僕は間違っている

ヤミリ

3話

帰路についた後、反対の方向の家のはずの千夏を発見した。
壁にもたれながら、とてもつまらなそうに空を眺めていた。
千夏はいつも一人で早く帰っていて、この時間に会えるのは稀だ。とても新鮮。
「千夏?そんなところで何してんの?」
と私は聞いた。
「貴女達を待ってたのよ」
と千夏は応えた。
「「なんで?」」
私と達秋は同時にそう尋ねた。
「彼杵を探すのを手伝うためよ」
千夏はとても真剣な眼差しを向けて言った。
「千夏も手伝ってくれるの!?やった…!誰かさんと違ってやる気があって良かった」
「ほんとだよな、颯海ってば悲しくないのかよ…」
珠里達は呆れた顔で言った。
「颯海は……そんなにやる気が無かったのね?」
「うん、もっとしっかりして欲しいよ。1番彼杵と仲良いのに」
「そうよね、そう思うわ。本当に悲しんでるのかしら?」
「さ、流石に悲しんでるだろ……」
それは珠里も思う。あまりに冷たいというか…。
「ま、まあまあ!そんなことより、千夏は何か情報は掴めた?」
「いいえ、掴めていないわ。そっちは?」
「何も……」
「そう……また明日も頑張りましょう。」
「そうだな!!頑張って彼杵を探すか!」
「「「おー!!!!」」」
珠里達は気を取り直して明日も聞き込みをすることにした。颯海は少し冷たい気もするけど、気のせいだよね。しかしそんな私の不安を膨らませるように、風は鬱陶しい程に荒く吹いていた。



僕は家に帰った後、2階にある自分の部屋へ行き、ベッドに寝転んで彼杵のことを考えていた。
彼杵はいつも隣に居たはずなんだ、でももう居ない。満たされない思いの在り処を僕はどうすればいいんだろう。
今日はとても疲れた。千夏にも変なことを言われて、少し腹が立った。
僕が彼女が居なくても平気だと思うのか…?酷い言い様だな、本当に。
僕が彼女のことを恋愛感情として好きというのは誤解だ。彼杵は、僕の光なだけだ。そんなことをグルグルと頭の中で考えていると、突然声が聞こえた。

────颯海、早く来て

「!?!?」
なんだろう、今のは。
懐かしい声。
彼杵の声だ。
頭の中がうまく整理できない。
気のせいか…?
「彼杵?」
僕はその声に問いかける。
「……………」
やはり何も反応は無かった。
一体なんだったんだろうか。
僕は疲れているのか?
まさかここまで疲れが溜まってるとは、酷いものだ。
それにしても、「早く来て」なんて一体どういうことなんだろう。
もう何も考えたくない。さっさと寝よう。そうして僕は深い眠りについた。




「君は何て名前なんだ?」
小さい少女が僕の名前を聞いている……。
「颯海……」
僕はそう答えた。
「それは苗字か?下の名前は?」
「言いたくない」
「大丈夫だ」
「雪菜…」
そうだ、僕はこの女の子の様な名前のせいでいじめられていた。
「雪菜?同じ名前じゃないか!私も雪菜なんだ。一緒だな、嬉しい!」
少女は男勝りな口調でとても印象に残った。
「君も雪菜なの…?嬉しいの?」
「当たり前さ!!これは運命なんだよ、君と私は特別な関係!」
「そうなの?」
「そうだ!君は私の特別な存在だよ。私の上の名前は彼杵って言うんだ、是非そう呼んで。」
初めて僕の存在を認めてくれた、特別な存在だと言ってくれたのは彼女だった。
ほんのささいなきっかけだった、名前が一緒なだけだった。
それでも僕はとてつもなく嬉しかったんだ。
とても懐かしい思い出だ。
段々声が薄れていく……
嫌だ、まだこのまま……君と……
そうして僕の記憶は途切れた。

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