外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第82話 凍り付きそうです

 微妙な空気感のまま、聡達はギルドに到着する。歩いている最中、言葉は無かったが、流石にここに来て何も言わない訳にもいかないので、聡は口を開く。

「えっと、これから受付嬢のエーリカっていう人に、軽い状況説明した後、ここのギルドマスターのルドガーさんに説明して、最終的にこの街の代官である、コルネリウス様に話を通します。何か質問はありますか?」

「いえ、今のところはありません。」

「そうですか。なら、行きましょうか。一応中に入ったら、なるべく離れないで下さい。酔っ払った連中に、絡まれる可能性がありますので。」

「わ、分かりました。」

 フラウは緊張の面持ちで、聡の傍に近寄る。そこまで脅すつもりでは無かったのだが、結果として対応しやすい位置に来てくれたので、良しとする事にして、聡はギルドへと入る。

 辺りを見回すと、酔っ払った連中は数人居るものの、やはり空いており、これなら安全だろう。

「じゃあまず、受付に行きますね。」

「はい。」

 空いてるギルド内を、真っ直ぐエーリカの方に歩く聡。やはり、絡まれはしないものの、多くの視線を感じる。
 だがしかし、その視線の中に、フラウに向けられた熱い視線では無く、聡に対して向けられた、絶対零度の視線も感じた。

「…あれ?」

 聡の顔が引き攣る。そして、その冷たさに、足取りが重くなり、中々思うように進めなくなってしまう。

「どうかされましたか?」

「…。」

 そんな聡の後ろを歩いているフラウは、不思議そうに聞いてくるが、今の聡に答える余裕は無く、その視線向けてくる人物である、エーリカの元へ真っ直ぐ向かう事にだけ集中する。

「あら、サトシ。随分と早いお戻りね。」

 何とかエーリカの元へと辿り着いた聡に、彼女は非常に冷たい声音で声を掛けてくる。

「あ、あぁ、ちょいとトラブルが、発生してね…。な、何でそんなに、怒ってるんだ?」

 彼女の視線と、放っているプレッシャーに、息苦しさを感じつつも、聡は何とか声を出す。今にも震え出しそうな声だったが。

「何でかしらね?」

「わ、分からないけど、ちょっとルドガーさんの元に案内してくれると嬉しいんだけど?ちゃんと状況説明もするから。」

 何が何だか分からないが、取り敢えずはルドガーに話を通さないと、どうしようも無いので、取り次いでもらおうと、笑顔を浮かべながらお願いする。いや、多分笑顔は浮かべられていなかっただろう。兎も角、中途半端な表情の聡は、どうやらお怒りのようであるエーリカに、何とか話をする。

「…分かったわ。取り敢えず、今は追求しないでおくわね。」

 理由は分からないが、エーリカの内面では、烈火の如く怒りが燃え上がっているのであろうが、聡に向ける視線は絶対零度。何とも器用だなぁと、半ば現実逃避のように、アホな事を思う聡。

「じゃあ、着いて来て。」

 スクッと席を立つと、そのままエーリカは2人を促して、ルドガーの執務室に向かおうとする。

「あれ?許可は取らなくて良いの?」

「許可?フフ…。そんな物は必要無いわ。だって、どんな仕事よりも、サトシに説明してもらう方が、よっぽど重要だもの。」

 聡が聞くと、エーリカは目が笑ってないのに、口元だけ笑顔を作りながら、淡々とした口調で答える。

「そ、そうだよね。アハハ…。」

 顔を引き攣らせながら、全力で同意しておく聡。フラウは怯えた表情を、エーリカに向けている。

 ルドガーの執務室前まで来たエーリカは、『コンコン』とドアをノックすると、返事を聞きもせず、ガチャリと勢い良く開け放つ。

「失礼します。サトシが話をしたいそうなので、連れて来ました。私も同席して欲しいそうです。」

「…は?いや、待ってくれエーリカ。何が何だか分からないんだが?」

「何か言いましたか?」

「いえ、何も言っておりません。話を聞かせていただきます。」

 ノックからノータイムで入室したエーリカに、少し不服そうな表情をするルドガーだったが、その文句を言う前に、彼女のニッコリとした笑みにより、黙らされてしまう。

 キビキビと動き出したルドガーは、仕事机からソファへと素早く移動して、即座に話が聞ける状態になる。

「さてサトシ。こっちに来て、ちゃんと説明してね。」

「い、Yes,ma'am!」

 グイグイと袖を引っ張られながら、聡もルドガーの対面のソファに座る。そして、その隣には、当然のようにエーリカが腰をかけて、聡にプレッシャーをかけてくる。

「ふ、フラウさんは…じゃあ、そっちに座って下さい。」

 3人ぐらいなら、余裕で座れそうだったので、聡はエーリカの隣に座るように言う。本来なら、エーリカがエドガー側に座るべきだろうが、今の聡にそんな事を言える勇気は無かった。

「…はい、分かりました。」

 聡の言葉に、フラウは恐る恐るエーリカの隣に座る。怯えているのか、距離は精一杯に空けているが。

「じゃあ、彼女は何者なのか、丁寧に教えてくれると嬉しいな。」

 超笑顔のエーリカは、聡に説明を促すのであった。

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