BLIZZARD!
第一章19『始まり』
翔は普段物静かで、必要以上の争いごとを好まない。だから付き合う相手は温厚で、話が出来る人種がほとんどだった。
もちろん話が出来る、というのは直接的な意味ではない。同じ人間なのだ。共通の言語さえあれば意思の疎通は可能だろう。しかしそうではない。翔は、話し合うことが出来ないような、荒っぽい人種とは距離を置いていた。
どこの世界にもそういった人種はいると思ったが、やはりこの吹雪の世界にも存在したらしい。そんな訳で翔は、瞬時に目の前のこの、金髪アシンメトリーの男を「気に食わない」部類の人間にカテゴリ分けしたのだった。
と、その時、その「気に食わない」男が、後ろから伸びてきたゲンコツに頭を殴られる。
「オラっ!
ラン、お客さんを乱暴に扱うな」
後ろからにゅっと出てきたのは黒髪ボサボサの男。その顎には無精髭が目立ち、そしてその口には、タバコが加えられていた。
──翔の嫌いなもの二つ目。タバコとそれを吸う人。
どうやら翔はとことんこの二人と相性が悪いらしい。
「……咎められるのはあなたもですよ、ゲンジ様。タバコは貴重だからそんなにしょっちゅう吸わないでください」
「へいへーい」
フィルヒナーの注意にゲンジと呼ばれた男は生返事をする。しかしそれも予想通りであるように、一つため息をついてからフィルヒナーが語り出した。
「……もしカケル様が遠征隊に入るのなら、この二人にはお世話になることになるでしょう」
フィルヒナーのその言葉を聞いて、翔は嫌な予感がした。まさか、とは思うが。
「……黒髪の方は山本(やまもと)元二(げんじ)様、金髪の方は私の愚弟、ランバート・ロンネ。それぞれ遠征隊の隊長と副隊長です」
……どうやら翔は本当に運に恵まれていないらしい。遠征隊のトップ二人が苦手なタイプとは。
するとランバートと紹介された男はフィルヒナーの言葉に眉をひそめ、こちらをジロジロと見てきた。
「なんだって?こんなガキを、俺らの仲間にする、だァ?」
──ああ、もう本当に嫌いだ。
目の前の金髪の男はさも不満げに翔を睨んでいる。こんなガキが戦力になるわけがない、そんなことを思っているのだろう。
──確かにそうだけどさ……。
しかし、それにしても、目の前の男のような態度はやはり好きではなかった。
──意味もなく人を威圧して何かになるのか?俺、あんたに何かしたっけ?
それを口にする勇気はないのだが、精一杯の勇気で睨み返す。
しばらくその硬直状況が続くと、フィルヒナーが助け舟を出した。
「……まだ決まった訳ではありません。どちらにしろ副隊長のあなたに拒否の権利はありませんしね。
カケル様も愚弟の言うことは気にせず、フィーリニ様とご相談して、満足のいく決断をお願いします」
フィルヒナーがそう言うとランバートは翔を睨むのをやめ、また汗を流しにどこかの器具に向かっていった。
翔はひとまず目の上のたんこぶが消えたことに安堵しつつも、先のフィルヒナーの言葉にどこか引っかかるものを覚えた。そういえば、先程から何か忘れている気がする。いったい何を、忘れているのだろう。
──その忘れていたものの正体に気付いた時、翔の背中を冷や汗が流れた。
そんな翔の様子も知らず、ランバートが再びトレーニングを始めたその様子を見届けてから、フィルヒナーは話し出した。
「……すみません、あれでも根は優しい子なのですが。
さて、カケル様。この基地の主要な場所については巡りましたが、何か他に気になることや、聞いておきたいことはありますか?」
フィルヒナーがそう言うのを聞いて、翔は苦々しい顔をして口を開いた。普段の翔であったら、その質問には頷いて答えるであろう。翔はまだこの基地についてもこの世界についても知らないことばかりで、興味もあるからだ。しかしつい先程、翔は気付いてしまったのだ。あるものを、重大なものを放置してしまっていると。
「すみません、とりあえず一旦元の場所に戻っていいですか」
