BLIZZARD!

青色魚

第二章42『告白』

 ──ずっと考えていた。俺のこの秘密を誰かに打ち明ける時、一体なんて言えばいいのか、って。

 フィルヒナーの言葉により再びその場の視線が自分に集まったことに緊張を覚えつつも、翔は冷静に思考を続けていた。

 ──さっきはフィルヒナーさんの言葉でタイミングを逃したけど、改めて話を振られた今もう逃げられない。言うしか、無い。

 そうして翔は改めてその部屋の面々を見つめる。

 そうして何かを告白しようとしている翔を見て、すでにその秘密を知っているフィルヒナーを含め、遠征隊は固唾を飲んで翔のことを見つめているようだった。彼らは翔のこれから発する言葉を真摯に真剣に聞き取ろうとしようとしているのだろう。そうしてその場の集中が自分に集中していることに微かに緊張を覚えつつも、翔はその口を開いた。

「……これから話すことは、信じてはくれないかもしれないですけど、全て事実です」

 そう翔は静かに語り出した。

「とても信じられないような話なんで、『信じてください』なんてことは言えませんし言いません。ただ一つ、信じてくれるにしろ信じないにしろ、ひとまず俺の話を最後まで聞いてください」

 その翔の頼みに、その場にいる人間のうち数人が小さく頷く。その反応を見てから、翔は一つ息を吸い、とうとうその事実を告げた。

「……俺は、過去の世界から来ました」

「──!?」

 その翔の告白に、その場に居た者のほぼ全てが目を見開く。そうして言葉を失う面々をよそに、翔は再び話し出した。

「俺もよく原理は分かってないんですけど、『時間跳躍』っていって、俺は時間を超えられる、つまり未来に行ける力を持ってるみたいなんです。

 俺はこの力が原因で、『氷の女王』が来る前の世界から時間を超えてこの世界に来ました。それが今から三、四年前、つまり基地に来る前の話です。そこからもちょくちょく『時間跳躍』はしましたが、俺が基地ここに来ることになった経緯いきさつはそんな感じです」

 そうして翔は簡単にそれまで自らが歩んできた時間軸を語ったが、それでも『翔が時間を超えた』というその話の大前提が彼らには受け入れ難いものらしく、部屋の面々の反応は芳しくない。

 だがその中で、幾分か柔軟な思考を持っていたのか、ベイリーはその話を理解し翔に質問を発した。

「もしかして、真の騒動の時お前が消えたのもそのせいか?」

 そのベイリーの言葉に、翔は小さく頷く。

 そのベイリーの指すのは、裏切り者である真に翔が攫われそうになった時、つまり翔が初めて自分の意思で『時間跳躍』を使った時のことであった。あの時翔は真から逃げるにあたって数時間時を超え、その間遠征隊は翔のことを捜索していた。つまりその時のことは遠征隊の全員が知っていることであり、だからこそその質問がその場の面々に与えた影響は大きかった。

 そのベイリーの質疑によって、その部屋にいる他の人間も翔の話の具体例しょうこがはっきりとしたようだった。少しずつその場に納得や感嘆の声が響く中、翔は再び話を続けた。

「ついでに言えば、俺はそこにいるキラを助け出す時に、相手を未来に飛ばす・・・力も身に付けました。これに関しては、フィルかキラしか実証できないんですけど……」

 そうして翔がキラの方をちらりと見ると、キラはその視線が指し示すことに感づいたようで、静かな声で話し出した。

「……本当です。僕を助けてくれる時にカケル兄ちゃんは、『時間跳躍』の力を駆使して基地前の敵を突破したんです。

 あの時は吹雪でよく見えませんでしたけど、確かにカケル兄ちゃんが触った人が突然忽然と姿を消してました。あの時は何が起こっているかよく分かりませんでしたが、今思えばあの時カケル兄ちゃんは敵を未来に飛ばしたんだと思います」

 そのキラの証言に、その場の納得がまた少し深まる。が、その理解が進んだからこそ生じた疑問もあったようで、ふと元二は手を挙げてその疑問を発した。

「あー……、お前のその、『時間跳躍』? のことはまぁなんとなく分かったんだが……。

 その話が、どう今の状況に繋がってんだ?」

 それまでの翔の話からその真実を掴み損ねたらしい元二は、そう言った。しかし、そうして未だ状況が掴めないでいる元二を鈍感だと翔は思わなかった。何故ならば翔はまだ『時間跳躍』の全てを話してはいないのだ。この状況を作り出した、『時間跳躍』の巻き込み・・・・についても。

 その元二の疑問に、翔は静かに語り出した。

「言い忘れてましたけど、『時間跳躍』は俺一人しかできないものじゃないんです。さっき言ったように誰かを未来に飛ばす・・・ことも出来ますし、何よりも基本的に、『時間跳躍』が周囲を巻き込んでするものなんです」

 その翔の言葉から真実を粗方あらかた悟ったらしいその場の面々は黙り込んだ。しかしその全員がその話から真実に辿り着いたようではないようで、翔は改めて覚悟を決める。未だ真実に気付けていないその場の数人のために、翔は遂に、その日のことを語り出したのだった。

「……あの日、俺は『時間跳躍』を使おうとしました」

「──っ!?」

 その語り出しから、ようやくその真実に気付き始めた元二などが思わず驚愕の声を上げる。その驚き具合を見て、その後遠征隊かれらが翔にどんな感情を抱くかを想像した翔は、思わず苦しい顔になる。

 ──けど、ここは逃げちゃダメだ。

 そうして改めて覚悟を固めてから、翔は再び話し出す。

「とは言っても、相手を飛ばす方の力です。初めは『新種』だけを未来に飛ばそうとしたんですけど、あの力は相手に接触すふれることが発動条件トリガーなんです。『新種』のあの並々ならぬ知能に、触れて『時間跳躍』を発動するのは不可能だと悟った俺は、触れずに・・・・『新種』を未来に飛ばそうとしました。

 その時、『新種』と対峙していたビー先輩は大怪我を負ってました。俺はその賭けで、先輩を巻き込んで『新種』を未来に飛ばしてしまうかもしれないことに気付きつつも、その勝負に出ました。結果先輩も一緒に未来に飛ばされたとしても、むしろ先輩がその怪我を悪化させるのを留めるだけだ、と思ったからです」

 翔の話をその場の面々は固唾を飲んで見守る。そうして翔は遂に、その自らの『罪』を白状した。

「……結果、それは失敗に終わりました。そしてその『失敗』の結果として、俺は遠征隊みんなを連れて三年後の世界ここに来ちゃったみたいです」

 それは翔にとって精一杯の誠意を込めた告白であった。しかしその言葉に、どこかが癪に触ったらしい一人の男が声を上げた。

「来ちゃったみたい、じゃねえだろ」

 その声の主はその場にいる遠征隊員の一人、ベイリーであった。その小さな身体は、前日までの遠征の疲れによって少し丸まっており、その小ささがより一層強調されていた。そのベイリーの言葉に、翔はその座る方向に向き直る。

 そうして順調に思われていた翔の告白も、波乱の終幕へと向かっていったのだった。

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