僕は間違っている

ヤミリ

13話

────カランカラン
扉の鈴が鳴り、達秋と珠里が入ってくる。その後ろには最近知り合った人が居た。弓道場を見に行った時に居た、姿勢の良い先輩だ。
「ごめん! 遅くなっちゃった!」
さっきまで走っていたのか、顔が蒸気して額に汗が浸っている。
「なんで冬野先輩がここに?」
千夏が二人の横にいる人の方を見てそう問いかける。
「え、えと、最近ここのバイトに入って」
「え!? 今にも潰れそうなのにですか!?」
千夏が目を見開いて驚く。
「ちょっとちーちゃん、ここにもお客さんは来るんだからあ」
カウンターから珈琲の準備している夏子さんが反応する。
「あ、それよりみんなの分の珈琲準備しなきゃ!早速仕事ですよ!冬野ちゃん!」
「はい!」
冬野先輩は店の奥の部屋に着替えに行った。
説明も終わったので早速達秋と珠里は僕達のテーブルへ座り、話が始まった。
「あれは、本当に獅恩なのか?信じられないぜ…」
「本当だよ、ちゃんと確認した」
「あんな顔、演技している時ですら見たことないのに…」
みんな今までの優しい獅恩を見ていたからか、信じたくない様子だ。でも確かに僕と千夏は見ていた。あの異様な行動を。
「動画とかはないの?」
「ないわ、リスクが高過ぎて無理だったの」
もっと核心を突くような証拠を残せば良かったかもしれないが、バレたら元も子もないのでどうしようもなかった。
「あ、あの……」
ふと、頭を悩ませている時に声を掛けられる。
「珈琲です。ぜひ召し上がってください」
「ありがとうございます」
冬野先輩が珈琲を持ってきてくれたようだ。テーブルに置かれた珈琲を口に運ぶ。とても美味しい。今まで気を張っていた分、暖かいものを飲むと気が休まる。
ほっと一息つけた所で、あることを思い出す。
「冬野先輩。聞きたいことがあります」
みんなの様子を眺めていた冬野先輩は、僕に視点を変え、キョトンとした顔でこちらを見つめている。
「なんでしょうか?」
「なぜ獅恩に土曜日彼杵と居たか、なんて聞いたんですか?」
あの時冬野先輩は獅恩にそう聞いていた。そんなことを聞くということは、土曜日に彼杵と一緒に居た所を見ていたのかもしれない。それが分かれば彼杵を見つけ出す手掛かりになるはずだ。じっと言葉が発せられるのを待つ。
数秒後、冬野先輩の口が開いた。
「長くなるんですが、土曜日の部活終わりに、彼杵ちゃんを凄いイケメンが校門まで迎えに来てたんです。そのイケメンというのが、この前弓道場の前で貴方と居た人です」
「颯海と居た人?ってことは獅恩?」
「うん。獅恩に学校案内しているとき、冬野先輩と会ったんだ」
「話を続けますね。でも彼杵ちゃんは嬉しそうな顔はしていませんでした。不思議だと思ったので、家に帰った後メールをしたんですが、返事はありませんでした。そしてその後、彼杵ちゃんは失踪しました」
冬野先輩は顔を俯かせながら丁寧に話す。
「警察にそれは話したんですが、証拠が出なくて…。私は、あの後に必ず何かあったと思うんです」
「なるほど…やっぱり獅恩が怪しいのね」
この場に居る全員、この話を聞いてから険しい顔になった。僕も同様に。
「あと、最後にみなさんに渡しておきたいものがあります。彼杵ちゃんと帰る道は途中まで一緒だったので、あの日二人の後ろを歩いていたんです。その時にイケメン君がこんなものを落としていて…」
そう説明し、ポケットから紙を渡される。特に何か書かれている訳でもなく、変わったところは無かった。けれどよく見ると、紙の間にクシャクシャに折られた、二枚の写真が挟まっていた。
「これも警察に渡したんですが、証拠としては不十分だったみたいです」
少しだけ開けてみると、彼杵が写っているのが分かる。濡れていたのか、しわしわになった写真を糸のように優しく伸ばしていく。伸ばしていく程、みんなの顔は恐怖に歪んでいった。

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