100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

30話 謎が謎を呼ぶスーパー村長

 突如として現れた一角ゴブリンにパーティ全体の緊張感が高まる。

 4人パーティ初めての本格的バトルだ。少年とお嬢ちゃんを警戒しつつ、尚且つフォローしながら戦うというのは至難の業だろう。

 さて……どう戦闘を進めるべきか? プロの勇者として仲間の生存確率が一番高い作戦を考案し、完璧にやり遂げる責任がある。今の仲間の配置からしてゴブリンは村長1人に任せた方がいいだろう、下手に俺が行くとゴブリンが予想外の行動をするかも知れないので危険が生じる。少年とお嬢ちゃんに関しては村長の真後ろにいるし安全だろう、もしゴブリンが回り込んで二人に襲い掛かって来たら俺が退治しよう。よし決まりだ、そのプランで行こう。

「村長ゴブリンは任せた! 俺は二人の援護にまわる」

「――っ! ホッホッホッ! 懐かしい号令じゃのう、心が躍るわい。うむ、ゴブリンは任せておれ。鍛えたワシの力をとくと見よ!」

 一角ゴブリンが自らの角を村長に向けて飛びかかる。

――――――信じられない事が起きた。

「「えいっ! やあっ!」」

 なんと少年とお嬢ちゃんが村長の後頭部めがけて、武器を振り下ろしたのだ。

「――っ! ちょ……なにやってんの!?」

 二人の攻撃は村長の後頭部を正確に捉えていた。直撃である。

――――――信じられない事が起きた。

 村長の頭と二人の武器の間には光のヴェールのようなものがあって、武器の侵入を食い止めている。そしてそのまま二人の武器は勢いよく弾き返された。二人もたまらず尻餅をついた。

 村長はと言えば何事も無かったかのように、俺が教えた方法でゴブリンの角を掴んで杖で叩いた。

――――――信じられない事が起きた。

 杖で叩かれたゴブリンの身体が燃えがったのだ、否。一瞬で燃え尽きて消し炭になり、ゴブリンの遺体は風に乗って辺り一面に散っていった。

――――――信じられない事が起きた。

――――――ツッコミが間に合わない。

 少年とお嬢ちゃんの蛮行は、ある程度予測の出来る事態だったが……問題は村長である。いやさ村長様と呼ぶべきか、村長様はいったい何をなさったんだろう? 数秒前の出来事をスローモーションで回想する。

 謎1《光のヴェール》
 少年とお嬢ちゃんの物理攻撃をノンルックで受け止め、更にその威力をそのまま二人に向けて弾き返した村長様のお身体を包み込んでいる光のヴェール……何だあれ。

 謎2《燃え散ったゴブリン》
 杖で叩かれたと同時に燃え上がったゴブリン。炎の形状、色、熱気からして上級火炎魔法クラスの威力がありそうだった。なぜ物理攻撃で燃え上がったのか?

 謎3《村長が魔法を使った?》
 村長は加齢による記憶力の低下から呪文を覚えられなかった……。事実、先程村長様は呪文の詠唱をしていなかった、つまり魔法は使っていない。じゃあ、あの火炎魔法はいったい何なのだ。

 様々な謎が浮上し、答えが見つからないまま時間だけが過ぎていく。

《モンスターが現れた!》

 一角ゴブリン二匹が現れ村長様めがけて同時に突進する。

 村長様は戦闘スタイルを変えて応戦する。まず向かって左側の一角ゴブリンの横っ面に軽く杖先を当てて、そのまま今度は向かって右側の一角ゴブリンの横っ面に対し同じく軽く杖先を当てた。一連の動きは実に滑らかで無駄な力が全て抜けた、脱力状態で行われていたのを俺は見逃さなかった。

――――――信じられない事が起きた。

 向かって左側の一角ゴブリンは瞬時に凍りつき、そのまま微細な結晶となり辺りに散って光り輝く幻想的な光景を作り出した。

 向かって右側の一角ゴブリンは瞬時に消えた。ように見えただろうが実際は目に見えない程に、微細に細切れにされた。

 謎4《なぜ叩く度に違う現象が起こるのか?》
 先程の火炎魔法とは違い、今回は凍結魔法と風刃魔法だった。どちらもやはり上級魔法クラスの威力であり、杖先を軽く当てたという事は物理攻撃と言うよりも魔法攻撃に属されるのだろうか? そして発動する効果、属性は村長様が選択している?

「ふう……やれやれ。連戦はやはり辛いのう、腰が痛み出したわい。どれ……」

 言って、村長様は杖先で自らの腰を撫でた。

――――――信じられない事……。

――――――分かりきった事が起きた。

 杖先から放たれた光が村長様の腰を優しく包み込んで、体内へと染み込み消えていった。

 また、杖がいい感じに微振動している事をやはり俺は見逃さなかった――あれは気持ちがいいはずだ。

「あああ……良いあんばいじゃ……ふう」

 久し振りにあった村長様は変わらずお茶目さんで、可愛らしく、和やかで、逞しくて、何だか別人のようにスーパーな感じになっていた……理解が追いつかない。

「村長様……申し訳ありませんが村長様に何が起こったのかを考える時間を1話分でいいので下さい」

 村長様は右手の親指をぐいと立てて、白い歯むき出しの暖かい笑みを浮かべて頷いた。


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