外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第49話 手加減は難しいです

「クソガキ!何余裕ぶっこいてんだ!殺すぞ!」

「いや、その剣見れば、殺意あるの分かりますから、改めて言って頂かなくても、大丈夫ですよ?」

 フードから見える聡の口元は、弧を描いていた。それは、先程までルドルフやエーリカと会話していた時に浮かべていた笑みでは無く、絡んできたおっさんに対する、侮蔑の笑みであった。

ーさて、実験をするか。トイフェルを倒した後に俺が戦ったのは、あのクソ貴族の部下の兵士達と、フレなんちゃらっていうアホだけだ。ー

 アノマリーの配下の兵士と、フレシェットを思い浮かべる。
 そいつらと戦った時、どのような攻撃手段を用いたかというと、徒手格闘である。その際、手加減を間違えてミンチになるだとか、骨も残らないレベルで消し飛ばすとか、そんな物騒な事にはならなかった。

ーつまり、素手なら手加減がちゃんと効くって事だ。実際に、ルドルフさんだって生きてるしな。ー

 そう考えながら、ルドルフの方をチラリと見る。

「余所見とはいい度胸だ!このクソガキ!!」

 その瞬間、勢い良く聡に、斬りかかってくるおっさん。上段からの斬り下しだ。アルコールの匂いがプンプン漂う程飲んでいるのに、実にしっかりとした動きである。そんなに聡を斬り殺したいのだろうか。

 だが、聡にとっては欠伸が出る程の攻撃速度であり、軽く1歩、左側に動いて体を横にすれば、簡単に躱せる。

「ちっ!」

 舌打ちをしながら、今度は水平に、聡の首を狙って斬りかかってくる。

「…。」

 それを、数歩下がって楽々躱す聡。
 そこから、約2分ほど、剣の腹を手の平で押して軌道を変え、しゃがみ、飛び、身を捩り、軽く往なす。

ーふむ。なるほど。思い通りに体が動くな。本気で動こうとしなければ、最初の時、走りでやばい速度が出たようにはならないのか。ー

「く、クソがっ!はぁ…!避けてばかりじゃねぇか!この玉無し野郎!!」

 息が上がった状態でも、聡を貶す事を忘れない、チンピラの鏡の様なおっさん。

「…あ?」

 それに対し、思わず低い声を出してしまう聡。

「何だ?気に障ったのか?この臆病者が!!そのフードも、てめぇが不細工なのを隠したいから被ってるんだろ?」

「…不細工で悪かったな畜生!せっかく手加減してやってたのに、そんなに死にたいか!!このクソジジイが!!」

 コンプレックスを刺激され、完全にブチ切れた聡は、灰色のローブを脱ぎ、そのまま床に叩き付ける。
 怒りのあまり、周囲に大量の光り輝く魔力が、風となって吹き荒れ、見る者全てを威圧する光景となっていた。

 その魔力に圧倒され、周囲で野次馬になっていた冒険者達は、目をひん剥いて、一様に驚きと、恐怖の表情を浮かべ、無言のまま、聡から目が離せないでいた。

 …別に顔を隠したくてフードを被っていた訳では無く、黒髪黒目を隠した方が良いという理由からだったが、そんな事は聡の頭から完全に吹き飛んでいた。

「え、いや、その…。」

「あ!?何つった!?声が小さいんだよ!クソ野郎が!!」

 おっさんは酔いが完全に覚めたのか、赤ら顔から一転、青ざめた顔色で、床にへたり込んでいる。
 そこに、更に威圧する聡の額には、青筋が浮かんでいた。

「おい!どういう死に方がしたいか言ってみろ!!その通りに殺してやる!!」

「…。」

 流石に殺すつもりは無いが、ヒートアップして止まらなくなった聡は、ついそんな事を口にしてしまう。
 そんな聡の言葉に対して、うんともすんとも言わないおっさん。どこか表情が虚ろだ。

「お、おい、サトシ…。」

 そこに、ルドルフが顔を青ざめさせ、引き攣る表情を必死に取り繕いながら、声をかける。

「…何ですか?」

 実に不機嫌そうに聞き返す聡。
 敬語を使ってるのが、まだ理性が残ってる証拠だろう。取り敢えず、怒気は収め、魔力の放出はストップされる。

「いや、ソイツ、気絶してるぞ?」

 プレッシャーが無くなったため、ほっと一息つきながら、ルドルフはおっさんに指差して言う。

「…は?」

 見ると、おっさんは白目を剥き、下から色々と垂れ流しながら、気を失っていた。
 それを見て、漸く我に返った聡は、ぎこちない笑みを浮かべて言う。

「あ〜、ちょっと我を忘れちゃいました。あははは…。」

「ちょっとでこれかよ…。サトシが本気でキレたら、この街、消し飛ぶんじゃねぇか?」

 呆れたように言うルドルフ。

「ど、どうでしょうか?やった事が無いので何とも…。」

「いや、そこは否定しろよ!つーか、ほんとに出来るのか!?」

「さ、さぁ?」

 無限の魔力に物を言わせて、真っ黒な歴史の、これまたドス黒いノートに刻まれし魔法を使えば、余裕で大陸ぐらいなら消し飛ばせると思っている聡。
 その為、曖昧な返事しか返せないのだった…。

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