破滅の未来を知ってしまった悪役令嬢は必死に回避しようと奮闘するが、なんか破滅が先制攻撃してくる……
第二十二話~王城に遊びに行くよっ!~
翌日、私はキスキスのせいで大変な目に遭った昨日を思い出したくないと、頭を打ち付けながら目を覚ます。
半蔵め。実にひどいことをしてくれた。
あの後半ば無理やり食べさせられたキスキスのせいで、キスがしたくてたまらなくなった。何とかこらえたが、半蔵があれやこれやとちゅっちゅしようと襲ってきた。マジでやばかったよ。私のファーストキス、奪われなくてよかったー。
部屋を出て顔を洗ってさっぱりした後、私は食堂に向かった。
食堂につくと、テーブルの上にはおいしそうなご飯が置いてあり、いい匂いが漂ってきた。
一つだけ、ものすごい色をしているんだけど。
スープが紫色に輝いている。紫色っていえば、レッドオニオンとかあるから、そこら辺のスープかなって思うんだけど、輝いているって何? スープって輝くものなのかな?
やばい予感しかしないから見なかったことにする。
私はお父様の後に続いて「いただきます」と言い、御飯を食べ始める。
とりあえず、スープを端に寄せてなかったことにしてっと。
「これを食べ終わったら王城に行くぞ」
「ぶふぅ」
またお父様はとんでもないことを突然言ってくる。
王城って言ったらあれだよね、この国で一番偉い人に会いに行くんだよね。やばい、緊張しちゃう。そういうことはもうちょっと早くいってほしいな。
でもあれ、王城ってことはベルトリオの豚のところに行くんだよね。
何かお土産でも持って行ったほうがいいのかな。最近お土産のことばっか考えている気がするけど、私は気にしないよっ!
あの豚にお土産を持っていくとしたらスイーツだよね。というかそれしかない。
「お父様、何か甘いお菓子とかないですか」
「なに、朝からそんなものを食べたら太るぞ」
「私が食べるんじゃありませんっ! ベルトリオ王子が甘いもの好きだからお土産にでもって思っただけですっ!」
「なんだそんなことか。あれは確かに甘いものが好きだが、なんでお前が知っているんだ。会ったことないだろう」
「それは昨日会ったからですよ。スイーツを奢ってもらいました。ついでにお金をもらいました」
「っち、俺の努力を無駄にしやがって。でも、ベルトリオ王子はそんなことする方じゃなかったんだがな。お前が従妹だからかな」
なんで舌打ちするの。努力って何? ベルトリオに会わせない努力ってことなの?
もしかして、うちの家族と王族って不仲なのかな。それとも、あの豚だけだったりして。
まあいいや。
「多分そうですよ。という訳で、お菓子をお土産にもっていけば喜んでもらえるかなって思うんです」
「だったら早く用意しなさい。食べたらすぐ出るからな」
「わかりましたお父様。では早速」
「その前に、朝食を残さず食べなさい。残したら絞首刑だぞ。さりげなくよけたスープも残さず食べなさい」
あれ、やっぱり食べなきゃダメですか。そうですか。
しかも、食べ終わったら出るのにお土産を見繕おうとしたら絞首刑って……なんて理不尽なんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
なんとか朝食を食べ終わって、それからお土産を選ぶのに1分しかなかったが、何とか選ぶことに成功した。
本当にぎりぎりの闘いだったさ。だけど私は勝ったっ!