その言葉にフィルヒナーは意外そうに翔を見返したが、その後に続けられた翔の言葉にその理由を悟り納得したのだった。
「……フィルのこと忘れてた」
翔が長らく眠っていたその病室の隣に、その獣の少女は頬を膨らませて待っていた。
「フィル、許してってば」
翔がそう懇願するも、フィーリニは翔と目も合わせようとしない。その怒った顔も何とも可愛らしいが、しかし今はそんなことは言っていられないのだ。
「フィル、ちょっと俺の方も色々あってゴタゴタしてたんだ。だから……その……本当にすっかり忘れてた」
その言葉にフィーリニはガルガルガルと牙を立ててこちらを睨む。参った。どうやら相当おかんむりらしい。
それにしても、本当に自分が情けないとは思う。生死を共にした、本当に大切な存在であるフィーリニの存在をすっかり忘れて基地巡りになど惚けるとは。
「……フィルぅ……」
「……」
自分でも驚くほどの情けない声が出たが、それでもフィーリニは機嫌を直してはくれない。そうして翔が泣きそうな顔になると、松つんが仲介役をしてくれた。
「フィルちゃん、ごめんな。ちょっと俺らが無理にこいつを連れ出してたんだ。翔は悪くない。許してやってくれるか?」
その言葉にフィーリニは小さく頷いた。が、またすぐに翔にガルガルと牙をむいた。どうやら完全に許してもらうのはまだまだ先のようだ。
「……フィル」
翔は再三彼女に呼びかける。しかしその口調は、以前のような情けないものではなかった。しっかりとした口調で、翔は覚悟を決めてこう言った。
「やっとこんな安全なところに来れて、こんな事を言うのは馬鹿だと思うんだけどさ、
……俺と一緒に、遠征隊に入ってくれないか?」
その言葉にフィルヒナーが驚いて翔を見る。
「……カケル様、いいのですか? 私達が言い出したことですが、遠征はとても危険です。それに、カケル様になんの利益にもなりません」
「いいんですよフィルヒナーさん。俺、『決めた』んです」
改めて基地を巡ってみて、確かに今も生きている、『氷の女王』の脅威に晒されている人達の生活を見た。その中で絶望に抗わんと、武器を作る少女にも、身体を鍛える脳筋にも出会った。もちろんそれらの出会いも翔の決断の助けにはなった。しかしその前に、翔の意思はもう決まっていたのだ。
異世界召喚ではないとはいえ、実際には時間跳躍であったとはいえ、何にしろこんな世界に飛ばしてきたことには変わりはない。このふざけた運命(シナリオ)を書いた神様とやらと、そして何より、この世界を無機質な『白』に染め上げたあの『氷の女王』に。
抗わなければいけない。抗わずにはいられない。もう彼らの好きなようにはさせたくはないのだ。
神様は翔のことが嫌いらしい。ならば翔も神様には頼らない。この冬を翔の手で終わらせて、一矢報いてやる。翔はそう決めたのだった。ならばもう、迷うまでもない。
「俺は遠征隊に入ります。いや、入らせてください!」
「……はい。勿論です。ありがとうございます!」
そう答えるフィルヒナーに、翔はやはり物足りなさを感じて続けた。
「あと、あの、さっきから気になってたんですけど
敬語、無理に使わないで結構ですよ?」
その言葉にフィルヒナーはあたふたとし始める。
「え、ええとしかし、その、一応カケル様は恩人ということになっていまして……」
「ほとんど俺何もやってませんもん。普通に生きていれば俺の方が歳上だったでしょうが、時間跳躍のせいでフィルヒナーさんの方が歳上ですし。それに……
俺が、フィルヒナーさんと仲良くなりたいんです」
遠征隊に入る、これからも危険な日々を生きていく。その覚悟をしたと同時に、彼女とも仲良くなっていこうと、翔は決心していたのだった。
翔は人付き合いの得意な方ではない。しかし、得意でないからと言って、それと向き合わないのは誤りだと気付いたのだ。他のこの基地の避難民達とも。遠征隊のメンバーとは反りが合わないかもしれないが、なるべく仲良く接していきたい。折角この吹雪の世界で、巡り会うことが出来たのだから。
