100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

10話 角を掴めばやりたい放題(前編)

「ホッホッホッ! スライム退治に夢中になりすぎて時が経つのを忘れてしまっていたようじゃ」

「だな。村長があまりにもスライム退治に集中するから、俺も何となく感化されてスライムサッカーやりまくっちまったじゃん。好感度落ちたらどうしてくれんだよ」

「ホッホッホッ! そうは言っても勇者殿のスライムを蹴る時の顔ときたら……何かこう……水を得た魚のように活き活きとしておったぞ? ワシはあの顔を見て『負けられん!』と思って一心不乱にスライムを叩いたんじゃ」

「う……そんな事は無い筈だが……(蹴った時のモチモチ、むにゅむにゅ感は大好きだけど)とにかく、どれだけレベルが上がったか一旦ステータスを確認してみよう」

――――――――――

 勇猛

 Lv     20
 HP     143/143
 MP     63/63
 職業 勇者
 装備 ひのきの木刀 
    旅人の服
    旅人の靴
 お金 2805G
 状態 普通


 村長

 Lv     16
 HP     12/12
 MP     358/358
 職業 村長
 装備 長老の杖
    守りのクリスタル
    身避けの服
    身避けの靴
    身避けのバンダナ
 状態 普通

――――――――――

「ホッホッホッ! また随分とMPが成長したもんじゃ、一流の魔導士並みかのぉ? ホッホッホッ!」

「す……凄いな村長! MPの上昇が異常だぜこりゃ……」

 もしかしたら村長は、天才魔導士なのかもしれないと本気で実感させられた。50年前の村長(村長なのか?)に是非とも会ってみたかったが、さすがにそれは無理だろう。

 年甲斐もなく自分の成長を喜び満面の笑みでその場を跳ね回る村長は、まるで少年のように無邪気で可愛いらしかった。そんな村長を微笑ましく見つめていた俺は、あることを考えていた。

「…………」

「どうした? 勇者殿、そんな難しい顔をして……」

「そろそろ良い頃合いかもしれないな」

「んん? 何の事じゃ?」

 いつになくハイテンションになっている村長に対して俺は、慎重に切り出した。  

「村長。名残惜しいかもしれないがそろそろスライムは終わりにしよう」

「むぬぬ! スライムが終わりとはいったい……ワシの冒険はもう終わり……と言う事かのう?」

「違う違う。むしろこれは新たな冒険の始まりだよ、スライム退治は終わりにして次は別のモンスターを退治する。当然、スライムより強力なモンスターだ。判断を誤れば死ぬ事になる」

「そんなに危険なのか……。確かに死ぬのは嫌じゃのう。死ぬ時の痛みはかなりのもんじゃし、最強クラスのぎっくり腰レベルの痛みかのう……もう二度とごめんじゃわい」

 村長は言いながら俺の方を恨めしそうに横目で見る。

「あははは……腰、揉みましょうか?」

 やれやれと言いたげな村長は肩を竦め俺に話を再開するように促す。

「とにかく! 次のモンスター退治に入る!」

「ふむ。スライム退治楽しいんじゃがのう仕方ないの」

 まるで夕暮れ時の公園で、まだ遊びたいと主張する子供のように不満を口にする村長だった。

「しかしなぜ急に次のモンスターなのじゃ? もう少しくらいならばスライムでもいいんじゃないのか?」

「うん、最初は俺もそのつもりだった。だけどありがたい事に俺達の陳腐な物語を見てくれている人がいるんだよ。その人達の為に少しだけでもいいから話しを進めたいんだ」

「物語? 見ている? いったい何の話をしとるんじゃ?」

「ああ、いや。こっちの……あっちの話だ気にしないでくれ」

 怪訝な表情を浮かべ俺を見つめる村長は『ワシにも分かるように説明せい!』と、今にも言い出しそうだったので分かりやすく単純に説明する。

「えっと、俺達の冒険をある人達が見て応援してくれてるからもう少し頑張ろうぜ! って話なんだけど……分かる?」

「ホッホッホッ! そうかそうかこれはフアンが出来たと言う事じゃな」

「村長、細かいけど『ファン』ね。それだと不安みたいになっちゃうから」

「ホッホッホッ! では向かおうか勇者殿。新たな場所に、新たな敵を退治しに!」

「ああ、行こう! 次のターゲットがいる毒が渦巻く毒の泉、毒泉場どくせんじょうへ!」

 俺達は新たな敵を求めて歩き出した。

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