よみがえりの一族

真白 悟

20話 はじめてのクエスト

 堺とノウェムがくだらない話をしている間にも、デュオの怒りは更にヒートアップ。会社の業績について語りだしてるが、僕は聞かなかったことにしたい……
――――なんて自由な職場なのだろう。魅力は全く感じないけどな!

 だけど、そんなくだらない話をしている暇も時間もない。僕から堺に切り出してやろうとも思ったが、間の良い事に堺から声がかかった。
「ノウェムのことなんかほっといて……。イグニスに説明しなあかんことが一杯あるから、こっちに来てくれんか?」
 バカみたいな2人の間に入っていくのも気が引けるが、及びとあれば行かざるを得ない。僕は2人の間に入るが、一向にノウェムはその場から動かないどころか僕たちについてくる。

……この人はなんでついてくるんだ?
 不思議には思ったが、先輩には先輩なりの思惑でもあるのだろう。得にツッコミもせずに堺からの説明を詳しく聞く。

「えーっとな、確かクエストに行くためには酒場にいかないとアカンかったはずや!」

 なるほど、そこで酒場が出てくるのか。しかし、なぜ酒場にいかなければクエストを受けられないのだろうか?
 さっきからずっと気にはなっていたが、部屋の壁に立てかけられたクエストボードと書かれた木の板。そこにはいくつか、クエストの依頼書らしきものが貼られているが……

「あーあ、あれか……。あれはアカン、今は詳しく説明できんけどあのクエストを受けたが最後、帰ってくることが出来ないと言われる程に凶悪な魔物が対象のモノばっかや。」
 僕の目先にあった物を察したらしく、彼はそう言った。
――――確かに、あのベアっていうクマは凶悪そうだな。襲われたらひとたまりもないだろう……
 
「そんな凶悪な魔物とは戦いたくないな」
 物事には順序というものがある。ここは堺に従うべきだろう。
「そう、ここにあるのはお前にはまだ無理や、だから細かい依頼が来る酒場の方に行くんや! ちなみに、イグニスは#冒険者派遣所__ギルド__#に登録したことはあるか?」
「ギルド? ああ、ギルドか! 確かそんなものがあったような……」
――――ギルド、それは冒険者を支援するために帝国が設立した謎の団体。その内情はやみでつつまれているとか。
「ギルドとは冒険者を支援する団体で、弱小だが人に迷惑をかける魔物を退治するという民間企業や!」
 全然謎に包まれていなかった!?
 そもそも僕はギルドになどいったことがないから、内情など知る由もないのだが……僕は商人で騎士だったため、そういう所には近寄ったことすらないのだ。

「ああ、そうそう、確かそんなところだったはず!」
「…………って、わかってないだろ?」

 堺には僕の動揺が隠せなかったようで、激しいツッコミを入れられる。

「まあええわ……、つまりここが王国騎士団みたいなもので、酒場がギルドみたいなもんや。詳しいシステムは俺もしらんけどな」 
 結局、堺の説明は全体的にふわっとしていてわからない。業を煮やしたもう1人の傍観者であったノウェムが代わりに説明してくれた。
「我も意味がわからないのだが、ここ、本社の方では企業の依頼と国の依頼意外受け付けることが出来ないらしいんだ。だから、一応子会社という名目で酒場を造って、細かい個人の依頼を受けつけることが出来る会社として回しているんだ。
 最近は法律が厳しくてね、一応別会社ではあるため情報の流失とかなんとかうるさくて、派遣として酒場に行き依頼をこなすという風になったらしい。
 それももともと、この会社の理念に関することになるんだけど……」
  彼女の長ったらしい説明に、短期な堺が耐え切れるはずもない。
「もっと手短に説明出来へんのか!?」
 まさに怒髪天を衝くとはこのことだろう。堺の声はめちゃくちゃでかかった。

「珍しく顔を出したかと思えば、うるさい男だね……」
 彼女は鬱陶しそうに言った。
「喧嘩売ってるんか?」
「喧嘩なんか売っていないけど? ただ馬鹿にしているだけ」
「そうか……ならええわ……って言いわけないやろ!!」