「……という訳で、すみません。お願い出来ますかね……?」
その一歩の歩み寄りなど、松つんなどの社交性のある人にとっては軽々と越えていく一歩。しかし翔には大きな一歩なのだ。そしてどんな小さな一歩でも、踏み出さなければ前に進むことは出来ない。翔と彼らがどれだけの月日を経て絆を深めることが出来るかは分からないが、何にしろこの一歩がその『始まり』である。
「……」
しばらくフィルヒナーは押し黙っていたが、決心がついたのか、一つため息をついて、手を差し出して口を開いた。
「……分かった。まだ少し慣れないかもしれませ……しれないが、よろしく頼む」
確かに少し不器用な様子だな、と苦笑しながら、差し出された手に応じたのだった。
「……それと」
と、それで終わりかのように思えたフィルヒナーの言葉に続きが足される。
「……遠征隊の指揮は私が行っている。カケルは私達の恩人ではあるが、それでも訓練には容赦はしない。先程トレーニングルームを見て軽蔑していたようだが、みっちりしごかせてもらうぞ?」
「敬語外すのに慣れるの早すぎませんかね!?」
やはり彼女の素はあの冷淡な性格らしい、と苦笑しながら、改めて向き直す。フィルヒナーの言葉通り、これから先はこれまで以上に過酷な日々が始まっていくのだろう。『氷の女王』を退けた『恩人』、もしくは『客人』としての対応はもう先の翔の言葉で終わったのだ。これからは翔は、この基地に住まう一人の人として生活していく。厳しい生活になるだろうが、それでも構わない。
「……それじゃあ、改めて色々と、よろしくお願いします!」
「了解だ。カケル、早速明日から鍛えていくぞ!」
──そうして初めて、翔のこの世界での生活が、『始まった』のだから。
もちろん話が出来る、というのは直接的な意味ではない。同じ人間なのだ。共通の言語さえあれば意思の疎通は可能だろう。しかしそうではない。翔は、話し合うことが出来ないような、荒っぽい人種とは距離を置いていた。
どこの世界にもそういった人種はいると思ったが、やはりこの吹雪の世界にも存在したらしい。そんな訳で翔は、瞬時に目の前のこの、金髪アシンメトリーの男を「気に食わない」部類の人間にカテゴリ分けしたのだった。
と、その時、その「気に食わない」男が、後ろから伸びてきたゲンコツに頭を殴られる。
「オラっ!
ラン、お客さんを乱暴に扱うな」
後ろからにゅっと出てきたのは黒髪ボサボサの男。その顎には無精髭が目立ち、そしてその口には、タバコが加えられていた。
──翔の嫌いなもの二つ目。タバコとそれを吸う人。
どうやら翔はとことんこの二人と相性が悪いらしい。
「……咎められるのはあなたもですよ、ゲンジ様。タバコは貴重だからそんなにしょっちゅう吸わないでください」
「へいへーい」
フィルヒナーの注意にゲンジと呼ばれた男は生返事をする。しかしそれも予想通りであるように、一つため息をついてからフィルヒナーが語り出した。
「……もしカケル様が遠征隊に入るのなら、この二人にはお世話になることになるでしょう」
フィルヒナーのその言葉を聞いて、翔は嫌な予感がした。まさか、とは思うが。
「……黒髪の方は山本(やまもと)元二(げんじ)様、金髪の方は私の愚弟、ランバート・ロンネ。それぞれ遠征隊の隊長と副隊長です」
……どうやら翔は本当に運に恵まれていないらしい。遠征隊のトップ二人が苦手なタイプとは。
するとランバートと紹介された男はフィルヒナーの言葉に眉をひそめ、こちらをジロジロと見てきた。
「なんだって?こんなガキを、俺らの仲間にする、だァ?」
──ああ、もう本当に嫌いだ。
目の前の金髪の男はさも不満げに翔を睨んでいる。こんなガキが戦力になるわけがない、そんなことを思っているのだろう。
──確かにそうだけどさ……。
しかし、それにしても、目の前の男のような態度はやはり好きではなかった。
──意味もなく人を威圧して何かになるのか?俺、あんたに何かしたっけ?
