僕は間違っている
6話
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4人と別れた私は町内で聞き込み調査をしていた。颯海と獅恩は学校内、達秋は学校付近、珠里は私と同じく町内で東の方角で行動している。学生達の取り留めのない声の束がよく聞こえてくる。
もうすぐ夏が始まる時期で、薄い素材の服を着ている人が多く居る。今日は割と早めに授業が終わって人だかりがいつもより少ないみたい。段々と蒸し暑くなっているから気楽だ。
今は歩き疲れてしまったので近くの公園のベンチで腰を下ろしている最中。
少し錆びれて色落ちしているのが気に食わないけれど仕方がない。少々苛立つものの、懐かしい匂いでそれはすぐ消え去った。
「クレープの匂いかしら…」
後ろを振り返ると、クレープ屋さんを見つける。よくここで彼杵と食べていたのを思い出す。チョコが大好きな彼女は『チョコバナナクレープ』をよく選んでいた。
バナナに大量のチョコがかかり、思わず目を閉じ、その空気に浸りたくなる程のいい匂いを放つ『チョコバナナクレープ』を女子中学生が頼み、楽しみに待っている様子が目に入る。
「彼杵も、あんな風に喜んでいたわね」
私はベンチから立ち、同じものを頼むことにした。先に女子中学生の分が来たので、「この子の分も一緒に払うわ」と店員に伝えた。女子中学生は遠慮したものの、最後にはお礼を言いクレープを片手に笑顔で公園の外へ歩いていった。
その後私の分も出来上がったので、お会計を済ませ、またベンチへと腰を下ろす。苦手なチョコがかけられているクレープを口いっぱいに頬張る。美味しくない、食べるのが苦痛、けれどそれ以上に、
「一人で食べるクレープは、なんだかいつもより美味しくないわね」
隣に彼女が居ない方が苦痛。
風息に掠め取られるように小さくそう呟きながら、俯く。するとなんだか見覚えのあるものを見つけた。
「これは……彼杵の、お守り?」
食べかけのクレープを置き、お守りらしき物を拾う。土を払うと、彼杵がオーダーメイドしたお守りと全く同じ柄のものだった。しかし少し違う所がある。鈴が2つ付いている筈なのに1つしか付いていない。
私は何か手掛かりになるかもしれないと思い、強く握りしめポケットの中へ入れた。
お守りはか細い音を立て鳴った。
僕は千夏達と別れ、獅恩に学校案内をしている。
僕達の学校は私立並みに存在感のある大きさだ。おかげで最初は道を覚えるのに時間がかかるし、掃除も困難だ。
特に北舎にある理科準備室は埃臭くて近寄りたくはない。
けれど今から案内するのはそこだ。いつもこの時間は空いていないけれど、先生方に案内するということで空けたままにしてもらっている。恐る恐る理科準備室の扉を開けた。空気を吸いたくないので息を止めるが、結局我慢出来ず思い切り吸ってしまう。
中は薄暗く、埃をかぶった実験道具がいくつも行儀良く並んでいる。あまり使われていなさそうな物は大体こんな感じのようだ。
「うわ、埃臭いね。掃除していないのかい…」
獅恩が険しい顔でそう言う。
「ここは理科準備室だよ。理科の先生がたまに入るくらいかな」
「へえ、ここは窓からよく弓道場が見えるね。彼杵さんは弓道部だったよね」
獅恩はそう懐かしむように言った。
「よく知っているね」
僕がそう言うと、
「彼杵さんは僕の婚約者だからね、当たり前さ」
目の前の美少年は満面の笑みでそう答えた。
4人と別れた私は町内で聞き込み調査をしていた。颯海と獅恩は学校内、達秋は学校付近、珠里は私と同じく町内で東の方角で行動している。学生達の取り留めのない声の束がよく聞こえてくる。
もうすぐ夏が始まる時期で、薄い素材の服を着ている人が多く居る。今日は割と早めに授業が終わって人だかりがいつもより少ないみたい。段々と蒸し暑くなっているから気楽だ。
今は歩き疲れてしまったので近くの公園のベンチで腰を下ろしている最中。
少し錆びれて色落ちしているのが気に食わないけれど仕方がない。少々苛立つものの、懐かしい匂いでそれはすぐ消え去った。
「クレープの匂いかしら…」
後ろを振り返ると、クレープ屋さんを見つける。よくここで彼杵と食べていたのを思い出す。チョコが大好きな彼女は『チョコバナナクレープ』をよく選んでいた。
バナナに大量のチョコがかかり、思わず目を閉じ、その空気に浸りたくなる程のいい匂いを放つ『チョコバナナクレープ』を女子中学生が頼み、楽しみに待っている様子が目に入る。
「彼杵も、あんな風に喜んでいたわね」
私はベンチから立ち、同じものを頼むことにした。先に女子中学生の分が来たので、「この子の分も一緒に払うわ」と店員に伝えた。女子中学生は遠慮したものの、最後にはお礼を言いクレープを片手に笑顔で公園の外へ歩いていった。
その後私の分も出来上がったので、お会計を済ませ、またベンチへと腰を下ろす。苦手なチョコがかけられているクレープを口いっぱいに頬張る。美味しくない、食べるのが苦痛、けれどそれ以上に、
「一人で食べるクレープは、なんだかいつもより美味しくないわね」
隣に彼女が居ない方が苦痛。
風息に掠め取られるように小さくそう呟きながら、俯く。するとなんだか見覚えのあるものを見つけた。
「これは……彼杵の、お守り?」
食べかけのクレープを置き、お守りらしき物を拾う。土を払うと、彼杵がオーダーメイドしたお守りと全く同じ柄のものだった。しかし少し違う所がある。鈴が2つ付いている筈なのに1つしか付いていない。
私は何か手掛かりになるかもしれないと思い、強く握りしめポケットの中へ入れた。
お守りはか細い音を立て鳴った。
僕は千夏達と別れ、獅恩に学校案内をしている。
僕達の学校は私立並みに存在感のある大きさだ。おかげで最初は道を覚えるのに時間がかかるし、掃除も困難だ。
特に北舎にある理科準備室は埃臭くて近寄りたくはない。
けれど今から案内するのはそこだ。いつもこの時間は空いていないけれど、先生方に案内するということで空けたままにしてもらっている。恐る恐る理科準備室の扉を開けた。空気を吸いたくないので息を止めるが、結局我慢出来ず思い切り吸ってしまう。
中は薄暗く、埃をかぶった実験道具がいくつも行儀良く並んでいる。あまり使われていなさそうな物は大体こんな感じのようだ。
「うわ、埃臭いね。掃除していないのかい…」
獅恩が険しい顔でそう言う。
「ここは理科準備室だよ。理科の先生がたまに入るくらいかな」
「へえ、ここは窓からよく弓道場が見えるね。彼杵さんは弓道部だったよね」
獅恩はそう懐かしむように言った。
「よく知っているね」
僕がそう言うと、
「彼杵さんは僕の婚約者だからね、当たり前さ」
目の前の美少年は満面の笑みでそう答えた。
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