100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

天界話 気まぐれ

 ここは天界、転生の間。

 各世界で役目を終えた魂達が新たな肉体へと生まれ変わる場所。転生の詳細は教えられていないが大まかに言えば、すでに完結している物語の中に自分が何かになって転生する感じで、それは村人だったり、会社員だったり、虫だったり、そして勇者だったり……。

 そして今日、勇猛の101回目の転生の儀が行われる事になった。

 辺りには大小様々な魂達が自分の順番を心待ちにしていた。

「なあ! 俺このあいだ鷹だったんだけどさ! 空飛ぶのって超気持ちいいぜ?」

「マジかよ!? いいなあ。俺なんて猟師だぞ? ずっと山の中で暮らして猪とか鹿とか鳥撃ってた」

「…………」

「あ? どうした?」

「お前か……」

「……あっ……」

 皆、様々な体験談を口にして賑わう中、神の使いが言う。

「次、坂本龍馬! 前へ!」

「はいぜよ! いやあ! 前回の犬は凄かったのう。匂いの世界じゃき、飼い主の娘ばかり嗅ぎまわっとったら気味悪がられてすぐさまノラにされてしもうたからのう……いやあ、世間は厳しいぜよ」

 神はガチャシステムのハンドルを回す。

――――――ガチャ

出て来た玉から一枚の紙を取り出し読み上げる。

「坂本龍馬、君の次の転生先は――スライム!」

「おわっ! ハズレじゃ! 昔なった時は、どこぞのアホンダラに蹴られまくったからのう……今回は蹴られんよう用心せにゃならんぜよ」

 そして、遂に彼の順番がまわってきた。

「次、勇猛いさみたける! 前へ!」

「はい」

「おかえり。今回は随分と帰りが早かったね?」

「今回は仲間達がドタバタだったから気が付いたら終わってた……」

「ん? 仲間を変えたのかい?」

「うん、仲間もそうだけど……物語を変えたのかな?」

「物語を?」

「うん。うまく言えないけれど、今までと立ち位置を変えたっていうか、視点を変えたっていうか……とにかく今までと違う事をしたって感じ。物語自体は変わってないのかな?」
 
「ふうん。それで? どうだったの?」

「最っっっ高に楽しかった! あんなに飽き飽きしていた物語なのに、全く別の物語みたいでドキドキワクワクしっぱなしだったよ!」

 彼は幼い少年のように身振り手振りで今回の転生物語を実に楽しそうに語る。そんな彼を見て少し驚いたような顔をしてから神は優しく微笑んで、

「ふふふ、新たな発見があったんだね。良かったね」

「100回目の世界も、物語も、見方を変えれば別物に見えるって事かな?」

「そうだね。物語自体はどれだけ時間が経っても変わらないけれど、物語を見て、感じて、体験する者がそこから得るものは常に変わり続けるんだよね。物語って不思議だね」

「……うん。俺って今まで凄い損をしてたんだな……」

「かもね。でも、そういう事に気付けた、成長できたって事は凄い事だよ?」

「うん? うん……まあ、成長したの……かな?」

「ははは! じゃあ、話がかなりそれちゃったけれど、そろそろ今回の転生先を決めちゃうよ?」

 彼の顔に前回程ではないが緊張の色が浮かぶ。

 神はガチャシステムのハンドルを回す。

――――――ガチャ

 玉から紙を一枚取り出し、転生先を読み上げる。

勇猛いさみたける、君の次の転生先は――」











「――今回は普通に読み上げても良かったのでは?」

「うん? うん、そうなんだけど。でも、あの子の顔見た? もしあそこで僕が正直に次の転生先を言ってたら、襲いかかってきそうだったよ?」

「ええ……確かに」

「でしょ? 当然、不正は良くないけどさ、僕は神だからまあ、問題ないでしょ? なにせ、神は気まぐれなんだからさ……あっ、これ捨てといて」

 そう言って神の使いへと渡された紙には《だらけきったニート》と書かれていた。

 すると彼が転生の小部屋からひょいと顔を出して、

親父ドーグさん! 色々とありがとう! 行ってきます!」

 それだけ伝え、彼は転生の小部屋へと消えた。

 神はと言えば、思いがけない事態に面食らったようだったが、

「あれ? 何で分かったんだろう? かわいくないの」

「ドーグ様。今日はずいぶんと嬉しそうな顔をされていますね?」

「うん? そりゃまあ、子供の成長が親にとっての最高の喜びだからね」

 神は照れ笑いを浮かべて息子の旅立ちを見送った。

























「物を語る物語、悠久の時を経てもまだまだ語り尽くせんわい! ホッホッホッ! ホッホッホッ!」


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