらえませんか」口から出た言葉に我ながら驚いた。
心臓の鼓動が早い。私の心臓は確実にこいつが犯人だと叫んでる。両足が逃げられるように準備を始める。震えそうになるのを目一杯抑え、相手の動きを目で追う。一歩でも近付いてきたら逃げなければ。
最悪のパターンとそれ以外の可能性を考える。そして、男は身を翻した。
……男は私の言葉に反応する事もなく立ち去った。男が去った後に残るのは、呆然とした私とリクだったもの。
「そうだ。警察、呼ばなくちゃ」
女の子なのにかわいそう。私はリクを覆うように上着を被せてあげた後、スマホで警察へ電話を掛けた。
警察が到着するまでの間、ひとしきり泣いた。おそらく人生で一番泣いた。明日は目が開けられそうもない。そして、警察が来るまでの静寂はリクの死を受け入れるには十分だった。
「ああもう、間に合わないかも……」
今度担任の先生に呼び出されたら大声で「セクハラ!」と叫んで逃げ出す事も検討しなければ。
呼び出された原因については心当たりがないといえば嘘になる。まぁ悪い事は覚えないのが私の良いところだから、その話はまた今度。
さて、今日はリクと合流して駅前のケーキ屋さんへ行く予定なのだけど……
リクというのは親友と呼んでも差支えのない、私の10年来の友人だ。かわいい。
私と違って昔から頭が良くて『御子』なんて呼ばれてたりする。小さい頃は『みこ』が読めなくて『ゴシゴシ』って呼んで、よく自慢の金髪をわしわししてあげたものだ。
待ち合わせ場所の路地裏まであと少し。リクは待たせると割かし怖い。自然に歩みが早くなる。
路地裏に入って数歩、リクの姿が見える。
「リクー、ごめん、遅くなっーー」手を大きく振っ
私が手を振って、
リクが振り向いて、笑顔を浮かべて
そのまま人形のように倒れて、
そこへ大きな赤い水たまりができた。
--まって。わたしは。なにをみているの?
まず目に入るのは、透き通った海のように美しい青い目から生気が消えている事。
いや、私は自分の心に嘘をついた。
まず目に入るのは、自慢の金髪ごと頭部がくり抜かれている事。頭をくり抜かれて生きていられる生物を私は知らない。
「リク! 返事して、リク!」悲鳴を上げて泣きすがる事ができるのは、第一発見者の特権だ。
できればこんな特権は行使したくなかった。
ふと、物音がした。
今私の腕から体温がなくなっていくのがリクではなく、見知らぬ遺体だったなら……もう少し、冷静に周りを見渡せたかもしれない。
親しい友人の死を前にした私は、近くに立っている男性に気付くのが遅れたのだ。
男性はトランクケースを持ち、これ以上ないくらい怪しい風体。マスクとサングラスにトレンチコート。百人に聞けば恐らく百人が犯人だと答えるに違いない。
「あの、すいません。救急車を呼んでもらえませんか」口から出た言葉に我ながら驚いた。
心臓の鼓動が早い。私の心臓は確実にこいつが犯人だと叫んでる。両足が逃げられるように準備を始める。震えそうになるのを目一杯抑え、相手の動きを目で追う。一歩でも近付いてきたら逃げなければ。
最悪のパターンとそれ以外の可能性を考える。そして、男は身を翻した。
……男は私の言葉に反応する事もなく立ち去った。男が去った後に残るのは、呆然とした私とリクだったもの。
「そうだ。警察、呼ばなくちゃ」
女の子なのにかわいそう。私はリクを覆うように上着を被せてあげた後、スマホで警察へ電話を掛けた。
警察が到着するまでの間、ひとしきり泣いた。おそらく人生で一番泣いた。明日は目が開けられそうもない。そして、警察が来るまでの静寂はリクの死を受け入れるには十分だった。
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