僕は間違っている

ヤミリ

14話

全体を伸ばすと、一枚目は『部屋に居る彼杵』を外から撮ったもの。二枚目は『下校途中の彼杵』の写真だということが判明した。明らかに盗撮した写真であることが一目でわかる。
「これで警察は動かなかったの…?」
「そういえば獅恩は警察の息子なんだろ。事実を隠蔽したのかもしれない」
そうかもしれない。権力さえあればなんでも隠せるはずだ。芸能人なのもあって尚更バレたら大問題だ。
「警察には、私が撮ったんじゃないかと言い掛かりもつけられました」
「そんな! じゃあどうすれば…」
「もっと確実な証拠を見つけましょう。警察にそれを見せてもダメなら、ネットにばらまくの」
千夏がそう提案すると、達秋がひらめいたようで席から立つ。
「なら、一番証拠がありそうな獅恩の家へ行くのはどうだ?彼杵もそこに居るかもしれない」
全員満場一致のようで、「そうしよう」と大きく頷く。
「みんなが行くと怪しまれそうだし、男子だけで行こう。女子は危険があるかもしれないしね」
「そんなの嫌よ。私も彼杵を救いたい」
「わかった。じゃあ外で待ってるのはどう?」
話はトントン拍子に進み、この作戦は『彼杵奪還作戦』と名付けられた。作戦実行のため、獅恩に僕からメッセージを送ることになった。

────「こんばんは。急でごめん。獅恩の家に遊びに行きたいんだけど、いいかな」
────「俺の家に? 狭いけどそれでもいいかい?」
────「ありがとう。達秋も連れていくよ」
────「とても楽しみだ。じゃあ明日おいでよ」
────「了解」

上手く話は進み、みんなにメッセージ画面を見せる。
「あっさりいったね……犯人なら普通断るよね」
「犯人だと悟られないようにしてるんじゃないかしら」
若干の違和感はありつつも、明日に備えていくつか決まり事を決めた。
一、危なくなったらすぐ逃げること。
二、スマホで会話を録音すること。
三、怪しいと思ったらバレないように証拠を掴むこと。
四、女子を呼べる状態なら呼ぶこと
五、決まり事は守ること。
この五つの決まり事を決め、僕達は解散した。

次の日。放課後になって早速獅恩と一緒に家へ向かっている。
「家を見られるなんてなんだか恥ずかしいな」
獅恩はいつも通りの様子で、僕達の隣を歩いている。ストーカーだと分かっていてもつい気が緩みそうになる。気を付けなければ。歩くと十分程かかる道をたわいもない話で通り過ごす。
「芸能の仕事しながら学校なんて大変だね」
「そんなことないよ、最近は仕事を休みにしてもらっているんだ」
そんな風に取り繕っていると、あっという間に獅恩の家へ着く。
「え、広!? ここ獅恩の家だったのか!」
もう家は知っているがわざとらしく達秋は反応する。バレそうで冷や冷やする。
「はは、そんなに広くないよ。案内するね」
あっさりと家の中に入ることが出来たので、女子達にメッセージを送る。外で待機してもらうために。
「彼女とでもやりとりしてるの?」
それを見られていたのか、そう聞かれる。
「いや、母さんだよ」
緊張し過ぎて声が裏返ってしまった。
「そっか。ここが僕の部屋だよ」
玄関の近くの階段を上がり、長い廊下の突き当たりに着くと、獅恩はそう言った。
扉が開かれると、消臭剤の匂いが充満していた。部屋の中はシンプルで、家具は白黒で統一されている。特に目立つものもなく、モデルルームの様な部屋だ。
「わあ、オシャレな部屋だね」
「はは、そうかな。そう言ってくれて嬉しいよ」
獅恩は優しい笑みで照れている。
「ちょっと喉乾いたからお茶貰えないか?」
「分かった。待っててくれ」
達秋は僕に視線で合図する。机の方を見ているので、獅恩が居ない内にその中を見ろということだろう。

────バタン

扉が閉まった数秒後、足音が消えたか入念に確認してから、机の方へ向かう。手当り次第開けていくが、特に怪しいものはない。予想以上に者が少なく、質素だ。生活感が全くない。
達秋はタンスの中を調べているようだが、服しかないようだ。ここまで証拠が見つからないのもおかしい気がする。
机とタンスを元の状態に戻して、達秋に話しかける。
「何も…ない」
「本当は犯人じゃないのか?」
そんなことはないはずだ。あの時見た姿は正に犯罪者のようだった。
ふと、この家の部屋の数を思い出す。一、二、三────。僕が見た記憶だと、九部屋はあったはずだ。
「何とかして他の部屋を見てみよう」
「でも、どうやってだ?」
顎に手を乗せ足りない頭で必死に考える。すると、
────ガチャ
「ただいま」
獅恩がお茶を持って戻ってきてしまった。

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