選んだのは、意外となんでもできるアン特
性のスイーツにした。あいつ本当に何でもできる変態だな。
黒くてぬめぬめした触手のような何かを見事なスイーツに作り替えるなんて、今でも信じられない。でも、あの黒い触手は何だろうか。
目の前でうねうねと動き、ねっちょりとした体液を垂れ流す、ちょっとだけ甘い匂いを漂わせるイソギンチャクのような触手。
そういえば、イソギンチャクって食べれるんだよね。
ぶにゅっとしておいしいらしんだけど、それと同じなのかな。
でもそれをスイーツって……。なんか違う気がする。
あれこれ考えていると、王城にたどり着いていた。考え事しながらだと、あっという間に時間が経っちゃうよね。
王城の門をくぐり、中に入る。案内をしてくれている使用人らしき人物の後を付いていくと、謁見の間……ではなく普通の部屋だった。そこには、現王であるディールライト・フォン・ロートリア・ハーメツン様と王妃であらせられるセルシリア・フォン。ロートリア・ハーメツン様がいらっしゃった。
ディールライト様は、歴代王の中でもかなり優れた王様であり、国民から慕われている。自国民を第一に考えて、横暴なことは決して許さない正義感を持ち、誰にでも親しく接してくれる素晴らしい王様だ。
そして、その王様を支え、民のために尽くす、聖女のように清らかな心を持っていると噂のロートリア様。ただし出生は不明らしい。
なんか家のお母様と同じ感じがする。若干怖い。
ところで……豚はどこにいるんだろう。
部屋の中を探してみると、隅っこの角で体育座りをしながら床に『の』の字を書いていた。
俺様系王子様も太っていたら根暗なのね。まあ豚だからしょうがない。だが、街を歩き回っていた時の元気はどうしたんだろう?
「久しぶりですぞ、兄上」
お父様がディールライト様に親し気に話しかけた。お父様はディールライト様の弟なんだし、今は私用で遊びに来ているようなものだから、かたっ苦しい挨拶とかはなしなんだね。
大人は大人同士、いろいろと話すことがあるだろう。だから私はベルトリオのところに行こうとした。
そしたら、私の後ろから風は吹いた。
はて、室内にいるはずなのに、なぜ風が吹くんだろう。
窓が開いている様子もないので私は首をかしげて後ろを見た。
そして、見たくもない現実を知ってしまう。
「あらあらうふふ、少し腕が鈍ったんじゃないかしら」
「それを言うなら、ボスも少し腕が鈍ってきたんじゃないのですか?」
「あらあら、私はまだまだ現役よ。私の夫に手を出すものがいたら…………うふふ」
「それはそれは物騒なこと。でも私も同じ気持ちですよ。旦那に手を出す輩がいたら……ふふ」
「それにしても、…………のセルシリアと呼ばれていたあなたが、ずいぶんと丸くなったものね」
「それはこちらのセリフですよ。…………のシルフィーと恐れられていたあなたが……」
と、優雅に話ながら、お互いにナイフを向けていた。
もちろん、お父様とディールライト様から見たら死角になっている位置だから、わからないだろうけど、私の位置からは見えちゃうんだよなー。
というか、王妃様に敬語を使われているお母様、何者ですか。
なんか、不吉な言葉が聞こえてきた気がするんだけど。
うん、見なかったことにしよう。最近これ多いな。
私はくるりと反転してベルトリオのもとに近づいた。
手にはアンに作ってもらったスイーツの入った箱を持っている。
若干うごめいている気がするが、まあ大丈夫だろう。被害を受けるのは私じゃないし。
「ベルトリオ様」
「はぁ、死のう」
「一体どうしたのですかっ!」
「首を吊るにはどうしたらいいのだろうか。頸動脈がなかなかしまらなくて死ねないんだ」
「マジで何があったのっ!」
死にたいとか、もう嫌だとか、苦しいとか、ぶつぶつとつぶやいている。もしかして、あれかな。うつ病ってやつなのかな。
なんか瞳が濁っているし、死んだ魚のようだ。
だ、大丈夫かな。
そう思った瞬間、私が持っていた箱が激しく揺れた。そして黒光りした触手がうにょりと顔を出した。
それは甘い匂いをまき散らしながら、ベルトリオに襲い掛かる。
まるでケーキとチョコレートとキャラメルを足して5でかけた甘ったるい匂いが、私とベルトリオを包み込んだ。
今まで死んだ魚のような目をしていたベルトリオの目に、光が宿る。
そしてーーーー
「スイィィィィィィィィィィィィィツっ!」
と、雄たけびを上げて、食らいついた。
こいつ、マジでやべーな。
半蔵め。実にひどいことをしてくれた。
あの後半ば無理やり食べさせられたキスキスのせいで、キスがしたくてたまらなくなった。何とかこらえたが、半蔵があれやこれやとちゅっちゅしようと襲ってきた。マジでやばかったよ。私のファーストキス、奪われなくてよかったー。
部屋を出て顔を洗ってさっぱりした後、私は食堂に向かった。
食堂につくと、テーブルの上にはおいしそうなご飯が置いてあり、いい匂いが漂ってきた。
一つだけ、ものすごい色をしているんだけど。
スープが紫色に輝いている。紫色っていえば、レッドオニオンとかあるから、そこら辺のスープかなって思うんだけど、輝いているって何? スープって輝くものなのかな?
