よみがえりの一族

真白 悟

38話 0

 本当に大切なことというのは失わなければ分からないというが、それはおそらく本当のことなのだろう。それは僕にとって堺、いやフロンスのことを指すのだが……まあその話はいいだろう。
 そんなことよりも大切なことは僕が生きていて、彼が存在そのものを消滅させられてしまったということだろうか? それとも、僕の本当の正体についてなのだろうか? 僕ではない誰かはそんな下らないことを重要視するのかもしれないが、僕は違うと言い切ることなど到底できない。
 僕にとっても今重要なことはその二つだけで、それは今後も変わることは決してない。

 この日々が変わってしまったとしても変わることのない事実だ。

 それはさておき、昨晩のニヒルたちの説明を聞いたうえでその話を僕なりにまとめてみようと思ったのだが……これは結局僕の頭ではまとまらない案件なのではなかろうか……。
 だが一つだけわかったことは、堺のことを覚えていない人物はニヒルだけではないということだ。いやむしろ覚えていたのは僕一人。
————つまり、僕だけがおかしいということだ。
 それが分かっただけでも僕にとっては大きな一歩なのだが……それは『堺の魂が悪魔に喰われた』という例の女性が話したトンデモ話を信じなければならいという、ある意味最悪な事態ということでもある。
 しかし、この話には一つだけ珍妙なことがある。それはどうして僕だけが堺のことを覚えているのかということだ。

 残念なことだが、僕以外の人が堺を本当に覚えていないのかなどということは僕にはわかりようがない。だから僕が真実を求めることが出来る唯一の人物である僕に尋ねるほかに手段はない。

 ここで僕と堺の関係をもう一度整理しておきたい。

 僕と堺いやここは便宜上、堺のことをフロンスとしよう。僕とフロンスは幼い頃から親友と呼ばれるような関係ではなかった。それもそのはず、僕とフロンスは何というかライバルという言葉がよく似合う関係だった。
 もともと、フロンスは僕の恋敵とも呼べる村でも5本の指に入るであろう程までに嫌いな人物だったのだ。フロンスはのちに僕の婚約者となる村長の娘ルナと親友でいい感じの関係である。
 そんな関係であったからには、僕が嫉妬するのも仕方ないことだと言い訳をさせてほしい。

 まあそんなことはどうでもいいか……。とどのつまりライバルとは僕の自称でフロンスに相手されることなどないはずだった。あの時までは……といっても僕がルナと魔法の修業を始めただけなんだけど……。
 そもそもどうして修行など始めたのかというと、この頃ちょうど村が魔物の襲来に合いまあ色々あったが、結果として僕とルナがフロンスに庇われフロンスが背中に癒えることのない傷を負ったことが原因だろう。
 そのエピソードから僕がフロンスを親友として慕うようになり、守られてばかりではいけないというように努力を惜しまないようになった。
 
————だから、堺がどう思おうが僕には関係なく、僕にっとって堺は僕を何度も救ってくれた親友に他ならない。

 しかし、こちらに来てからの堺はどうだっただろうか? 確かに僕はここでも何度も救われたような気がするが……それは果たして本当に堺に救われたのだろうか? 
 思えばおかしなところは他にもある。
 それは堺から説明される時、僕がわかること以外はすべてほかの人が説明していた。
……堺は本当に存在したのか?
 そんな考えが浮かんでは消え、不安だけが僕の心に残った。
 僕はどれほど成長しようが結局心の弱さまでは変わらない。それが僕の弱さであり、強さであると思いたかったが…………

「……そんな難しい顔をしてどうされたんですか? また堺さん? のことを考えていたんですか?」

 僕の目の前にあのオレンジ色の瞳が突如として現れた。
「うわっ? ニヒル?」
 ここはアパートの食堂なわけだから彼女がいたところでなんの不思議でもないのだが、それでも僕は驚いてしまった。
 なぜなら彼女はいつも今頃の時間にはここにいないからだ。

「そんなに驚かなくても…………」
「ごめん、一人だと思ってたから……」
 僕はまたニヒルに対して醜態をさらしてしまったみたいだ。彼女が僕のことをどう思っているのかわからないが二人きりになってしまった今頼りがいのある男でありたい。
「もう、私はずっとここにいましたよ!」
「……ずっと?」
 いや、ずっとってことはないだろう?
「はい、最初からずっと……何なら自分語りを始める前からずーっといましたから状況はすべて把握しているつもりですけど?」
「…………」
 どうやら僕は恥ずかしい過去やらなにやらをすべてさらけ出してしまったようだ。

「でもまあ堺さんのことは覚えていませんが、誰かが足りないということは感じています。だから堺さんはいたんです!」
 僕を気遣っただけなのかもしれないが、彼女が堺のことを少なからず覚えているということは僕にとってうれしいことなのかもしれない。

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