異世界転移者はお尋ね者

ひとつめ帽子

荷馬車に揺られて

  村に戻った俺達を村人達は心配そうな顔で出迎える。
魔物は皆いなくなった事を伝えると、安心した顔になり、一人一人が握手してお礼を言ってきた。
なんだかむず痒くなる気持ちになったが、悪い気はしない。
隣を見ればアーシェも微笑んで握手している。

  そして、朝早くから荷馬車の修理を再開した村人の青年がこちらにやってきて修理を終えた旨を伝えてきた。
  ついに、先に進む時がやってきた。



「色々と世話になったよ。
村長、この服本当にもらっていいのか?
貸してもらった服はダメにしちゃったのに」

  俺は村長に再度確認する。
借りていた薄茶の衣服は血まれだし切り裂かれてるし破れてるしでえらい騒ぎになっていた。
それを見た村長は新しく衣服を用意して渡してくれたのだ。
新しい服は濃い茶色のパンツに、上は白のシャツ、そして深緑のカーディガンをくれた。
更に皮の長いブーツもくれたので、衣服一式もらってしまったのだ。

「もちろんです。
村の危機を救っていただいたお礼と思って使って下さい」

  俺は有難く頂戴することにした。
そして荷馬車に乗り込む。
荷物もそこまでないのか、大分広々としている。
向かい側にアーシェが座った。

「それじゃ、皆さんお元気で」
「またいつか寄るからな」

  それぞれ別れの言葉を村人達に伝え、荷馬車は出発する。
ゴトゴトと乗り心地は微妙だが、まぁ歩かずに済むってのは楽だった。




「このペースなら、今夜のうちにクレステリアの手前にあるカーソン村に着くわ。
そこで一泊して、翌日の昼前には到着って感じかしら」

  ふむ、まだ先は長いんだな。
まぁ馬だって全力疾走し続けれるわけじゃない。
体力もあるだろうから、急いでどうやるものでもないのだろう。



「…ところで、アキトは…転生者としての力に目覚めてしまったの?」

  アーシェは真剣な顔でそう尋ねてくる。

「うーん、どうなんだろうな。
目覚めたのかはわからないけど、英雄の卵ってのが孵化したらしいぞ。
俺って身体の中で卵を温めていたようだ」

  俺は冗談めかしてそう言った。
すると、アーシェが驚いた顔をして、

「孵化したの?いつ?」

  と聞いてくる。
なんだ、身体ん中で卵が孵化するのは常識なのか?
地球にはない文化だ。

「オーガに首切られて死ぬかと思ったときだな」

  アーシェは片手を唇の前に持ってきて考え込む。
命の危機的状況に反応した?それたとも倒すべき強敵に対して?あるいは…。
アーシェがなんかブツブツ言ってるな。

「アーシェさん?」

「あ、ごめんなさい。
アキトは卵の孵化についてよくわかっていないのよね」

  俺は大きく頷く。
俺の常識では卵は身体の中で温めるものではないからな。
孵化もしないし。
色々教えてもらいたいのだ。

「英雄の卵…って、聞こえは可愛いけれど、ようは英雄の力が殻を被っている、という意味ね。
その殻を破れば、閉じ込められた力が使えるようになる。
これを孵化する、って言われるの」

  アーシェは続ける。

「卵の種類はいくつかあるわ。
でも、大きく二つの種類に分けられる。
つまり、聖の卵が、魔の卵か、って事ね。
聖には英雄や勇者といったものがあるわ。
逆に魔の卵には魔王や魔人といったものがあるの。
それらが孵化すると潜在的に秘められた特殊能力が開花したり、身体能力が格段に上がると聞いてるわ。
と、言っても卵を持つ者は極稀にしか現れないけれど」

  ふむ、あのオーガを倒した時の力はそれか。

「卵は何があると孵化するんだ?
俺は何か勝手に孵化した感じだったが」

「人によって違うの。
でも、強い意志が関係しているとも言われてるわ。
誰かを守りたい、救いたい、助けたい、とかね。
純粋に力を強く望む事で手に入れた人もいるみたい」

  ほうほう。
それじゃあの時のトリガーは多分、守りたい、だろうなぁ。
なんか思い出したら恥ずかしくなってしまった。
我ながら随分必死になったものである。

「それで、孵化したのはいい事じゃないか?
ようは強くなったんだし」

  俺は二の腕に力こぶを作ってみる。
うーん、あんまり前と変わった気はしないなぁ。
ムキムキマッチョになっても嫌だけど。

「そのポーズはよくわからないけど、強くなったのはある意味問題かも…ね」

  アーシェの顔色は少し暗い。
うん?なんで?