やばい予感しかしないから見なかったことにする。
私はお父様の後に続いて「いただきます」と言い、御飯を食べ始める。
とりあえず、スープを端に寄せてなかったことにしてっと。
「これを食べ終わったら王城に行くぞ」
「ぶふぅ」
またお父様はとんでもないことを突然言ってくる。
王城って言ったらあれだよね、この国で一番偉い人に会いに行くんだよね。やばい、緊張しちゃう。そういうことはもうちょっと早くいってほしいな。
でもあれ、王城ってことはベルトリオの豚のところに行くんだよね。
何かお土産でも持って行ったほうがいいのかな。最近お土産のことばっか考えている気がするけど、私は気にしないよっ!
あの豚にお土産を持っていくとしたらスイーツだよね。というかそれしかない。
「お父様、何か甘いお菓子とかないですか」
「なに、朝からそんなものを食べたら太るぞ」
「私が食べるんじゃありませんっ! ベルトリオ王子が甘いもの好きだからお土産にでもって思っただけですっ!」
「なんだそんなことか。あれは確かに甘いものが好きだが、なんでお前が知っているんだ。会ったことないだろう」
「それは昨日会ったからですよ。スイーツを奢ってもらいました。ついでにお金をもらいました」
「っち、俺の努力を無駄にしやがって。でも、ベルトリオ王子はそんなことする方じゃなかったんだがな。お前が従妹だからかな」
なんで舌打ちするの。努力って何? ベルトリオに会わせない努力ってことなの?
もしかして、うちの家族と王族って不仲なのかな。それとも、あの豚だけだったりして。
まあいいや。
「多分そうですよ。という訳で、お菓子をお土産にもっていけば喜んでもらえるかなって思うんです」
「だったら早く用意しなさい。食べたらすぐ出るからな」
「わかりましたお父様。では早速」
「その前に、朝食を残さず食べなさい。残したら絞首刑だぞ。さりげなくよけたスープも残さず食べなさい」
あれ、やっぱり食べなきゃダメですか。そうですか。
しかも、食べ終わったら出るのにお土産を見繕おうとしたら絞首刑って……なんて理不尽なんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
なんとか朝食を食べ終わって、それからお土産を選ぶのに1分しかなかったが、何とか選ぶことに成功した。
本当にぎりぎりの闘いだったさ。だけど私は勝ったっ!
