僕は間違っている

ヤミリ

18話

僕達はあの怒涛の日をなんとか切り抜け、獅恩を警察に届け出すことが出来た。
けれどおかしいことに獅恩の身の回りを調べても、証拠が本当に無く、失踪事件とは関わりが無かったらしい。
だが、ストーカーをしていた事実は残っているのでその件は別で、少年院に行きそうになったみたいだ。被害届は出されていなかったので行くことは無かったが、芸能界では噂になり、週刊文春にも取り上げられていた。
僕はというと、三日入院することになり、今は病院のベッドの上だ。今日の夜にやっと退院できる。
「颯海! 今日も来たよ。冬野先輩は今日はバイトだから来れないけどね」
それから毎日みんながお見舞いに来てくれている。ただ一人、千夏を除いて。
「ありがとう。今日も千夏は来ないんだね」
「あいつがここまで薄情者だとは思わなかったぜ。まあそのうち来るだろ」
あの日から千夏の姿を一回も見れていない。警察とのやり取りを僕の分までやってくれているからだろうか。真意は分からないが、何か理由がある筈だ。
みんなとたわいもない話をしていると、病室を「コンコンコン」と叩く音がする。
「どうぞ」
返事をすると、今一番会いたくなかった人物が入ってくる。ここにいる全員が、憤懣した雰囲気を漂わせている。
「颯海、頭は大丈夫かい?」
獅恩は本当に心配そうに僕の頭を見ている。頭をこうした本人なのにおかしな話だ。
「お前、何しに来たんだ!! また頭蹴りに来たのか?」
「やめよう、ここ病院だよ」
達秋が今にも殴りかかりそうだったのを、すんでのところで珠理が止める。
「すまない。言い訳になってしまうが、あんなことをしてしまうなんて思ってもいなかったんだ。つい、頭に血が上ってしまって。もちろんそれでもやってしまったことは、悪いことだ。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げられ、思わず許しそうになる。けれど僕はそのことよりも彼杵のことで怒っている。
「僕はこの頭より、彼杵のことで怒っているんだ。君は誘拐犯じゃないのか?」
「全部、正直に話すよ。彼女について関わることを」
「やっぱり!! あんたが!!」
「珠理、達秋、外に出てて。二人で話すよ」
「でも、何するか分からないぞ、こいつ」
達秋は獅恩を睨みつけながら言う。
「何かあったら叫ぶから安心して」
それはそれで女の子みたいで恥ずかしいな。
二人を説得して、外に出てもらった。
「彼杵は今何処にいるんだ?」
ずっと気になっていたことを聞く。
「それは本当に知らないんだ」
獅恩が嘘をついている様子はない。じゃあ彼杵はどこへ行ったんだ? またゼロから探し出すことになるのか。もう手掛かりなんてないのに。頭の中が不安でいっぱいになる。
「話は長くなるが、聞いてほしいことがあるんだ」
「もうなんでもいいから手掛かりをくれ」
今はもう蜘蛛の糸を欲している。ほんの少しの情報だけでもいい、彼女の安否を確認したい。
「前に言った通り、彼杵さんは俺の婚約者なんだ。この前婚約が成立したばかりだった。けれどそれは政略結婚だったんだ」
政略結婚!? そんなことが身近に行われていたのか。いつも一緒に居たのに、知らなかった。傷付く気持ちと裏腹に、彼杵の気持ちが獅恩に向いていないと気付き、ホッとしてしまう。
「僕の父親は、警察庁長官が優秀な警察官の功労をたたえる『全国優良警察職員表彰』に選ばれた有名な警察官で、絶大な権力を持っていた。一つや二つの事件を消すことぐらい安易なんだ。今回のストーカーの件は、俺が隠すことをやめてと言ったから消されずに済んだんだ」
獅恩の父親が警察官なのは知っていたが、ここまで凄いとは思わなかった。
「実は一年前、彼杵さんの両親は人を轢き殺している」
「え? 嘘だろ? そんな話聞いたことがない」
一年前の彼杵は何の変化も無かった筈だ。
「当たり前さ、俺との婚約でその事件は揉み消されたんだからね。俺は前から彼杵さんのことが大好きで、父の前でもよく彼女の話をしていた。父は本当は牢に入る筈だった彼杵さんの両親に、事件を白紙にする代わり、俺と彼杵雪菜さんの結婚の提案をしたんだ」
何も考えられなくなる。だから彼杵はしょうがなく結婚することになったのか? 両親のために?
「そして事件前日、俺は彼女の部活終わりに、婚約指輪を渡した。あの時は笑顔で受け取ってくれたんだ。けれどその翌日、失踪の連絡が来た……彼女は婚約を望んでいなかったんだ」
全てを話し終えた獅恩の体は脱力していて、本当に愛していたのだと痛い程伝わってくる。けれど危害を加えていないにしろ、ストーカーはダメだ。
「彼杵に会えたら、ストーカーの件、謝罪しろよ」
「ああ、もちろんだ」
「もしかしたら、違う形で会っていれば僕達は良い友達になれたかもな」
残念至極だ。
「それはないさ。俺が通信高校から転校したのも、彼女が失踪したからだ。それに君と隣の席になったのも、彼女と仲が良い事を知っていたから。彼女が居なければ君と俺は接点がなかった」
そう言いながら病室を去っていく後ろ姿は、なんだか寂しそうに見えた。最後まで嫌味ったらしい奴だ。
「でも、君は良い人だ。本当にありがとう」
────パタン
扉が閉まる寸前、消え入りそうな声でそう呟いたのが聞こえた。ツンデレ属性だったのか。思わず笑みがこぼれた。

「僕は間違っている」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く