勇者が来ないので、今日もスローライフを満喫してます

フユヤマ

5話 シャリーとの出会い

 
   「なぁシャリー、暇だなぁ……」
   「…………」

   魔王は玉座の間にて、今日も暇を持て余していた。
   理由は簡単、勇者が来ないからだ。
   戦闘型アンドロイド、シャリーは任務を終えたのか魔王の隣に椅子を持ってきて、そこに座りながらお茶を啜っていた。
   シャリーは見た目長い黒髪、少しおっとりとした黒目。整った顔立ち。この世界で珍しい黒髪黒目の女性の人間、に見える。がその実、魔王が拾ってきたアンドロイドなのだ。
   拾ってきた時、音声機能が修理不可能な状態だったため、魔王の独学で音声機能以外の部分を完全に再現した。言葉は発せられないが、表情を作ることができるためコミュニケーションの部分は大した問題はない。
   幹部2人はある程度何が言いたいのか、何を思っているのかぐらいは理解できるらしい。
   だが、

   「…………」
   「どうした、シャリー?」
   「…………!」
   「ん?」
   「…………!!」
   「ま、まさか!?どこか故障したのか?!」
   「?!」

   ただシャリーは「本当に暇ですね」と言いたかっただけなのだ。なのに、魔王相手だとうまく伝わらないどころか大きくずれたことが伝わり、今みたいに魔王がパニックになるのも少なくないのだ。

   「シャリー!どこが痛い?!目は見えるか?!くそっ!目直す時間違えたかもって思ったんだ!」
   「〜〜?!」

   魔王に両肩を掴まれ揺らされ、何もできずにいた。

   「今すぐ修理してやるからな。ちょっとそこで待ってろ!」
   「!!」

   修理道具を持ってこようとする魔王の袖をシャリーは両手でギュッと握りしめ、涙目になりながらも魔王の目を真っ直ぐに見て「大丈夫」ということを伝える。

   「……平気、なのか?」
   「!」

   首を縦に振り、必死にアピールする。魔王の修理は独学が故に痛みを感じてしまうらしい。アンドロイドにも感覚神経の様な人間的部分が備わっているようだ。

   「そ、そうか。それなら良かった」
   「…………」

   ホッとした表情を浮かべため息をつき、椅子に座りまたお茶を啜る。乾いた喉に液体通る感覚が好きなのか、顔が和むシャリー。

   「それにしても、シャリーを拾ってから結構経つな。意外にも大丈夫そうだな」
   「…………」

   シャリーは少し顔を伏せ、魔王と始めて会った日を思い出していた。

 〜〜〜

   それはとある調査のため、という名目で任務をサボっていた頃まで時は遡る。当時はまだ先代の父が魔王で現魔王が幹部だった頃の話だ。
   当時魔王は冒険者に興味を持っており、自分も冒険者になろうとギルドに加入しようとしていた。
   建物の中に入ると酒の臭いや男達の汗の臭い、女冒険者の香水の香りなどが混ざり独特の匂いが漂っている。
   ギルドにいる冒険者は慣れたのか平然としているが魔王は、

   「んだこれ!腐!いやこれ臭いとかレベルじゃない!腐い!」

   1人鼻をつまみ涙目になりながら騒いでいた。
   それも仕方ない。魔王城では快適に仕事がこなせるように掃除は徹底している。また、部下たちも清潔に保とうとできるだけ汚さずに仕事を行なっている。魔王城は意外にも綺麗なのだ。

   「その反応の仕方は、新人さんですね?」
   「ま、まあな」
   「よろしければこちらへ」 

   戸惑いながらも受付嬢に従いついていく。魔王は変身魔法を使い角を見えなくしていた。腰にはそれなりにする剣を装備していた。

   受付嬢からギルドに関しての説明を聞き、早速クエストに挑もうとしたが外は大雨だったので一旦中止し、魔王城に戻ろうとした。

   「一応、この街見とくか」

   雨の中、街を見回ることにした。

   近くの店でローブを購入し、しばらくの間、街を彷徨っていた。この街は昼も夜も騒がしいところで有名だった。そして、街の端の方には無法地帯となっていた。魔王はある程度街を見回ったのでその無法地帯の場所へと足を踏み入れる。

   そこは商店街の道よりもぬかるみが酷く、ろくに整備されていないことがわかる。そして、そこら中にいるチンピラ。そしてここはギルドの中よりも酷い臭いだった。

   「酷ぇ場所だなぁ、ここは……」

   ぬかるんだ道を気をつけながら歩いていると、そこにはマシンリーマウスが大量に群がっていた。
   マシンリーマウスとは普通のねずみとは違い、機械や金属を主食とする魔族だ。その食事スピードは尋常ではない。
   よく見ると、マシンリーマウスが食べているのは人の形をした何かだった。

   「やめろ」

   そう言い指を鳴らすと、それに群がっていたマシンリーマウスは燃え上がり全滅した。
   そして群がっていたものの正体は人の形をした機械、アンドロイドだった。そして、当時のシャリーだった。
   誰かが製作に失敗したのかこの無法地帯に捨て、機械の臭いに反応したマシンリーマウスが群がって食べていたのだろう。

   そのアンドロイドは左腕右足は完全に食われており、顔の右半分、胴体はメッキが剥がれていた。食われたところから電気が走り、もはや原形を留めていなかった。

   「大丈夫か?」
   「…………」

   当然だが反応がない、と思っていた。しかし、ゆっくりと右腕を魔王の方に伸ばし手に触れ、

   「タ……ス、ケ……テ」

   大雨の水なのだろうがそのアンドロイドの目から涙が流れているように見えた。

   「……あぁ。俺のとこ、くるか?」
   「…………」
  
   なけなしの力でアンドロイドは首を縦に振る。そして、そのアンドロイドから何か音が鳴ると首をだらんとし、全く動かなくなった。

   「っ!?おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

   魔王はアンドロイドを抱き上げると、すぐさま転移魔法を使い魔王城に戻り、修理した。

   これが魔王とシャリーの初めての出会いなのだ。

 〜〜〜

   「おい!大丈夫か!まさか強制的にシャットダウンされた?!これが、噂に聞く、ウイルス!?」

   思い出に浸っていると、隣にいた魔王がまた肩を掴み揺さぶり始めた。

   「〜〜〜〜!!」
   
   あれから随分変わったシャリーだが、魔王はいつまで経ってもその鈍感なところが変わらないのであった。


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