「これから行く都市、クレステリアは、別名聖都クレステリア。
聖教会の総本山にあたるわ。
当然聖教会の人間も多いし、転移者に対して敵対的な人が多いはず。
私は出来る限りアキトが無害な人だって伝えるけれど、その力は無害と判断してくれるかは…」

  なるほど。
つまり、俺はもう来たばかりの転移者ではなくなってしまったのだ。
脅威になる前ではなく、脅威そのものになっており、後はその力がどこに振るわれるか、という話。
そんな存在を、その聖教会とやらはどう扱うのか不安な訳だ。

「うーん、そんな事を言われると、俺は非常にその聖都とやらに行きたくない訳だが」

   俺は正直に感想を述べる。
アーシェも「そうだよね…」と力無く同意する。

「でも、逆に聖教会の人が無害と認定すれば、堂々とこの世界を回れるわ。
逆にそうしなければ、人目からずっと避けて生きてくことになる。
私はアキトにそんな思いをして欲しくない。
ちゃんと、悪い人じゃないって皆にわかってもらいたい。
転生者が全て悪ではないって、知ってもらいたい」

   アーシェは懇願するように俺を見る。

「お願い、アキト。
私と一緒に来て欲しい。
これは連行とか、そういうのじゃないわ。
ただの私のお願い。どう決めるかはアキトに任せるわ」

  俺は腕を組んで悩む。
正直、行きたくないは行きたくない。
だが、アーシェの言うように、俺の無害さを証明するには第三者の目が必要なのだろう。
そして、転生者を敵視してる聖教会とやらが俺を無害と認定すれば、晴れて自由の身。
そもそも俺だって人々に害を与えるつもりはないのだし、もしかしたら心配のし過ぎなのだろうか?

「わかった。
どっちにしろ、乗りかかった船だし、クレステリアに行く事は決めてたしな。
今更それを反故にはしない。
悩んで悪かったな」

   それを聞いてアーシェは心底安心したのか、ホッとした顔をする。

「ありがとう。
私も精一杯アキトの事を弁護するわ。
大丈夫。
今までの経緯を説明すれば聖教会の人達もわかってくれるはずよ」

  笑顔でアーシェはそう言った。
まぁ、そうだな。なんとかなるだろ。
俺は呑気にそう結論を出し、目を瞑る。
昨日寝てなかったからな。
少し寝るか。

   思ったより揺れる車内ではあったが、それでも蓄積した疲労のせいかすぐに眠ることが出来た。




「アキト、カーソン村に着いたわ」

   アーシェの声で俺は目を覚ます。
む?俺は眠ってしまってたんだな。
どれくらい眠っていたのか。
目をゴシゴシしなかまら荷馬車を降りる。
既に日が暮れていた。

「余程疲れてたのね。
道中ずーっと眠っていたわ」

   クスクスとアーシェが笑う。
うわぁ、俺ずっと寝てたのか。
寝顔とかヨダレとか大丈夫だったかなぁ。

「とりあえず、宿屋に泊まりましょう」

  そう言って木造の建物に向かうアーシェ。
俺もその後について行く。



「いらっしゃい。
“蛍の宿”にようこそ」

  受付の村娘が元気よく挨拶してくる。

「おやおや?聖騎士様じゃないですか。
それに…後ろのお兄さんはどこかの村の人かな?
これは何か訳ありの旅ってやつですか?」
なんだかニヤニヤしながら受付の村娘は言ってくる。

「そんなんじゃありません。
彼は旅の仲間。
部屋を…2つ用意して欲しいの。
空いてるかしら?」

   ん?今微妙に間があったな?

「あらまー、聖騎士様、申し訳ないっ!
 今いくつか部屋を改築中でしてね?
一部屋しか空いてないんです。
でもでもベッドは大きめのダブルですから二人とも眠れるかと思いますが?」

  オーノー、と言わんばかりなオーバーリアクションの後に、やっぱりニヤニヤして続けてきた村娘。
コルト村の娘とえらく違うな。

「そ、そう。
でも一部屋だけっていうなら仕方ないわね。そこをお願い」

   仕方ないのか?仕方ないらしい。

「それじゃお二人様ご案内します。
どうぞこちらへ」

   そう言って案内してくれた部屋はコルト村よりも上質だった。
ベットのシーツも柔らかく、装飾が施された衣装箪笥。
モダンなテーブルと椅子が二脚用意されている。
これは高い宿なのでは?と後でアーシェに聞いてみたが、聖騎士は宿代が格安になるらしい。
村には聖教会からの給付金もあるからそういう扱いになるのだと。
聖教会ってのは結構デカい組織なのかも。



  しかし、今日もここでアーシェと二人か。
また心臓がドキドキしてくる。
アーシェは平気なのか?
全く、女心ってのはわからんもんだ。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く