僕は間違っている

ヤミリ

12話

「颯海! 隠れて!」
背後から小さく叫ばれた。尾行は失敗だ。そう思った。が、獅恩が振り向く寸前に、千夏に勢いよく引っ張られバレずに済んだ。
「あ、ありがとう。助かった」
正直死ぬかと思った。心臓が破裂しそうだ。尾行も台無しになるところだった。
幸いにも獅恩は特に気に留めていないようだった。猫の仕業だとか、軽く思ったのかもしれない。
「今日はもう潮時かもしれないわね。写真も撮れたし。珠里と達秋とは近くのカフェで合流することにしたわ」
「そうだね。早く退散しよう」
まだ心臓の鼓動は煩いが、我慢して息を潜めながら千夏の後ろを付いて行く。
さっきの反応もそうだが、千夏の頭の回転が早くてとても助かる。
今までこんな積極的な姿は見せていなかったのに。彼杵への情が深いのがとても分かる。
窮屈だった住宅街を抜け、大通りへ入った。歩いて行く内に精一杯華やかに飾り立てられたショーウィンドウが、視界を占拠していく。
街の風景を眺めながら歩いていると、店と店の間にひっそりと佇んでいる奥ゆかしいカフェを見つける。『カフェ ルーズ』と看板に書かれている。
「ここに入るわよ」
「え? ここ?」
「何よ。文句あるのかしら?」
「ないです」
怒っているのか、ぷくっと頬が膨らんでいてつい笑ってしまいそうになる。けれど笑えばビンタされそうなので我慢する。
あまりに大人な雰囲気のカフェで、高校生が入る様な場所ではないので緊張してしまう。恐る恐るドアを開くと、珈琲豆の良い香りに鼻先が反応する。客は一人もいない。もしかして開店していないのでは。
カウンターの方へ視線をやると、店員さんらしき人が近寄ってくる。
「ええ! ちーちゃん! 彼氏?」
ブロンドの髪をした色白の女性店員さんが千夏に声を掛ける。
彼氏? そうか、他人から見たらそう見えるのか。
「違うわよ! 誤解しないで!それより席を案内してよ」
「本当にー? はいはい、分かりましたよ」
店員さんは僕達を窓際の奥の席へと案内してくれた後、何故か千夏の隣に腰掛けた。
「な、なんで隣に座るのよ」
「だって暇だもの。それにお話がしたいの」
そう言いながらにっこりと僕へ微笑む。僕は戸惑いつつ、苦笑いを浮かべる。
「姉さん、この店潰れるんじゃないの?」
「やだなあ、そんな事言わないでよねー」
「え!? 姉さん!?」
僕はあまりの似てなさに驚きを隠せなかった。
「そうよ。私の姉さん、篠原夏子」
「いつもちーちゃんがお世話になってますー」
夏子さんは優しい笑顔でお辞儀をした。
「いいえ、むしろお世話になっているほうです。僕は颯海といいます」
「颯海君、本当に千夏と付き合っていないの?」
「だから、本当に違うわよ!!」
ここまで嫌な顔で否定されるとむしろ傷付いてくるな。
「そうだ、私の自慢の珈琲持ってくるね」
あっという間に話は切り替わり、夏子さんは席から立ってカウンターへと戻っていった。
「綺麗な人だね」
「そうでしょ? 自慢の姉なの」
千夏は姉を誇らしげに思っているみたいで、いつもの棘のある感じが一切無い。案外可愛い所もあるんだな、と微笑ましく思える。
「何ニヤニヤしてるの? 気持ち悪いわよ」
前言撤回。やっぱり可愛くない。
「それより、達秋達はこの場所は分かるのか?」
「達秋はともかく、私と珠里はよく来るから分かるはずよ」
二人がよく来るってことは、彼杵も来ていたのだろうか。
「二人共、遅くないか?」
そう言いながら窓の方を見ると、二人を見つける。こちらに向かってきているようだ。近付いてくるにつれ、二人と一緒に歩いている人が居るのに気付く。

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