100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。
28話 森を抜けたその先は
森を抜け懐かしい景色が俺の視界に飛び込んで来る。村長と一緒に蹴って叩いて互いを高めあったあの景色だ。(蹴ったのは俺だけか……)
俺は小高い丘の上に登って懐かしい景色に心をときめかせていた。この地方にしか生えない野草が大地とこすれて甘い香りを放ち風が鼻孔へと運んでくる。風に揺れる草木が奏でる音色が、虫のさざめきが、自らの彩りを誇示する紅葉が、俺達を出迎えてくれていた。
ずっと先の方に巨大な樹が見える、そこから東に少し行ったあの辺りが毒泉場か。
「わあ……綺麗。初めて来たのに何だか懐かしいような感じがする、不思議だな」
「本当ね。なんというか、私の住んでた森は活き活きとして活発的だったけど、ここの自然は穏やかで優しくて……お母さんって感じがする」
森を抜ける少し前から二人の様子が変わってきていた。出会った頃に戻ってきているような……まともに話が出来るし、攻撃度合いが落ち着いて来た気がする。自然達の放つエネルギーが二人に何かしらの影響を与えたのだろうか?
「綺麗だろ!? 自然達のオーケストラが心を和ませてくれて、意識がどこか遠くに溶けて飛んでいきそうになるんだ」
「ここは兄貴の故郷なの?」
「うん、まあそんな所だ」
「もちろん、ただの里帰りという事ではないのでしょう?」
と、鋭いお嬢ちゃん。
「ああ……そうなんだが。取りあえずお嬢ちゃん、杖の尖った所でふくらはぎを刺すのを止めて貰えるかな? ビックリするぐらい痛い」
ふくらはぎも、足ツボに分類されるのだろうか?
「あら……気付かなかった、ごめんなさい」
……嘘付け。何度もグリグリしてたじゃねえか。症状が軽減されたと思ったのは俺の勘違いだったのか?
「実は二人に会わせたい人がいるんだ。今回はその人を迎えに来たんだよね」
「合わせたい人?」
「違う。会わせたい人だ」
合体するつもりか? 少年よ。活字にしないと分からないようなボケをするな。
「会わせたい、迎えに行く。と言う事は僕達の仲間と言う事でいいのかな?」
「そうだ。その人は村長といってだな、歳は80才くらいで、無邪気で、足が速くて、面白いお爺さんだ」
「へえ、楽しい人大好きだ。早く会いたい!」
「かなり御高齢のようですけど……お身体は大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫! すごい元気だから。見たらたぶん引いちゃうよ、それに今はゴブリン退治に明け暮れてるだろうし……村長と別れてから、半月ぐらい経ってるからレベルもかなり上がってると思う。君達より強いよ、きっと」
また死んだりしてないよな……。次は流石に怒られるだろうな……少し心配になってきた。この物語は主人公さえも死んでしまうらしいので十分に気を付けないといけない。
雄大な山々の肌を吹き撫でて来た風が草原を揺らし、虫を刺激する。
《虫がお嬢ちゃんに飛びかかった!》
「――っ! 虫嫌っ!」
女子らしい、か細い声とは裏腹に力任せに振りかぶられた、例のヒステリックなんとかが俺の腹部に直撃した。
「――何で俺!?」
杖が腹部を深く深く抉り、深刻なダメージを伴った一撃に耐えられず俺はその場にうずくまる。確かに油断していた、が。
――備えていた。
予め薬草を口の中に溜め込んでいたのだ。それら薬草を急いで咀嚼し飲み込んで、体力回復を計る。途中、逆流してきた胃酸を首の筋肉をフル稼働させて押し返し、薬草を体内へ運ぶ。
痛みと癒やしと息苦しさと、喉を焼く胃酸の味が同時にやってきて憂鬱な気分になるが、取りあえず死なずに済んだようだ。そんな時、背中に抑えつけられるような違和感がある事に気付いた。
俺は腹部を手で優しく撫でながらゆっくりと立ち上がり、少年の方を振り返り――
「何で踏んだ?」
「えっ!?」
「俺がうずくまってる間中ずっと背中踏んでたろっ!?」
「踏んでないよ!」
「嘘付け! 背中に違和感があったんだよ!」
「だから踏んでないって! 踏んだ本人が踏んでないって言ってるんだから、踏んでない事でいいじゃん!」
「どんな逆ギレだ!」
もう……。毎回毎回驚かせてくれるぜ、この二人は。
「さて……」
俺は残り少なくなった薬草を両方の頬袋にセットして、少年とお嬢ちゃんに手招きをする。口から薬草がはみ出ていたので指で押し込んでから言う。
「ほら行くよ! もう、すぐそこなんだから!」
視線を前方に移した所で、
《モンスターが現れた!》
久し振りの登場である。モンスターより厄介な連中とばかり関わってきたせいか、目の前のスライムがとても可愛らしく見えた。俺は微かに笑って走り出す、スライムは圧倒的な実力差に、あるいは俺の中に溜まっていた大魔王よりも恐ろしい怒りの感情に気付いたのか半ベソをかいて、
《モンスターは逃げ出し――》
――蹴った。
逃げ出すスライムの背中だか後頭部だかに、俺の右の爪先が深く突き刺さる。
「日頃の怨みじゃあ!」
八つ当たりのような? 心の叫びがスライムの『ぐえ』という断末魔の叫びを掻き消して、遥か前方へと飛んでいった。以前よりも遙か遠くに飛んでいくスライムを見て自身の成長を確信した。
「あっ! やった! レベルが上がった!」
「私も私も!」
レベルアップにはしゃぐ二人を警戒しつつ、まともな状態に戻る日も近いな、と。少し寂しい気もする俺だった。
俺は小高い丘の上に登って懐かしい景色に心をときめかせていた。この地方にしか生えない野草が大地とこすれて甘い香りを放ち風が鼻孔へと運んでくる。風に揺れる草木が奏でる音色が、虫のさざめきが、自らの彩りを誇示する紅葉が、俺達を出迎えてくれていた。
ずっと先の方に巨大な樹が見える、そこから東に少し行ったあの辺りが毒泉場か。
「わあ……綺麗。初めて来たのに何だか懐かしいような感じがする、不思議だな」
「本当ね。なんというか、私の住んでた森は活き活きとして活発的だったけど、ここの自然は穏やかで優しくて……お母さんって感じがする」
森を抜ける少し前から二人の様子が変わってきていた。出会った頃に戻ってきているような……まともに話が出来るし、攻撃度合いが落ち着いて来た気がする。自然達の放つエネルギーが二人に何かしらの影響を与えたのだろうか?