それを口にする勇気はないのだが、精一杯の勇気で睨み返す。
しばらくその硬直状況が続くと、フィルヒナーが助け舟を出した。
「……まだ決まった訳ではありません。どちらにしろ副隊長のあなたに拒否の権利はありませんしね。
カケル様も愚弟の言うことは気にせず、フィーリニ様とご相談して、満足のいく決断をお願いします」
フィルヒナーがそう言うとランバートは翔を睨むのをやめ、また汗を流しにどこかの器具に向かっていった。
翔はひとまず目の上のたんこぶが消えたことに安堵しつつも、先のフィルヒナーの言葉にどこか引っかかるものを覚えた。そういえば、先程から何か忘れている気がする。いったい何を、忘れているのだろう。
──その忘れていたものの正体に気付いた時、翔の背中を冷や汗が流れた。
そんな翔の様子も知らず、ランバートが再びトレーニングを始めたその様子を見届けてから、フィルヒナーは話し出した。
「……すみません、あれでも根は優しい子なのですが。
さて、カケル様。この基地の主要な場所については巡りましたが、何か他に気になることや、聞いておきたいことはありますか?」
フィルヒナーがそう言うのを聞いて、翔は苦々しい顔をして口を開いた。普段の翔であったら、その質問には頷いて答えるであろう。翔はまだこの基地についてもこの世界についても知らないことばかりで、興味もあるからだ。しかしつい先程、翔は気付いてしまったのだ。あるものを、重大なものを放置してしまっていると。
「すみません、とりあえず一旦元の場所に戻っていいですか」
その言葉にフィルヒナーは意外そうに翔を見返したが、その後に続けられた翔の言葉にその理由を悟り納得したのだった。
「……フィルのこと忘れてた」
翔が長らく眠っていたその病室の隣に、その獣の少女は頬を膨らませて待っていた。
「フィル、許してってば」
翔がそう懇願するも、フィーリニは翔と目も合わせようとしない。その怒った顔も何とも可愛らしいが、しかし今はそんなことは言っていられないのだ。
「フィル、ちょっと俺の方も色々あってゴタゴタしてたんだ。だから……その……本当にすっかり忘れてた」
その言葉にフィーリニはガルガルガルと牙を立ててこちらを睨む。参った。どうやら相当おかんむりらしい。
それにしても、本当に自分が情けないとは思う。生死を共にした、本当に大切な存在であるフィーリニの存在をすっかり忘れて基地巡りになど惚けるとは。
「……フィルぅ……」
「……」
自分でも驚くほどの情けない声が出たが、それでもフィーリニは機嫌を直してはくれない。そうして翔が泣きそうな顔になると、松つんが仲介役をしてくれた。
「フィルちゃん、ごめんな。ちょっと俺らが無理にこいつを連れ出してたんだ。翔は悪くない。許してやってくれるか?」
その言葉にフィーリニは小さく頷いた。が、またすぐに翔にガルガルと牙をむいた。どうやら完全に許してもらうのはまだまだ先のようだ。
「……フィル」
翔は再三彼女に呼びかける。しかしその口調は、以前のような情けないものではなかった。しっかりとした口調で、翔は覚悟を決めてこう言った。
「やっとこんな安全なところに来れて、こんな事を言うのは馬鹿だと思うんだけどさ、
……俺と一緒に、遠征隊に入ってくれないか?」
その言葉にフィルヒナーが驚いて翔を見る。
「……カケル様、いいのですか? 私達が言い出したことですが、遠征はとても危険です。それに、カケル様になんの利益にもなりません」
「いいんですよフィルヒナーさん。俺、『決めた』んです」
改めて基地を巡ってみて、確かに今も生きている、『氷の女王』の脅威に晒されている人達の生活を見た。その中で絶望に抗わんと、武器を作る少女にも、身体を鍛える脳筋にも出会った。もちろんそれらの出会いも翔の決断の助けにはなった。しかしその前に、翔の意思はもう決まっていたのだ。
