異世界転移者はお尋ね者

ひとつめ帽子

目指す場所

 それは遠い昔の話。
とある少女が世界の危機を救う為に立ち上がり、魔王を討ち倒す旅に出る。
彼女は勇気ある少年と、思慮深い賢者、頑固者の騎士、我侭な竜騎士、そして手癖の悪い義賊と共に旅をする。
その旅の果てに、彼女は魔王を討ち倒す。
そして世界に平和が訪れたのだった。




「…勇者ヒメノ・スズの話は本で読みました。
単なるおとぎ話だと思っていました」

「そうだね。
彼女の伝説は死して尚語り継がれている。
僕も親友として誇りに思うよ。
…悲しくなる事もあるけれど…」

 ルシアはそう言って遠くを見つめる。

「まぁ、スズの事は置いておこう。
それより、君達の事だ。
えーっと、すまないね。
ステータス鑑定を行ったから、自己紹介は不要なんだけど、君が勇者のアリシエ・オルレアン。
君は英雄のサエキ・アキト。そして君は魔将のシェリー・メイだね?」

 一人づつ指をさして聞いてくる。
俺達はそれぞれ頷く。

「サエキとシェリーは転移者みたいだね。
君達を追っているのは今の時代は聖騎士かな?
けれど、彼女の格好を見るに…彼女も聖騎士のように見えるけれど?」

 そう言ってルシアはアーシェを見る。

「元、聖騎士です。
聖騎士の鎧は身に纏っていますが、もう聖騎士ではありません」

 アーシェはキッパリとそう言った。

「そうか。まぁ深くは聞かないさ。
生きていれば色んな事がある。
それで、君達は聖騎士に追われているのかい?」

「追われていると言えば、そうかもしれません。
聖教会に仇なす行為をしたのは事実ですから。
けれど、それは間違った事とも思っていません。
ただ、そんな私達は居場所がなくて…」

「それで、ここに来たと。
僕としても、困ってる人は助けてあげたいという気持ちはあるんだ」

 ルシアは優しく微笑んでそう言った。

「なら、エルフの里に受け容れてもらえますか?」

 シェリーが答えを急かす。

「その気持ちはあるけれど、事はそう単純じゃないんだ。
原因は…君だよ、勇者アリシエ・オルレアン」

 アーシェをピッと指差してルシアは言う。

「いいかい。
英雄も魔将も、正直この広い世界には沢山存在する。
けれど、勇者と魔王はそうじゃない。
僕の知る限り、勇者も魔王もそれぞれ片手で数えられる程しかいないんだ。
そして、その存在は因果を持っている。
君はもう、運命という輪の中に入ってしまったんだ。
逃げ出す事は許されない」

 厳しい口調でルシアは言う。

「君がどれほどもがこうと、あがこうと、泣き喚こうと、何をしようと、運命は君を放さない。
君はその力を望み、手にしてしまった。
その代償は君が想像している以上に重いものだよ。
今はまだ、自覚はないと思うけれど」

 まるで、遠い日の何かを思い出すようにルシアはそう言った。

「…つまり、何を言いたいのか、というとその運命の影響がこのエルフの里にまで降りかかるという事さ。
僕は彼等に対し、安住の地を約束している。
だから、いつか訪れるであろう危機を引き込む力をここに置いておくわけにはいかないんだ。
申し訳ないんだけれどね」

 ルシアは本当に申し訳なさそうにそう言った。
そう言われ、アーシャは言葉が出ない様子だ。
けれど、俺は納得できない。

「そんな言い方ないじゃないか。
アーシェが、何をしたってんですか!
別にこの里に悪さをしようとしてる訳じゃないっ。
俺達はただここで安全に暮らしたいだけなんだ!」

 つい声を荒げてしまう。
そんな俺の袖をシェリーがクイッと引いて「落ち着いて下さい」と声をかける。

「…悪い…お願いする立場なんだよな、俺達…。
でも、考え直してくれ。
本当に行き場がないんだ」

 俺は懇願するように言う。

「君達の思いは伝わっているとも。
だから、別に今すぐ出てけ、だなんて言わないよ。
しばらくはここに滞在する事は許可しよう。
言い方が悪くなって、僕もすまなかったね」

 ルシアはそう言った。
その言葉に俯いていたアーシェが顔を上げる。

「いいんですか?」

「ただ、勘違いしないでおくれ。
永住は絶対に許可出来ない。
いずれ君達にはこの里を離れてもらう。
とは言え、そこで行き場を無くされても困るからね。
行き場所を見つける手助けはするよ」

 ルシアはそう言って立ち上がる。
そして、壁に貼ってある地図を指差す。

「今僕らがいるのはこの西のガレリア大陸。
知ってるかもしれないが、大陸は他に四つ。
一つは北の魔の大陸ジャラス。
もう一つは東のアデリア大陸。
そして南のサウゲリア大陸。
最後に中央に位置するリデント大陸。
君達の追っている聖騎士はあくまでもガレリア大陸での話だ。
他の大陸に行けば、転移者ばかりの街すら存在する」

「大陸を…越えろと?」

 アーシェが問う。

「その通り。
君達が安住の地を目指すなら、それしかない。
というより、遅かれ早かれ勇者たる君は大陸を渡る事になるさ」

 ルシアはそう言ってアーシェを見る。

「しかし、大陸を渡る方法がありません。
ご存知でしょう?
空には暴風龍が、海には海王龍が猛威を振るっています。
それから船の交易は出来なくなったはず」

 シェリーが反論するように言う。

「そうだね。リドラの奴は本当に勝手な事をやってるものだよ。まったく。
けれど、大陸を渡る方法はそれだけじゃあない。
君達は迷宮を知っているかい?」

 俺は知らない。
二人を見ると、アーシェとシェリーは顔を合わせ、そして頷く。

「知っています。
近場でいえば、港の街リーシェリアに地下迷宮があり、それが名物にもなってるとか」

 アーシェが答える。

「その通り。
では迷宮の最深部、そこに何があるのか、知っているかい?」

 俺はやっぱり知らないです。
二人を見ると、今度は二人とも首を振る。

「最深部に到達した者は未だにいないと聞いています。
噂では中層までしか攻略が進んでいないとも」

 シェリーがそう言った。
しかし、ルシアはニヤリと笑って口を開く。

「そんな事はない。
僕の親友、アーガイルが既に全ての迷宮を攻略している。
彼は手癖の悪い盗人だけど、冒険家でもあったからね。
不思議な迷宮を攻略してやるんだ、と躍起になっていたよ。
そして、最深部にあるものを、僕も知っている」

 俺達はその話を黙って聞き入る。

「最深部にあるもの。それはポータルさ。
最深部からまた入り口まで出て行く事の難儀さを考えての事かもしれないが、そのポータルに入ればすぐに入り口へと戻れる。
けれど、それだけじゃあない。
ポータルは、別の迷宮の入り口にも繋がっている」

 そこまで言って、俺達は顔を見合わせる。

「別の…迷宮…。
つまり、大陸を越えた迷宮にも?」

 そうアーシェが問いかけると、ルシアは頷いた。

「迷宮の最深部を目指すと良い。
そして、新しい世界を見ておいで。
それまでの間、君達の面倒はみてあげよう。
とは言え、条件はいくつかつけるからね?
ちゃんとこの村でも働いてもらうし。
それでも構わないなら、ここにしばらく住む事を許可する。
…どうかな?」

 俺達はその問いに、互いに顔を見合わせ頷いた。



 そうして、俺達の迷宮への挑戦が始まった。









迷宮のメの字も出なくてスイマセンね。
「第三章 迷宮を越えて」、ようやくスタートです。

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