「綺麗だろ!? 自然達のオーケストラが心を和ませてくれて、意識がどこか遠くに溶けて飛んでいきそうになるんだ」
「ここは兄貴の故郷なの?」
「うん、まあそんな所だ」
「もちろん、ただの里帰りという事ではないのでしょう?」
と、鋭いお嬢ちゃん。
「ああ……そうなんだが。取りあえずお嬢ちゃん、杖の尖った所でふくらはぎを刺すのを止めて貰えるかな? ビックリするぐらい痛い」
ふくらはぎも、足ツボに分類されるのだろうか?
「あら……気付かなかった、ごめんなさい」
……嘘付け。何度もグリグリしてたじゃねえか。症状が軽減されたと思ったのは俺の勘違いだったのか?
「実は二人に会わせたい人がいるんだ。今回はその人を迎えに来たんだよね」
「合わせたい人?」
「違う。会わせたい人だ」
合体するつもりか? 少年よ。活字にしないと分からないようなボケをするな。
「会わせたい、迎えに行く。と言う事は僕達の仲間と言う事でいいのかな?」
「そうだ。その人は村長といってだな、歳は80才くらいで、無邪気で、足が速くて、面白いお爺さんだ」
「へえ、楽しい人大好きだ。早く会いたい!」
「かなり御高齢のようですけど……お身体は大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫! すごい元気だから。見たらたぶん引いちゃうよ、それに今はゴブリン退治に明け暮れてるだろうし……村長と別れてから、半月ぐらい経ってるからレベルもかなり上がってると思う。君達より強いよ、きっと」
また死んだりしてないよな……。次は流石に怒られるだろうな……少し心配になってきた。この物語は主人公さえも死んでしまうらしいので十分に気を付けないといけない。
雄大な山々の肌を吹き撫でて来た風が草原を揺らし、虫を刺激する。
《虫がお嬢ちゃんに飛びかかった!》
「――っ! 虫嫌っ!」
女子らしい、か細い声とは裏腹に力任せに振りかぶられた、例のヒステリックなんとかが俺の腹部に直撃した。
「――何で俺!?」
杖が腹部を深く深く抉り、深刻なダメージを伴った一撃に耐えられず俺はその場にうずくまる。確かに油断していた、が。
――備えていた。
予め薬草を口の中に溜め込んでいたのだ。それら薬草を急いで咀嚼し飲み込んで、体力回復を計る。途中、逆流してきた胃酸を首の筋肉をフル稼働させて押し返し、薬草を体内へ運ぶ。
痛みと癒やしと息苦しさと、喉を焼く胃酸の味が同時にやってきて憂鬱な気分になるが、取りあえず死なずに済んだようだ。そんな時、背中に抑えつけられるような違和感がある事に気付いた。
俺は腹部を手で優しく撫でながらゆっくりと立ち上がり、少年の方を振り返り――
「何で踏んだ?」
「えっ!?」
「俺がうずくまってる間中ずっと背中踏んでたろっ!?」
「踏んでないよ!」
「嘘付け! 背中に違和感があったんだよ!」
「だから踏んでないって! 踏んだ本人が踏んでないって言ってるんだから、踏んでない事でいいじゃん!」
「どんな逆ギレだ!」
もう……。毎回毎回驚かせてくれるぜ、この二人は。
「さて……」
俺は残り少なくなった薬草を両方の頬袋にセットして、少年とお嬢ちゃんに手招きをする。口から薬草がはみ出ていたので指で押し込んでから言う。
「ほら行くよ! もう、すぐそこなんだから!」
視線を前方に移した所で、
《モンスターが現れた!》
久し振りの登場である。モンスターより厄介な連中とばかり関わってきたせいか、目の前のスライムがとても可愛らしく見えた。俺は微かに笑って走り出す、スライムは圧倒的な実力差に、あるいは俺の中に溜まっていた大魔王よりも恐ろしい怒りの感情に気付いたのか半ベソをかいて、
《モンスターは逃げ出し――》
――蹴った。
逃げ出すスライムの背中だか後頭部だかに、俺の右の爪先が深く突き刺さる。
「日頃の怨みじゃあ!」
八つ当たりのような? 心の叫びがスライムの『ぐえ』という断末魔の叫びを掻き消して、遥か前方へと飛んでいった。以前よりも遙か遠くに飛んでいくスライムを見て自身の成長を確信した。
「あっ! やった! レベルが上がった!」
「私も私も!」
レベルアップにはしゃぐ二人を警戒しつつ、まともな状態に戻る日も近いな、と。少し寂しい気もする俺だった。
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