生産職を極めた勇者が帰還してイージーモードで楽しみます
契約③【東堂美咲】
入ってきた男性は安物のTシャツとGパンをきた30代くらいの人でした。その格好は商談には不適切と言わざるを得ないものでしたが私には特に気になりませんでした。
Tシャツから出ている腕と首から鍛えられていることが窺い知れ、覇気のない顔つきに反して鋭い目つきをしています。そして何処と無く漂う暴力の雰囲気はマフィアを連想させます。
全てが私の理想のタイプだわ!
男性の後から10歳くらいの金髪の愛らしい少女と台車にいくつかのアタッシュケースを乗せたホテルの従業員が入ってきました。
男性がそのままソファの前に来たところで愛梨が男性を歓迎します。
「お久しぶり、、、というほどではないですね。前に会ってから1週間ほどしか経っていませんし」
「あぁ、そうだな。ええと、直継の嫁さんの、、、名前は、、、」
「愛梨です」
「そうだ。愛梨だ。で、娘が愛佳だよな。すまんなぁ、名前を覚えるのは苦手でよ」
「いえ、気にしないでください」
外向きの私を真似た口調で愛梨が応対しますが男性は瀬戸家の次期当主を呼び捨てにしました。それができる立場というのはかなりの物だと推測できます。
「えっと、そちらさんを紹介してもらえるか?」
「はい。こちらが私の幼少の頃からの友人で東堂美咲、アクセサリーなどを担当しています。そしてこちらが秋道楓さん、お義母さんの紹介で衣服類を担当していただく予定です」
愛梨の紹介で頭を下げます。
「そうか、俺は逆巻雄吾。こっちは娘のミシェだ。よろしく頼む」
自己紹介を終えたところで早速商談に入ります。
「で、東堂さんだったか」
「はい」
「あんたにはアクセサリー類を担当してもらうって話だが普段は何をやってる?」
「もうすぐ私の会社ができますので社長を。化粧品などを取り扱う予定です」
「これから?なら忙しいんじゃないか?」
「いえ、優秀な人材を揃えておりますし、事前準備をしっかりしておりますので私自身のやる事はあまり無いのです」
逆巻さんの質問に丁寧に答えていきます。こういう場合、自分を良く見せようとして嘘をつく人がいますがそういうのは意外とバレます。脚色なしで答えるのが1番です。
「ん、まぁ、いいか。信用できる人って紹介だしな。
それじゃあ物を捌けるか実際に見てもらおうか」
そう言ってホテルの従業員が運んで来ていたアタッシュケースをいくつかテーブルに上げて中を見せます。
「これは、、」
アタッシュケースに入ってたのはネックレスやティアラ、イヤリングでした。そのどれもが一目で素晴らしいものだとわかる物で、専門家では無いですが明らかにガラスなどのような模造品ではなく本物の宝石が使われていることがわかりました。
「これが売って欲しい商品だ。どうだ?」
「え、ええ。とても素晴らしいものだと一目でわかります。1つ1つが高額になるだろうということも予想できます」
「あんたはこれを売れそうか?」
正面からジッと眼を見られます。睨まれているわけではありませんが眼を反らせない雰囲気がありました。
「ん、お時間をいただければ。私は海外の富裕層にもツテがありますので売ること自体は可能です。ノルマはどれくらいなのでしょうか?それからこれらの最低金額をお教えいただきたいのですが」
「あー、それなんだが。まずノルマはない。売れる時に売ればいい。
で、金額なんだがあんたが好きに決めていい。俺には相場とかがわからないからこうして代わりに売ってくれる人間を探しているんだ」
「金額を私が?ではこれの仕入れ値とどこから仕入れたのかを教えていただけますか?」
「仕入れ値?ん〜、そういうのは気にしなくていい。出来るだけ高く売ってくれ。
これは俺が創ったモノだしな」
「はい?」
私は逆巻さんが何を言ったのかわかりませんでした。
「ん?だから俺が創ったんだって。デザインは別のやつだけど創ったのは俺だ」
「なっ!?そうだったのですか。つまり逆巻さんは創るのが専門なので創ったモノを売る人が欲しかったという認識で構いませんか?」
「おう」
成る程。瀬戸家で囲っている職人さんなのでしょうか?専門家ではない私から見ても素晴らしいものだと理解できる物を作れるという事はかなりの腕前なのでしょう。
「それで、だ。あんたらには副職としてこれを売って貰いたい」
「副職ですか?私は会社を作ったばかりなのでそれは有り難いですが、、、よろしいのですか?普段は会社の方を優先することになりますが」
「構わない。というより俺が創るのは俺が創りたいものだけだ。だから気まぐれに創るし、いつどれくらい創るかも決まっていない。製作の依頼も受けない。
俺が俺のやりたいように創った物を売って欲しい」
完全に趣味の領域ですね。それを金銭に変えたいと、、、腕がいいのでそれでも問題ないでしょう。
「わかりました。お引き受けいたします。材料の仕入れはこちらでしますか?」
「いや、俺が自分でやる。あんたらは本当に売るだけでいい」
「わかりました」
「ん、じゃあとりあえず30個ほど持って来てあるからとりあえずそれを頼む。振り込む口座とかなんとかはミシェから聞いてくれ」
そういうと逆巻さんの隣にいたミシェちゃんが持っていたパソコンを私に見せます。
「これが口座の番号です。それから私とマスターの電話番号も記録しておいてください」
「マスター?」
「、、、お父さんのことです」
なんだか不思議な2人です。普通父親のことをマスターとは呼びませんし、血縁関係があるようにも見えません。ああ、これも含めて詮索はなしということですか。
それにしてもすごい副職ですね。
人件費なし、材料費なし、渡された物を売るだけで高額の報酬を得る。マイナスは税金だけです。
これほど美味しい話だと裏がないかと勘ぐってしまうものですが逆巻さんの雰囲気からして本当にお小遣い稼ぎのような感覚でやっていることがわかります。愛梨のお陰で素晴らしい縁を持つことができました。感謝しなくてはいけませんね。
、、、、、、愛する人がいるということでしたが愛人は募集してないでしょうか
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