再婚なんて聞いてねぇ!〜義姉妹が突然できました〜

老獪なプリン

ジャックでナイフな女の子

「まじでどうやって、帰ったらいいのこれ。親父に電話かけるにしてもスマホ持ってきてねーんだよな...。」

よこからスッと手が出される。

「つかう?」

「ん、まじで!いや~助かる。って、ん?」

スマホに手を伸ばそうとしたところで動きがとまった。
待て。誰だ?
視線を腕を伝うように上げていく。

「なに?使わないの?」

スマホこちらに向けたままで静止した制服姿の黒髪の少女がそこにはいた。
手のひらのスマホをこちらへ向けたままで首をかしげている。
誰だこいつ。まて、こいつはよくないか。誰だよこの子。

「いや、すまん。俺の記憶違いじゃなきゃあんたって初対面だよな?」

「なにいきなり、口説いてるの?気持ち悪い。」

おう、ちょっとカチンときたぞ。たしかに腰までのびた黒髪は艶やかで容姿は可愛い部類に入るだろうがこいつを好きになることはないな。絶対的に口が悪い!
まぁ、俺の聞き方が悪かったってのもあるかもな。そうだよな。な?
突然の罵倒に一瞬ふらっときたが、まぁいい。そんなことを引きずる俺じゃない。

「いや、当たり前のように渡されたから少し驚いてな。もしかして知り合いだったか?って考えてな。」

少女は不機嫌そうにむすっとした表情をした。

「人の無償の善行に対してお礼をするならまだしも、裏をよもうと画策しているならつまらないだけだからやめてくれる。不愉快なだけよ。貴方は結局、携帯は使うの?使わないの?そんなこともすぐに決められないのかしら?」

こいつ.........。
ま、まぁ善行ってんなら疑った俺が悪いよな。...うん。そういうことにしとこ。

「なら、勘ぐって悪かった。」

「わかれば良いのよ、分かれば。それでもあれね、「なら」って枕詞につくと反省してる感じがこころなしか目減りするわね。使わない方がいいわ。私からの親切な忠告なのだから心に留めておくことね。」

俺のことを見下すような上からの発言、謝罪に対するダメ出しまで...。くそがぁ!
さっきから、こいつはいったい何様なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!

「なによ、不機嫌そうな顔して。嫌なことでもあったの?」

すっとぼけー...。無自覚なのか、それともわざとなのか。
これ以上は我慢の限界が来そうだ。
せめて、これが悪意によるものなのかハッキリさせないことにはまともに怒ることもできなさそうだしな。

「なぁひとつ聞いていいか。」

「なに?」

「さっきからのは無自覚なの?それともわざとやってるの?」

「無自覚?なにが?」

鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている目の前の女。いやいや、何言ってんの?見たいな顔してるけど、それは俺のセリフだからね?
何を言ってるのかまったく分からないといったようすで、目の前の少女は首をかしげていた。
おい、お前。いちいちの動作は可愛いが、行動自体は無自覚ジャックナイフだと発覚したぞ。
無自覚かぁ...。キレらんねーなぁ。

「なら、いいよ。もう...。」

「あらそう?何の事かは分からなかったけど解決したみたいでよかったわね。」

なんというかとてつもない脱力感に見舞われた。
目の前のこいつは鋭いナイフだ。どうしたって発言にトゲはあるしそれはどうしようもないみたいだ。
せめて猫の爪みたいに自由自在に引っ込んでくれればいいものを。刃が出しっぱなんだよなぁ。
ならば今俺のするべきことはただひとつ。

「スマホやっぱ貸してくれないか?」

さっさと親父を呼んでここから立ち去ることだ!
めんどくさそうなやつには必要以上に関わらないに限るよな!!
関わっちまったのは仕方ないし、これはどうしようもない。ならせめてこれを最後にしよう!

「はい、どうぞ。」

「お、おう。」

思ったより素直に渡してくれたな。
渋るわけもなくスマホを手渡される。
そもそも俺を貶めようとしているわけでもないようだし性根が腐ってる訳では無いんだろうな。
関わらないように〜、とか考えてたのは少し罪悪感だな。
多分、最初にコイツが言ってたことはホントなんだろう。親父への連絡手段がなくて困ってた俺を見て善意から携帯電話を貸そうとしてくれていたのだ。
ずかずかと辛辣なことを言ってはいるがいいやつではあるんだろうな。そのトゲがあまりにも酷いだけで。
初対面でこれだからなぁ...ブルッ
こいつ、友達いるのか?まぁ、俺が言えたことではないのは確かなんだが。

「早く使いなさいよ。」

「あぁ、ありがとな。」

「そ、そう。感謝しなさい。」

ん?恥ずかしがってんのか?...。なんだよ可愛いとこあるじゃん。

「なにジロジロ見てんのよ、気持ち悪いわね。」

前言撤回、コイツカワイクナイ。
まぁ、いいや借りれたものはありがたく使わせてもらおう。
スマホを受け取った俺の顔をなぜかじーっと見つめてくる。今度はなんだよ………。

