100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

最終話 村長のいる世界(後編)

 魔王の城を後にした俺達は、それなりに疲れていたので自爆ロックの修行で使用していた小屋で一夜を明かして翌朝、それぞれの家へと帰る為に小屋を後にした。

 まず始めに来たのは盗賊の森に住むお嬢ちゃんの家。

 帰るやいなや母親と抱き合い再会を喜び合っていた。両親に逢えてよほど嬉しかったのか、お嬢ちゃんの目には涙が滲んで、まるで幼い子供のようにその場を跳ね回っていた。 

「嘘……お母さんとそっくりじゃん」

 親子なのだから似てて当たり前なんだけど、それにしても似すぎている。親子と言うより姉妹じゃないだろうか? まるでお嬢ちゃんの5年後くらいを見ているような不思議な気分になる。

 でも、そんな美人二人を見ていると変な気分になる。

 お嬢ちゃんとお母さんと……。

「やべっ! 刺激が強すぎる! 妄想が止まらなくなる!」

 スケペイさん羨ましすぎる……。

 そして、少し遅れてスケペイさんがやってきた。お嬢ちゃんの事を横目で見てから、俺達に自己紹介とお礼をしてくれた。

 初めて正面から見たけど全然お嬢ちゃんに似てない。似てる所と言えば……人間としてのシルエットぐらい? 確かお嬢ちゃん言ってたもんな、『お母さんの遺伝子だけ選んで生まれてくるの大変だった』って。

 でも、性格は結構似てるんだよね。

 そんなスケペイさんがお嬢ちゃんの為に用意してくれていたものを見せてくれた。家から少し離れた、開けた場所にスケペイさんが作ってくれていたのは、木造の建築物だった。

 話を聞いてみると、お嬢ちゃんの夢を知ったスケペイさんが寝る間も惜しんで大急ぎで作ったものらしい。まだ装飾を施していない木材がむき出しの状態だったが『俺がやれんのは、ここまでだ。後は母ちゃんの出番だな』と言いそっぽを向いていた。

 建物の中へ入れてもらうと左右に四人掛けのテーブルが2セットずつ置かれおり、正面にはL字型のカウンターがあって長い方の所には五人くらいが座れそうで、短い方には一人だけ座れる様になっていた。なんでもその一人席はお嬢ちゃんに変な虫が付かないように見張る為の監視席らしくスケペイさん以外の着席は認めないらしい。

 お嬢ちゃんはと言えば、

勝手にこんなもの作って!ありがとうお父さん、大好き!

 お得意のホーミーをクリティカルヒットさせる始末で、スケペイさんもたまらずにお嬢ちゃんの頭を撫でていた。甘えるお嬢ちゃんの姿はとても新鮮で心が落ち着く光景だった。

 すっかり長居してしまったが、俺達はお嬢ちゃんと再会の約束をしてから別れた。



 次に訪れたのは、水の都ベネツィに住む少年。

 家に着いた少年を待っていたのは御立腹のお母さんだった。

「あんた今まで、どこほっつき歩いてたんだい!? 外出する時はちゃんと言ってからにしろって毎日言ってるだろう!? 一ヶ月も連絡無しでまったく……」

 さすが、少年。一旦家にエロ本を取りに行った際、母親になにも告げずに家を飛び出していたようだ。

「このバカ息子が!」

「痛っ!」

 少年は左耳を引っ張られながら、

「げんこつ十発だよ!」

「痛っ! 痛い、っ、っ、っ、っ、っ、っ、っ、痛いって! ごめんっ今度はちゃんと言うから――」

 珍しく避ける事なく、全てのげんこつを食らい少年は撃沈した。

 家ではいつもあんな感じなんだろうな、と思わせる光景だった。

「ああ、なるほど」

 だからあんなにも痛いのを嫌がっていたのか。

 俺と村長は巻き添えになるのを恐れてゆっくりと静かに少年の家を後にした。




 最後に訪れたのは、村長の家がある大樹に寄り添う村タイージュ。

 村長は青い屋根の家に入ってタンスの中にチェーンの部分のみになった守りのクリスタルをしまってからベッドに腰を下ろして深いため息を吐く。

「終わったな……」

「終わったね……」

「まさか本当に魔王を倒してしまうとはのう……」

「まさか本当に魔王を倒しちゃうだなんてね……」

「ふふふ。同じ様な事を口にしてしまうな」

「ずっと一緒だったから思考が似て来ちゃったかな? 一緒に歩いて、走って、食べて、飲んで、戦って、笑いまくったから」

「じゃな。楽しい旅じゃった」

「…………」

「勇者殿はこれからどうするんじゃ?」

「まだ考えてないけど……」

「良かったら、ワシと一緒に暮らさんか?」

「村長……」

 ベッドに座った村長がいつものように、優しく笑いかける。嬉しかった。俺はいつの間にか村長の事も、少年の事も、お嬢ちゃんの事も家族のように想っていたから。

 俺は村長の申し出に少しの間考えて、そして。

「やはり行ってしまうか?」

「えっ?」

「勇者殿は止まる暇があるなら、走り出すじゃろ?」

「……何でわかるんだよっ!」

 いつものように『ホッホッホッ!』と笑う村長。何かいつも心を覗かれてるっていうか……俺が分かりやすいだけなのか? でも、そうだ。村長の言うようにまだやりたい事、やるべき事が残ってる。だから俺は――

「村長と暮らすのは、かなり魅力的ではあるけれど魔王がいなくなっても困ってる人達は、まだまだ沢山いるはずだからそういった人を捜しながら旅を続けるよ。あっ、でも近くを通った時は家に泊めてね?」

「ああ、もちろんじゃとも」

「じゃあ行くかな」

「気を付けて行きなされよ勇者殿」

「ああ、いってきます!」

 俺は、すっかり雪化粧をした草原を見据えて胸一杯に酸素を吸い込み鼻の奥につんとした痛みを感じながら、いつものように全力で走り出した!


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