異世界召喚ではないとはいえ、実際には時間跳躍であったとはいえ、何にしろこんな世界に飛ばしてきたことには変わりはない。このふざけた運命(シナリオ)を書いた神様とやらと、そして何より、この世界を無機質な『白』に染め上げたあの『氷の女王』に。
抗わなければいけない。抗わずにはいられない。もう彼らの好きなようにはさせたくはないのだ。
神様は翔のことが嫌いらしい。ならば翔も神様には頼らない。この冬を翔の手で終わらせて、一矢報いてやる。翔はそう決めたのだった。ならばもう、迷うまでもない。
「俺は遠征隊に入ります。いや、入らせてください!」
「……はい。勿論です。ありがとうございます!」
そう答えるフィルヒナーに、翔はやはり物足りなさを感じて続けた。
「あと、あの、さっきから気になってたんですけど
敬語、無理に使わないで結構ですよ?」
その言葉にフィルヒナーはあたふたとし始める。
「え、ええとしかし、その、一応カケル様は恩人ということになっていまして……」
「ほとんど俺何もやってませんもん。普通に生きていれば俺の方が歳上だったでしょうが、時間跳躍のせいでフィルヒナーさんの方が歳上ですし。それに……
俺が、フィルヒナーさんと仲良くなりたいんです」
遠征隊に入る、これからも危険な日々を生きていく。その覚悟をしたと同時に、彼女とも仲良くなっていこうと、翔は決心していたのだった。
翔は人付き合いの得意な方ではない。しかし、得意でないからと言って、それと向き合わないのは誤りだと気付いたのだ。他のこの基地の避難民達とも。遠征隊のメンバーとは反りが合わないかもしれないが、なるべく仲良く接していきたい。折角この吹雪の世界で、巡り会うことが出来たのだから。
「……という訳で、すみません。お願い出来ますかね……?」
その一歩の歩み寄りなど、松つんなどの社交性のある人にとっては軽々と越えていく一歩。しかし翔には大きな一歩なのだ。そしてどんな小さな一歩でも、踏み出さなければ前に進むことは出来ない。翔と彼らがどれだけの月日を経て絆を深めることが出来るかは分からないが、何にしろこの一歩がその『始まり』である。
「……」
しばらくフィルヒナーは押し黙っていたが、決心がついたのか、一つため息をついて、手を差し出して口を開いた。
「……分かった。まだ少し慣れないかもしれませ……しれないが、よろしく頼む」
確かに少し不器用な様子だな、と苦笑しながら、差し出された手に応じたのだった。
「……それと」
と、それで終わりかのように思えたフィルヒナーの言葉に続きが足される。
「……遠征隊の指揮は私が行っている。カケルは私達の恩人ではあるが、それでも訓練には容赦はしない。先程トレーニングルームを見て軽蔑していたようだが、みっちりしごかせてもらうぞ?」
「敬語外すのに慣れるの早すぎませんかね!?」
やはり彼女の素はあの冷淡な性格らしい、と苦笑しながら、改めて向き直す。フィルヒナーの言葉通り、これから先はこれまで以上に過酷な日々が始まっていくのだろう。『氷の女王』を退けた『恩人』、もしくは『客人』としての対応はもう先の翔の言葉で終わったのだ。これからは翔は、この基地に住まう一人の人として生活していく。厳しい生活になるだろうが、それでも構わない。
「……それじゃあ、改めて色々と、よろしくお願いします!」
「了解だ。カケル、早速明日から鍛えていくぞ!」
──そうして初めて、翔のこの世界での生活が、『始まった』のだから。
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