 またもや、2人は喧嘩を始める。
…………やれやれ、これはまた長いこと続きそうだ。喧嘩するほど仲がいいってやつか……

 小一時間の口喧嘩が続きはしたものの、なんとか収まりをみせ、何故だかまた堺が僕に説明してくれていた。
「ギルドってのはな、街の人々からの依頼を受付て、冒険者と呼ばれるやつらに仕事を与える場所や。依頼はクエストと呼ばれ、その内容は様々だがほとんどは害獣・害虫の駆除と弱い魔物の撃退や」
「説明の最中にすまないが、僕が見たこの街は平和そのものだった。どこに魔物なんかいるんだ?
「まあ、そういった質問が出るのも仕方ないやろな……イグニスはまだこの世界の状況がわかってないやろうしな……」
「意味がわからないんだけど?」

――――この街では、魔物なんて見かけたことすらないぞ? この街になにがあるというのだろう?

「それはお前がこの国の一部しか見てないからや。この街を出たら魔物なんていっぱいおるで! この街はな、#聖域__サンクチュアリ__#と呼ばれてて、なんでか魔物が入ってこない街なんや。」
「つまり、この街には魔物が出ないのか?」
「そうや……しかも尋常じゃないくらいの数や! あの時とは比べ物にならん!」
 何かを思い出したのか堺は黙り込んだまま、過呼吸気味な息遣いでいまにも倒れてしまいそうになる。

 長い静寂の中で、僕は何も話すことはできなかった。それは、僕もあの時のことを思い出したからだ。思い出したくもない出来事を……
――――あの地獄のような最後の戦いを思い出したのだ。

「…………あの時だかなんだか知らないけど、それでも街のなかに入って来ないっていうのは助かるだろ? そのおかげで人が死ぬ数が圧倒的に減ることになったんだから」
 1人なにも知らない、ノウェムだけが悲観的ではなく楽観的にことを見ているようだ。
 だが、彼女の言葉には一理も二理もある。街に入って来ないからこそ、あの時の悲劇が繰り返されることもないのだから。

 しかし、安心することは出来ない。魔物だけでは流石にこの状況は変わりようもないだろうが、魔物を生み出す存在である悪魔については別だ。
 もし悪魔がいるのならこの状況もある意味では背水の陣になりかねない。
 それを察してか、堺の表情も暗いままである。だけどこの状況を打開できるの堺だけだ。
 
「暗い話ばっかしても仕方ないしな。クエストや、イグニスはまず難しいこと抜きでクエストをやるぞ。」

 それを聞いていたノウェムは俄然やる気だった。……どういてやる気マンマンなんだ?
 ノウェムは事務員の筈だから、僕たちについ来るはずはないよな……? 

 ノウェムは衝撃的な発言をした。
「クエストを受けに行くのか? じゃあ我も早く連れて行ってくれ!」
「……ついてくるって事務員さんですよね?」
「イグニス君、細かいことを気にしているとハゲるぞ。」
 いや、ハゲねーし、そういう問題ねもないし、なにより細かくもない。明らかに大きな問題だと思う。
「細かくはないでしょ?」
 その言葉に堺が便乗してきた。
「イグニスはいつも細かいな……」
「堺、うるさい。」
「いい加減に泣くで! 俺はお前の倍近く生きてんねんで?ちょっとは優しくしてや……」
 まあ、予想を遥かに超えるものではあったが、僕にとっても先輩が2人いることは安心につながるしな……

 堺によって凍りつけられた空気、それをなんとか戻さなければならない。
 僕達はなんでこんな話をしていたんだっけ?

「そうだ、クエストを受けるために酒場に行くんじゃなかったの?」
 
「そうやったな、忘れとったわ。」
 堺とノウェムからクエストに関する簡単な説明を受けてから、ひとまず初心者向けのクエストを受けることになった。
 しかも会社で、さっきまでの酒場のくだりは全部無駄になっただけじゃないか!!

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