僕は間違っている

ヤミリ

11話

尾行を始めて一週間、ボロが出る様子は皆無だった。寧ろボロよりも良い所の方が発見できる程だった。
例えば迷子の子供に道案内をしたり、老婆の落し物を見つかるまで一緒に探したり、時には街中のゴミ拾いなど、正に紳士の鑑のような行動ばかりしていた。
「もうやめた方がいいんじゃないかな」
「ダメよ、念入りにもっと調べないと」
あれからいくら千夏に「尾行をやめよう」と説得しても、この一言で一点張りだった。現に今も獅恩を尾行している最中だ。
達秋と珠里にも手伝ってもらい、交代で監視しているが、やる気が失せている様子だ。今日は僕と千夏の番だ。
もっと他の方法で彼杵の情報を見つけるべきだと僕は思う。
「今日はいつもと違う道に行ってないかしら?」
そう言われ今までの道筋を思い返す。
「帰り道と反対だ」
今日はどこか寄り道でもするのだろうか。疑問に思ったのも束の間、団地に入り住宅ばかりが並んでいる道に入っていく。
注意深く観察を続けていると、ふと獅恩の動きが止まる。電柱の柱に身を隠し、ずっとどこかを凝視しているようだ。
「ここ、彼杵の家だ」
獅恩の視線の先を辿ると、二階の彼杵の部屋を見ていることが分かった。窓は開いていて、部屋の様子が少し見える。
数分同じ状態が続いた後、獅恩がカバンからスマホを取り出す。スマホのカメラレンズを彼杵の家へと向けているようだ。どういう意図があっての行動か分からなく、首を傾げる。
「何がしたいのかしら…?」
千夏はもう一歩近付き、獅恩の顔が見えるギリギリの位置まで移動する。そして顔が見えた瞬間、勢いよく後ろへ下がってくる。
「ひっ 何、あれ……気持ち悪……」
みるみる内に千夏の血相が変わっていく。ゴキブリでも見ているのかのような顔をしていて、嘔吐しそうなのか口を小さな手で覆っている。
「千夏? どうしたの?」
「あいつ、興奮してるわ。変態よ」
「え?」
この反応を見る限り、嘘を言っているようではなさそうだ。
「彼杵のストーカーなのか? でも彼杵は今家には居ないはずだろ」
「分からないわ。けど、不愉快極まりない顔をしているのは確かよ」
千夏は先程の位置に戻り、嘔気を抑えながらスマホで獅恩の顔を撮る。直後、その画像が僕宛に送られてくる。どんなものかとメッセージを開くと、衝撃が走る。興奮しているのか顔が赤く火照り、底気味が悪い笑みを浮かべていた。元の美貌とはかけ離れた顔で、本当に同一人物なのか信じられなかった。生理的に受け付けれず、思わず体中の神経が舐め回されたような感覚に陥る。その画像だけで犯罪者と確定できるような表情だった。
「珠里と達秋にも送ったわ。今いる場所を教えて、『気付かれないように合流して』とも伝えた」
今までの尾行よりも遥かに緊張が走る。彼杵を誘拐した犯人かもしれない、という可能性が二人の頭の中でとてつもなく上昇したから。 
その時、獅恩の行動に変化が出る。スマホをカバンにしまい、生徒手帳を出しているようだ。一見普通の生徒手帳かと思いきや、手帳からは何かが写っている写真が出てくる。獅恩はそれを取り出してジッーと見つめている。
「遠くて見えないわね…」
「もっと近付く?」
「ダメよ。危険だからもう少し下がった方がいいかもしれない」
そう言われ後退すると、ペットボトルに躓きドサッと体勢を崩し転倒してしまう。周りの音がほぼ無かったせいか、コロコロ、とペットボトルの音が響く。それに気付いたのか獅恩がこちら側を振り向いた。

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