二番目(セカンド)の刹那

Lot

?月?日《転換を開始します》

「世界が終わるまで、あと1分を切りました」


 機械に囲まれた研究室で白い髪の無表情な少女が言った。


れい、お前にはこの世界が壊れる前に第二線へ行ってもらう」


 僕がそう告げると、れいは首をかしげて光の無い瞳で僕に疑問を訴える。


「私が第二線に行くのであれば、元々、二線にいる私は……人間として生まれた私はどうなるのですか? 彼女を犠牲にしてまで救われる価値は機械である私にはありません」


「別にお前のためじゃない。これは命令だ。二線に行け」


「……分かりました」


 そう答えた澪の表情は不満というよりも疑問に満ちたものだったが、時間がないから急ぐべきだと理解し、澪は椅子に座っては呼吸を整える。


「行けるか?」
「はい。自分自身であれば容易です」


 澪は深呼吸して目を閉じる。二線に移動させるシステムはきっと問題なく作動してくれるはずだ。座っている椅子に背もたれがないので、僕は手で軽く澪の背中を支えた。


「それじゃあ……」


「はい。本当によろしいのですね?」


「ああ。じゃあな」


「はい。転換を開始します」


「頼んだよ姉ちゃん。世界を救ってくれ」


 僕のこの言葉は姉ちゃんに届いただろうか。澪の体から力が抜けて体重が僕の手にかかってくる。


 ……そろそろ1分経つ頃か。頼んだよ。




──────────────




「ミオー?ねぇミオ!」


 少女の声で目を覚ました。空が見える。地面に寝てるのか。私は。
 ミオとは誰のことかと思ったが。今の私は周りから見るとミオなのか。私はれいだが、この体はみおの物だ。ということは、私に声をかける彼女はみおの友人か。


「あ、起きた。ミオ、大丈夫?どうしたの?」


 心配してくれているのか。転んだ衝撃であろう背中の痛み以外は何の問題もない。急な転換だったのでもう1人の私が対応しきれなかったのは当然だろう。


 現在地は人通りの少ない住宅街。カーブミラーに映る茶髪の私が、この体は私の物ではないということを実感させた。


「私は大丈夫です」


「大丈夫『です』って。急に敬語?やっぱ大丈夫じゃないでしょ」


 『世界を救ってくれ』と、彼が最後に私に言った言葉を思い出す。ゆっくりしている暇は私にはない。今、私がやるべきこと。彼が私を二線に送った理由。私にしかできないこと。


「それより聞きたいことがあります」


「だから敬語…それで、聞きたいことって?」


 聞きたいことは山ほどあるが、最初に聞くべき事はこれだろう。


「刹那がどこにいるか知っていますか?」

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