選んだのは、意外となんでもできるアン特
性のスイーツにした。あいつ本当に何でもできる変態だな。
黒くてぬめぬめした触手のような何かを見事なスイーツに作り替えるなんて、今でも信じられない。でも、あの黒い触手は何だろうか。
目の前でうねうねと動き、ねっちょりとした体液を垂れ流す、ちょっとだけ甘い匂いを漂わせるイソギンチャクのような触手。
そういえば、イソギンチャクって食べれるんだよね。
ぶにゅっとしておいしいらしんだけど、それと同じなのかな。
でもそれをスイーツって……。なんか違う気がする。
あれこれ考えていると、王城にたどり着いていた。考え事しながらだと、あっという間に時間が経っちゃうよね。
王城の門をくぐり、中に入る。案内をしてくれている使用人らしき人物の後を付いていくと、謁見の間……ではなく普通の部屋だった。そこには、現王であるディールライト・フォン・ロートリア・ハーメツン様と王妃であらせられるセルシリア・フォン。ロートリア・ハーメツン様がいらっしゃった。
ディールライト様は、歴代王の中でもかなり優れた王様であり、国民から慕われている。自国民を第一に考えて、横暴なことは決して許さない正義感を持ち、誰にでも親しく接してくれる素晴らしい王様だ。
そして、その王様を支え、民のために尽くす、聖女のように清らかな心を持っていると噂のロートリア様。ただし出生は不明らしい。
なんか家のお母様と同じ感じがする。若干怖い。
ところで……豚はどこにいるんだろう。
部屋の中を探してみると、隅っこの角で体育座りをしながら床に『の』の字を書いていた。
俺様系王子様も太っていたら根暗なのね。まあ豚だからしょうがない。だが、街を歩き回っていた時の元気はどうしたんだろう?
「久しぶりですぞ、兄上」
お父様がディールライト様に親し気に話しかけた。お父様はディールライト様の弟なんだし、今は私用で遊びに来ているようなものだから、かたっ苦しい挨拶とかはなしなんだね。
大人は大人同士、いろいろと話すことがあるだろう。だから私はベルトリオのところに行こうとした。
そしたら、私の後ろから風は吹いた。
はて、室内にいるはずなのに、なぜ風が吹くんだろう。
窓が開いている様子もないので私は首をかしげて後ろを見た。
そして、見たくもない現実を知ってしまう。
「あらあらうふふ、少し腕が鈍ったんじゃないかしら」
「それを言うなら、ボスも少し腕が鈍ってきたんじゃないのですか?」
「あらあら、私はまだまだ現役よ。私の夫に手を出すものがいたら…………うふふ」
「それはそれは物騒なこと。でも私も同じ気持ちですよ。旦那に手を出す輩がいたら……ふふ」
「それにしても、…………のセルシリアと呼ばれていたあなたが、ずいぶんと丸くなったものね」
「それはこちらのセリフですよ。…………のシルフィーと恐れられていたあなたが……」
と、優雅に話ながら、お互いにナイフを向けていた。
もちろん、お父様とディールライト様から見たら死角になっている位置だから、わからないだろうけど、私の位置からは見えちゃうんだよなー。
というか、王妃様に敬語を使われているお母様、何者ですか。
なんか、不吉な言葉が聞こえてきた気がするんだけど。
うん、見なかったことにしよう。最近これ多いな。
私はくるりと反転してベルトリオのもとに近づいた。
手にはアンに作ってもらったスイーツの入った箱を持っている。
若干うごめいている気がするが、まあ大丈夫だろう。被害を受けるのは私じゃないし。
「ベルトリオ様」
「はぁ、死のう」
「一体どうしたのですかっ!」
「首を吊るにはどうしたらいいのだろうか。頸動脈がなかなかしまらなくて死ねないんだ」
「マジで何があったのっ!」
死にたいとか、もう嫌だとか、苦しいとか、ぶつぶつとつぶやいている。もしかして、あれかな。うつ病ってやつなのかな。
なんか瞳が濁っているし、死んだ魚のようだ。
だ、大丈夫かな。
そう思った瞬間、私が持っていた箱が激しく揺れた。そして黒光りした触手がうにょりと顔を出した。
それは甘い匂いをまき散らしながら、ベルトリオに襲い掛かる。
まるでケーキとチョコレートとキャラメルを足して5でかけた甘ったるい匂いが、私とベルトリオを包み込んだ。
今まで死んだ魚のような目をしていたベルトリオの目に、光が宿る。
そしてーーーー
「スイィィィィィィィィィィィィィツっ!」
と、雄たけびを上げて、食らいついた。
こいつ、マジでやべーな。
コメント