「今頃だけど、あなた誰?」

何を言い出すかと思ったらホントに今頃だな...。
それ今言う?さっきまで気にしてなかったじゃん。

「今頃だな。」

「そうね。けど、携帯を渡すのだから貴方だけ得をするのもおかしいでしょう?貴方はいま何も私に対して返す物を持っていないようだし、個人情報を買い取ってあげると言ってるの。」

無償の善行じゃなかったのかよ!
にしても、個人情報を買うって...物騒すぎるだろ。にしても。そこだけ切り取るとすごいセリフだな。

「言い方はアレだが、まぁ、名前ぐらいならいいか。俺は白杭(しらくい)。今は高2で、ついでにいうと俺はこの高校に転入試験を今受けてきて…たぶん、合格したらしい。」

本当に合格したんだよね?あれ本当に校長だったんだよね?
今頃になって「うっそでした〜!」って言われたらもう人間信じれなくなっちゃうんだけど。

「ふーん。あっそ。」

なんで、そんなに興味なさげなのかな?君が聞いたんだよね?


はぁ…なんかコイツといると調子狂うな。



「んじゃスマホ借りるぞ。」

「ん。」

今度こそ俺は使ってもいいようだ。
スマホで親父の携帯の番号をタップする。
着信音から程なくして耳元に当てたスピーカーから親父の声が聞こえてきた。

「おい、親父。試験終わったんだけど今どこいんだよ。」

『んあ?俺は新しく引っ越した先の家で寝っ転がってテレビみてるけどそれがどうかしたか?』

こ、こいつ………。
せめて悪びれよ!なんで堂々としてんの?

「…。まぁ、いいや。そんで俺はどこに帰ったらいいんだよ、てか財布とスマホお前が持ってんだろ…。」

『そうだっけか?お前のこと学校に連れてった時に車に置いて来たかもな、そりゃすまんは、アッハッハ。………で、なんのようだよ。今昼ドラがいいとこなんだよ。』

「お前が財布持ってるせいでバスにも乗れねーし、そもそも引っ越し先を知らねーからどこいんのか聞いてんだよ!」

『ん?俺はお前をここに連れて来てもらうように車を頼んだはずだぞ?」

車?タクシーかなんかか?

「タクシーなんか来てねーぞ?」

『タクシー?なんの事か知らねーけど、俺はしっかり頼んでおいたからそこで待っとけ。あぁ!昼ドラ終わっちまうじゃねぇーかよ!チッ、最後んとこが一番のかなめなのによぉ。そんじゃ、俺は切るぞ!じゃーな。』

「おい!待てって言ってんだろ!おい!親父っ!はぁ、切りやがった。」

ほとんど情報ゼロだったんだが。
ん?ふと視線を上げると同情にちかい、哀れみの視線を向けられていた。
ん?

「私のスマートフォンに何か恨みでもあるのかしら?知ってるかしら?いいや、愚問ね。謝るわ、ごめんなさい。きっと、知るはずも無いのでしょうね。電話は切れた後に話しかけても相手に伝わること決して無いのよ?よかったわね、今日で少しだけ賢くなれたじゃない。」

しっとるわ!
こいつは俺のことを、初めて文明に触れた猿か何かかと思ってんのか!

「常識の再確認ありがとう………。」

「あら、どういたしまして♪」

今までで、一番の笑顔かよ!?
なんというか腹立つとかそんな次元は超越して、さらに一周回ってもうどうしたらいいの分かんないんだけど。

「さぁ、私の方はいい感じに時間もつぶせたしそろそろ帰ることにするかしら。で、結局あなたはお父さんに迎えに来てはもらえないのでしょう?どうするの?」

一応の心配をしてくれているのだろうか?やっぱり優しいところもあるのだろーーーー

「これで餓死でもされたら、原因が私にあるみたいで後味が悪いでしょう?」

ーーうか…。優しい?
もはやただの自己保身なのでは?
これは言うまでもなく後者だろうな。ってか餓死なんてしねーよ!

「餓死なんてしねーから!」

「何言ってるの?冗談の境目も分からない程につまらない人間なの?人間同士のコミュニケーションについてもう一度学び直した方がいいわよ。」

おう…。割とぐさっときたな。コミュニケーション能力に関しては俺も正直自身は無い。が、お前も相当な物だと思うぞ?

「何よその顔。お前に言われたくねーよ。みたいな顔して。」

はい、その通り!

「私は’’あえて’’話さないのであって。あなたのは話せないのでしょう?同じにしないで欲しいのだけど。」

何というか、物は言いようだな。

「まぁいいわ、私は帰るわ。さようなら、白杭 くん。」

足早に彼女は何処かへ行ってしまった。
なんだったんだよ…。
突然あらわれ、突然帰る。自由人だったな、もはや宇宙人だったな…。遠い目をしながら俺は思った。
んで、結局振り出しに戻るのか。
親父は車は頼んだって言ってたけど、タクシーじゃ無いみたいだしどういうことだ?

「ごめんね、またせちゃったかな?」

親父の言葉を思い返していると、背後から突然誰かに呼び止められた。
視界に映ったその姿は見慣れてはいないが、確かに見覚えのある女性の姿だった。

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コメント

  • 音街 麟

    誤字も少なくて読みやすく、内容もすごく面白いです!次の更新楽しみに待ってます!これからも頑張ってください!

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