二番目(セカンド)の刹那

Lot

4月5日②《なんで先に帰ろうとするのよ》

 県立凪浜なぎはま総合高校。生徒数は1000人程度の単位制総合学科の高校だ。


 今年で二年生になる僕、小波さざなみ刹那せつなはたった今、退屈な始業式を過ごし終えたところだ。


「帰るか……」


 始業式が終わったというならさっさと帰る。


 騒がしい教室を出て、騒がしい廊下を通り抜けて騒がしい昇降口を抜けて校門を出た。


 新学期初日だろうと学校は面倒くさいという基本理念が覆ることはない。新しいクラスに友達いなかったし……。


 そもそも同級生に友達と呼べるほど仲の良い存在が数えるほどしかいないのだ。10クラスもあってはその全員が僕と別のクラスになる確率は決して低くない。


 そういえば今日、同級生で最も仲の良いであろう友達である六浦黒ムクロを見かけなかったな……。


 ムクロ、六浦むつうらくろ。休日を除いてほぼ毎日話すような仲の友達はこいつだけだ。あいつ身長高いし目立つとは思うんだが生徒数が多いのだから、そんなこともあるか。


「あー!刹那せつないたーー!」


 校門の方から大声で僕の名前を呼びながら走ってくる少女がいる。前言撤回。同級生にほぼ毎日話す奴はムクロの他にもう1人いた。


「刹那なんで先に帰ろうとするのよ」
「いや、別に特に用もないしさっさと帰ろうかなって」


 頬を膨らまして不満を訴えてくる。


 杉田すぎたあおい。家が隣の俗に言う幼馴染だ。
特に趣味が合うわけじゃないが、生まれた頃から一緒に過ごせばある程度は仲良くなるものだ。


「ふーん。まぁ別に刹那がどうしようと勝手だけど……あ、そうそうTwitterやってる?」
「やってるけど、急に何?」
「私もさっき始めたからアカウント教えなさい」


 と、言いながら葵はスマホを片手にTwitterでIDを検索しようとしている。


@アットSSエスエスtティーsエスuユーnエヌaエー


 バレて困ることもないので正直に教える。


「えっと…てぃー、えす、ゆー、えぬ、えー…これで…よし!これでしょ?」
「うん。それだよ」


 葵が僕のtwitterアカウントを見せてドヤ顔してきた。
 僕がIDを教えたのに、なんでこの女はアカウント特定したかのような顔してるんだか。


「刹那、プロフィール欄のクラスが去年のままだよ」
「あー、あとで直しとく」


 新年度初日から退屈なくらい平凡な一日だ……じゃなかった。今朝の事を忘れてた。そうだ、大した差はないだろうが、急いで帰った方がよさそうだ。


「葵、悪い。今日ちょっと予定思い出したから先に帰るよ」


 そう言って軽く走り始めた。


 葵が「予定って?」とか聞いてきた気がするが聞こえなかったことにしておこう。


 電車が何時に来るか把握していないが、調べてる時間があったら少しでも早く行った方がいいだろう、というか調べるのが面倒だったので、考えるのを止めて駅に向かった。


 全力疾走とは言えないものの、自分なりにかなり急いだ結果、丁度すぐに電車が来てそれに乗って帰った。そして家に帰ってみたわけだが特別何も変わったところはなかった。


 そうだろうとは思っていたが無駄に走っただけか。


 家の中の特に金目の物は確認したが、何も盗られてはいなかった。僕が家を出る直前と変わらないいたって普通の僕の家だ。空き巣でもなければもはや、ただのイタズラだとしか思えない。何がしたかったのだろうか。


 一応、警察に…いや警察に何て報告するつもりだよ。


「昼飯作るか……」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品