生産職を極めた勇者が帰還してイージーモードで楽しみます
契約②【東堂美咲】
「本当!?」
「ええ、私がその仕事を引き受けるわ」
驚いて立ち上がった愛梨にしっかりと頷きます。確かに何にもわからない状態の仕事を請け負うのは危険ですが瀬戸家に貸しを作れるのならば借金ができるような状態にはならない。
それに勘だけどこの仕事は受けた方がいいです。根拠はないけどある企業の若手社長に言われた言葉を思い出します。「もし成功したいならば勘を大事にしないといけない。そこで足踏みしていては機を逃してしまう」その社長は自分の代になってから会社の規模を1.5倍にしたやり手です。
「ほ、本当にいいの?こんな無茶な仕事はないよ?友達だからって無理してない?」
「いいのよ。私の勘が大丈夫だって言ってるもの」
「そ、そうなんだ。本当の本当にいいんだね?もう知りませんは出来ないよ?仕事の内容聞いちゃったら『YES』以外の選択肢は用意できないからね?」
「大丈夫よ」
愛梨はワタワタしながら何度も確認してきます。おそらくダメでもともとだったのでしょう。引き受けてもらって逆にびっくりしているみたいだわ。
「じゃ、じゃあこれ読んでから了承だったらサインしてくれる?」
そう言ってタブレットを渡されました。今の時代は書面ではなくこうした機械で契約書をかわすことが多いですね。
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・取引相手について詮索しないこと
・取引相手について知りえた情報を口外しないこと
・取引内容について口外しないこと
・取り分については本人と交渉すること
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これは随分相手について配慮されています。余程の大物のようですね。それとも表に出れない職種の方ということでしょうか。
「ん、はい。サインしたわ。それにしても随分な配慮じゃないかしら?そんなにすごい相手なの?」
「うん。瀬戸家にとってはかなり重要な人だよ」
「そう、、、それじゃあ仕事内容を教えてくれるかしら」
「うん。やって欲しいのは、えっと、販売代行かな?」
「販売代行?つまり何かをその人の代わりに売って欲しいってことかしら?」
「そう!これ見て!」
先ほどのタブレットをもう一度渡されます。タブレットてには写真のフォルダが開かれているようです。
「あら、随分と綺麗なアクセサリーね。実物を見て見ないことにはわからないけどデザインは素敵だと思うわ。私はこれを売ればいいの?」
「うん!扱って欲しいのはこういった貴金属類なの」
「、、、、パッと見でも凄いものばかりだわ。これを私の会社で取り扱うの?」
「ううん。会社経営の他に別の会社にも所属するって感じかな。そこのトップは瀬戸家が請け負うけど名前だけでやり方には一切口出ししない形になるよ」
つまり社長職と営業職を同時にすることになります。私の会社の方は融通がきくので大丈夫ですがこちらはどれを誰にどの金額で売るかがわからないのでなんとも言えませんね。
「そうですね。実物を見せて欲しいのと、後は詳細を本人と交渉したいところね」
「近いうちに本人に会ってもらうよ。いつなら空いてる?」
「今なら好きな時に時間を開けることができるわ」
「わかった。ちょっと待ってて」
愛梨はそう言って一度退室します。
数分で戻ってきて
「じゃあ2日後のお昼でいい?」
「ええ、構わないわ」
「それじゃあ、2日後の10時に迎えに行くよ!多分大丈夫だけど取引相手が気に入らなかったらこの契約はなかったことになるから気をつけてね」
「わかったわ」
そうして私達は別れた。それにしても就職面接のようなことをするのは10年ぶりくらいかしら。相手に気に入られなければ契約破棄。瀬戸家がそれほど優先する人はどんな人なのか、不安だわ。
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2日後
愛梨の迎えの車で都内の高級ホテルの1つに向かいました。そこの最上階が待ち合わせ場所らしいです。
、、、、それにしてもリムジンで迎えに来るのはやめてほしかったですね。ご近所さんから何処のお金持ちだと好奇の目で見られてしまいました。会社が動き出せば引っ越しますがまだ後一月ほどはあそこで暮らさないといけないのですが。
専用キーを使ってエレベーターで最上階に向かいます。家を出てから常に黒服の護衛に囲まれていると大金持ちになった気分ですね。
最上階の豪華な扉を開けるとソファが4つとテーブルが1つの明らかに話をするためだけの部屋でした。そこには既に先客がいました。
私よりも歳下、おそらく20代半ばくらいの女性です。スタイルは平均的、顔の印象は失礼かもしれませんが狐のような印象を受けます。こうした一見でどれだけ相手の情報を取れるかは商売人にとって大事なことです。そして私の目から見て彼女はやり手の商売人、、つまり同業者に見えます。
彼女が瀬戸家が重要視するVIPでしょうか?こちらが口を開く前にあちらから声がかけられます。
「お初にお目にかかりますぅ、ウチは秋道楓言いますねん。宜しゅうお願いします」
こちらからは目を離さず頭を下げます。話し方からして関西圏の人でしょう。西日本にはあまり詳しくないですが秋道という名は何処かで聞いたような、、、
「私は瀬戸愛梨。楓さん、あなたの事はお義母さんから聞いてるわ。今日はよろしくお願いしますね。こっちは東堂美咲、貴女と同じ取引の候補者です」
「こちらこそ初めまして。私は東堂美咲と言います。よろしくお願いいたします」
考え事をしながら、それでも口は滑らかに回ります。ですが意識は愛梨が言った言葉に向きました。
「あらぁ?瀬戸はん、ウチの他に候補者がいるなんて聞いとりまへんけどどういう事でっしゃろ?ウチとその人とで競争っちゅうわけですか?」
「ええ、私も聞いていないわ。どういうことかしら」
「あっ、言い方が紛らわしかったね。2人が取引するのは別々のものだから気にしないで。取引相手が同じだけど2人が競争するってわけじゃないから」
つまり私が取り扱う貴金属類の他にも商品があってそれを彼女が担当するということかしら。そういえば会社を作ると言っていたから、彼女とは別の部署の同僚という形になるのかしら。
しばらく3人で適度に情報交換しながら紅茶を飲んで取引相手を待っています。10分程度待った頃に1人男性が入ってきて愛梨に耳打ちします。
「うん。わかった、ありがとう。
2人とも、来たみたいだよ」
その言葉で私はスイッチを切り替えます。久しぶりの交渉ごとに気合が入るというものです。向かいに座る楓さんも雰囲気が変わります。
取引相手を迎えようというところで「あっ」と思い出したように愛梨が私に耳打ちして来ました。
「(今から来る人は愛してる人がいるって言ってたからダメだよ)」
何を言われているのかよくわかりませんでしたが扉が開いた瞬間理解しました。私は思わず呟いてしまいました。
「どうしよう、すっごいタイプだわ」
私の好みの男性にジャストミートした人でした。
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コメント
ヨナ
訂正ありがとうございます
引き続き頑張ります