僕は間違っている

ヤミリ

2話

中庭から出ても状況は変わらなかったので、そのまま教室に戻った。
窓の隙間から入ってくる風がとても心地よかったせいか、席に座っていたらいつの間にか寝ていたみたいだ。針が刺さったような激痛が体全体にはしる。
そんな痛みに抗い席から立ち荷物をまとめる。ふと上を見上げると、もう時計の針は七時を指していた。
もうこんな時間か、達秋と珠里にLINEして帰ろう
そう思いポケットに入っていたスマホを開けメッセージを送ると、教室の外から足音が聞こえた。

────ガララッ

「颯海さん?こんな時間まで何してるの?」

ドアの方に視線を向けると、担任の原川先生が立っていた。
「すいません、寝てしまっていて」
「そう、疲れているみたいね。彼杵さんも居なくなってしまっているものね…家でゆっくり休みなさい」
先生は僕を気遣うよう優しい口調でそう言った。
「はい、そのつもりです。あの、先生は彼杵について何か知っていることはありませんか?少しだけでもいいんです」
せっかくだから先生にも彼杵について聞いてみることにした。
「そうね、、確か彼女が居なくなった二日前に、こんな質問をされたわ。『先生は普通の生活が退屈ではないんですか?』ってね」
と先生は応えた。
「普通の生活?」
「そう。意味が分からなかったから答えれなかったけれど、なぜこんな質問をしたのかしら。早く戻ってきて欲しいわね」
「そうですか、ありがとうございました」
「それじゃあ先生はもう行くわね?さようなら」
そう言い残し先生は教室を去った。
結局彼女がどうして居なくなったのかは分からずじまいで、更に謎が深まってしまった。
本当に手掛かりは見つかるのだろうか、不安で仕方ない。
そんな不安を和らげるよう深呼吸をし、僕も教室から去った。




**
「達秋、颯海はもう帰るってさ。特に収穫は無かったらしい」
「そうか……クソッッッ!結局何にも分からないのかよ…」
私と達秋はついさっき校舎裏で合流した。
色んな人に聞いてみるものの、「知らない」と何度も同じことを言われ、結局分かることは何も無かった。
「それにしても、颯海ってなんであんな冷静なんだろう。あの二人、いつもべったりだったのに」
「ほんとイラつくほどべったりだよな。けど付き合ってないって意味わかんねえよ…」
颯海と彼杵は学校でも、いつでも、どこでも一緒に居る。付き合っていないなんて嘘だと思うほど。
「あのさ…なんで彼杵は居なくなっちゃったのかな…やっぱり何かの事件に…」
「そんな縁起の悪いこと言うな!」
「ご、ごめん……でもここまで証拠とか上がってないのもおかしいよね」
「確かにな、でも家出をしたなら、彼杵は頭が良いから証拠を隠すことも簡単なのかもな…」
「家出ならまだ安心なんだけどね…」
彼杵は学年トップ3の成績を保っていて、その上とても容姿端麗。そして彼女と口論をして勝ったものは居ないのではないかと噂をされているぐらい頭脳明晰。その上運動神経が良く、まさに完璧人間。
けれど颯海はトップの成績で、だからこそ頭が良い同士で気が合うのかもしれない。
人生に恵まれてる彼杵が、家出を選ぶとは思えない…むしろプレッシャーがあったりとか…?
結局考えても考えても答えが出せないでいる。
さっきまで聞こえていた生徒の声も無く、木々が揺れる音が良く聞こえる。
夕陽も既に沈んでいて唯一明かりが付いているのは職員室ぐらいだ。
そろそろ帰ろうと思い、私は達秋に視線を向け、声をかける。
「とりあえず珠里達も帰る?」
「そうするか、送っていく」
「ありがとう!」
そうして珠里達は帰路についた。

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